2013年12月22日11時17分掲載  無料記事
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ジョン・ロック著 「統治二論」〜政治学屈指の古典〜

  将来、思想統制が行われ、本の選抜と焼却が行われる日が来るとしたら、まず最初に失われる本の中に、英国の近代政治思想家ジョン・ロック(1632−1704)の「統治二論」があるのではなかろうか。思想統制と言えば戦前・戦中のイメージでマルクス主義や社会主義のことが頭に浮かぶだろうが、今問われているのは近代政治思想なのである。 
 
  1690年に出版された「統治二論」はアメリカの独立宣言やフランス革命に影響を与えたとされる。その思想的な根拠は以下の3点である。 
 
_Ω⊃声説を論破したこと 
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  ここで本のタイトルとなっている統治「二論」とは本書が前半と後半に分かれているからである。上の3項目で言えば,前半に、△鉢が後半に収められている。そして、,硫Ω⊃声説の否定が半分位を占める。 
 
  当時、王権神授説を唱えた政治思想家には様々な論客がいた。ここでロックが論破するために選んだ王権神授説の論者は同じ英国のロバート・フィルマーである。王権神授説とは絶対王政に政治的権威を認めるために提唱された政治思想である。それはフィルマーによれば旧約聖書に人類の始祖として登場するアダムに神が人民の王たる権限を授け、その王権がアダムの長男を通して、代々相続されたとする思想である。「え、まじっすか?」と思う人もいるだろうが、実際、アダムの時代に神が与えた政治的権力が何千年とかけて受け継がれてきたとするのが王権神授説なのである。 
 
  ロックはフィルマーの論拠をこう紹介している。 
 
  「われわれの著者(注:フィルマー)がアダムの王政を基礎づける聖書の次の箇所は、「創世記」の第三章十六節にある「汝は夫を慕い、彼は汝を治めん」である。彼は、「考察」の244頁で、「ここにわれわれは統治の原初的な認可を見出す」と述べ、更にそこから、続く部分で、「最高権力は父たる地位のうちに据えられ、ただ一種類の統治、すなわち王政に限定される」との結論を導く。彼の場合、前提がいかなるものであれ、結論は常にこれであり、聖書の本文のどこであれ、治めるという言葉が出てくると、直ちに、絶対王政が神授権によって確立されてしまうのである」 
 
  アダムとは知恵の実をかじった後に、いちじくの葉で局部を隠した男性である。フィルマーはアダムが妻であるイヴを治めた時の権力をもって、王政の政治的な絶対的権威を基礎づけようとした。それらに対してロックが1つ1つ論破していくのが前半部分である。この論破の仕方はソクラテスの論法に近い。相手の言い分を聞きながら、その矛盾を1つ1つ突いていくのである。 
 
  この論破のプロセスは、いかにも聖書を中心とした欧州の政治論議で一見退屈のように感じられるが、読んでみると意外と面白い。その理由はロックが平易な言葉で論を進めていることにある。もとより、優れた政治思想家は難解な用語を並べて大衆を煙にまこうとしない。この平易にして、政治思想の原点を語るところが本書の存在意義だろう。欧米で長く本書が政治学の第一のテキストとされてきたという理由の一端もここにあるのではないだろうか。思想の内容だけでなく、その語り方も重要なのである。 
 
  前半で王権神授説を論破した後、ロックは△鉢に進む。政治的権力の起源が神によるのでなければ、では政治的権力は何に由来するのか、というテーマである。絶対王政の政治的権威は神から与えられ代々相続されてきたものではなく、人民が「社会契約」を王と結ぶことによって初めて人民が王に政治的な権威を信託したとする社会契約説をロックはここで提唱する。社会契約説と言えばすぐにジャン=ジャック・ルソー(1712年- 1778年)が思い浮かぶが、ロックはルソーにはるかに先立っている。社会契約を結ぶことによって、人民は人民が固有に持つプロパティ(固有権:財産だけでなく身体の安全や自由も含むとされる)を王の統治に委ねたと考える。 
 
  ロックに論破された王権神授説は古く保守的な思想に見えるが、王権神授説自体が中世のキリスト教会の軛から、王権を独立させようとした歴史的な産物だとされる。王権神授説によって、王が直接神から権威を託されたのであれば、王はキリスト教会にいちいちおうかがいを立てる必要はない。その根拠を王権神授説者は聖書の解釈から引き出そうとした。そして王権神授説によって、絶対王政の権威を正当化させることができ、近代国家誕生の前夜に立ったと考えられるのである。一方、ロックはその絶対王政から、人民主権に移行するための近代市民革命につながる思想をこの「統治二論」で提唱した。この政治思想がアメリカの独立宣言やフランス革命につながったとされる。 
 
  ここでロックはもし王が、あるいは統治者が人民からの信託を裏切って、人民の「固有権」を守らず、恣意的な統治を行い、人民の固有権に危害を加えるのであれば、すでにその信託は裏切られたと考えられ、人民には抵抗する権利があるという「抵抗権」の思想を提唱している。人民の信託によって生まれた最高の政治権力である「立法部」が、人民の意思に反して恣意的な立法を行えば「立法部」は変質したと考えられ、人民と立法部の間の信託関係は最早ないと考えられる。そこで人民は新たに「立法部」を立ち上げる正当な権利があるとするのである。 
 
  アメリカ独立戦争(1775-1783)でも、フランス革命(1789)でも、最後のひと押しとなったのがこの抵抗権=人民が圧政に対して武力をもって抵抗する権利である。アメリカ独立戦争の場合、宗主国である英国が欧州で七年戦争(1756-1763)を行って、その戦費を植民地であるアメリカから重税として取立てようとした。そのことにアメリカ市民が怒り、蜂起したのがアメリカ独立戦争である。当然ながら、米国民も米政治家もこの建国の原点を片時も忘れることはない。英国の圧政に米市民が武器を持って立ち上がった歴史である。 
 
  余談ながら米国は〜たとえそれが米国の国益にかなったものであったとしても〜他国の内戦に介入する場合に必ず、不当な圧政に抵抗して国を作った米国の建国の歴史を重ねているのである。ロックが描いている「立法部」とは何ぞや、と思うむきもあるかもしれないが〜その正統性はここでは度外視するとして(というのも国民が信託を与えたかどうか不明だから)〜「アラブの春」でリビアやシリアに生まれた反政府勢力による暫定政権はまさに新たな「立法部」に他ならない。ロックの抵抗権に基づいて生まれたと考えられる「立法部」にアメリカやフランスなど欧米諸国は武器と資金と秘密訓練を与えてきた。 
 
  人民の固有権に危害をもたらすものは国内の勢力であれ、外国の勢力であれ、同等にロックは捉えている。だから、外国勢力に人民の固有権を売り渡す悪しき統治者は抵抗されて当然であるとロックは語っている。この思想が長年、欧米の政治思想の原点として読み継がれ、語り継がれてきたものである。 
 
村上良太 
 
 
■ジョン・ロック著「統治二論」(岩波文庫、加藤節訳) 
  John Locke ' Two treatises of government' 
(1690)。「市民政府論」とも呼ばれる。 
 
 
■沖縄の基地問題をアメリカに学ぶ 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201006101829384 
 
■沖縄の基地問題をアメリカに学ぶ 2 
    〜 トーマス・ペインという生き方 〜 
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■ハンナ・アレント著 「革命について」 〜アメリカ革命を考える〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401201800171 
■ジョン・スチュアート・ミル著「自由論」 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306171108171 
 
■「ザ・フェデラリスト」(ハミルトン、ジェイ、マディソン) 
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■ジャン=ジャック・ルソー著「社会契約論」(中山元訳) 〜主権者とは誰か〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401010114173 
 
■トマス・ホッブズ著 「リヴァイアサン (国家論)」 〜人殺しはいけないのか?〜 
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■「独立宣言と米憲法」(The Declaration of Independence and The Constitution of the United States) 
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