2018年12月30日13時49分掲載  無料記事
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外国人労働者

「労働力・労働機械」としてではなく「人」としての外国人労働者受け入れを!〜APFS労働組合・山口智之委員長が語る労働現場の実態〜

 安倍政権が、外国人労働者の受け入れを拡大するべく“改定入管難民法”を成立させてから一夜明けた12月9日、都内で外国人労働者にまつわる学習会が開催された。 
 講師を務めたのは、外国人労働者の支援に特化して活動する「APFS労働組合」の山口智之委員長。2007年6月の設立時から10年以上に亘り、ミャンマー、パキスタン、バングラデシュ、インド、エチオピアなどから日本にやって来た人々の労働問題を解決してきた労働組合のリーダーである。 
 “APFS”とは「Asian People´s Friendship Society」の頭文字を取ったもので、山口委員長は「『アジアの人々と友好に社会を作っていきましょう』という願いを込めた言葉です」と語っている。 
 
 APFS労組は、全組合員の7割をミャンマー人が占めていることや、労組書記長を日本語が堪能なミャンマー人が務めていることもあって、在留ミャンマー人の支援に強みがあり、関東圏で発生したミャンマー人関係の労働問題はAPFS労組に持ち込まれることが多い。 
 また、在留ミャンマー人の男女とも、多くが飲食店で働いていることから、APFS労組に持ち込まれる労働相談は、飲食店での不当解雇や賃金未払、労働災害にまつわる相談が多いとのことである。 
 
<APFS労組が対応した労働災害の一例> 
 
 山口委員長は、講演に先立って「国会で雑に入管難民法が改定されてしまったその裏で、日本国内で移住労働者に対し、いかに酷い権利侵害が起きていることを知っていただきたい」と前置きし、APFS労組が取り組んだ労災事件の被害者である40代のミャンマー人女性・カインさんを紹介した。 
 
 カインさんは、今年3月下旬、東京・飯田橋で営業する著名な天ぷら屋の洗い場で働いていたところ、故意かどうかは不明だが、隣りにいた日本人の職人から熱湯を左腕にかけられて大火傷を負った。学習会では、カインさんの左手首から肘までの部位が、皮がめくれて赤くただれた様子を撮った写真が示された。 
 しかし、店内にいた日本人職人は、誰もカインさんを病院に連れていくことなく、放置したまま「火傷したなら帰っていいよ」と言い放ったという。 
 日本語があまり得意でないカインさんは、泣きながら1人で病院に行き、治療を受けたが、会社は労災保険(労働者災害補償保険)適用の対応を取らなかったことから、カインさんは自分の国民健康保険で治療せざるを得なかったそうだ。 
 そして、仕事ができないカインさんは、1週間ほど自宅で静養していた4月上旬、経営者からラインで「カインちゃん、病院に行くときは予約しなさい。言葉通じるから、電話してちゃんと予約しなさい。それと、もし明後日から仕事に復帰できなければ、他の人にやってもらいます。よろしくお願いします」というメッセージが送られてきたというのだ。 
 カインさんは、働きたいのに働けない焦りと、職を失いかねない恐怖から、精神的に耐えられなくなり、同じく日本で働くミャンマー人労働者の紹介でAPFS労組に駆け込んだという次第である。 
 
 応対した山口委員長は、カインさんから話を聞きだすと、それ以前にも右足にも火傷を負ったのに、それも労災保険でなく、カインさんの国民健康保険を使って治療させていたという別件の 嶇災隠し」に加えて、◆峪超搬緻なГぁ廖↓「有給休暇の未付与」(カインさんは、有給休暇なるものを教えられなかった)、極めつけはぁ崋匆駟欷院雰鮃保険と厚生年金保険)及び雇用保険の未加入」まで判明した。カインさんは、同店で2015年から午前9時30分から午後11時30分までのフルタイム、週6日勤務を続けていたので、当然、厚生年金保険に入らなければいけないのに、国民健康保険・国民年金だけだったのである。 
 会社は、就業規則があるにもかかわらず、外国人労働者に対して周知徹底させていなかったのだ。 
 
 山口委員長は、 
「労災で、皮膚がベロっと剥けたような状態になっているのに、掛けた声は『お前、帰れ』だけで、その後、何日かして『職場に出てこなければ、別の人に代える』と言い放つなんて、これが日本人労働者だったらできないと思います。しかも、日本人労働者だったら労働組合とか労働基準監督署とか法律事務所に駆け込む対応を取るでしょうが、会社は『外国人だから、どこに助けを求めて駆け込んだら良いのか分からないだろう』と高を括っているのだと思います。これが日本で働く外国人が直面している現実であり、氷山の一角なのです」と労働現場の実態を報告した。 
 
 続けて山口委員長は、労働現場の実態に目を向けず、拙速に法律を改定した安倍政権の姿勢について、 
「“たち”が悪いのは、極悪な経営者ではなく、ごくごく普通の日本人経営者が、外国人労働者が相手だと、こういう意識になってしまうところにあるのです。外国人労働者には、日本人労働者と比べて特別な問題を抱えていることを押さえておく必要があります。このような外国人労働者の無権利状態に対応しないまま、これからさらに数十万人の外国人労働者を受け入れようとする実態が、今回の入管難民法の裏にあるのです」と批判した。 
 
 カインさんの労災事件は、現在も会社側との争いが続いているという。山口委員長は、 
「会社とは何回か団体交渉をやり、残量代を払わせました。また、有給休暇を取らせました。国保による治療でなく、労災に切り替えて会社に療養費・休業補償を払わせました。後遺障害の認定も終わりまして、後遺障害等級14級を取りました。今は、2年間の厚生年金保険の遡及加入、損害賠償金の請求を行っているところです。 
 さすがに会社側も、社会保険労務士や弁護士を付けてきましたので、段々と自分たちのやって来たことのとんでもなさが分かってきたらしいのですが、まだまだ・・・きちんと謝るという誠実な態度でないので、もしかすると店舗前で抗議活動を展開することがあるやもしれません。心ある皆さんの御支援・御協力をお願い申し上げます」と報告した。 
 
(事件の詳細は、APFS労組ウェブサイトにも掲載中です)http://apfs-union.org/content.php?no=99 
<新たに創設される在留資格の問題点> 
 
 政府は、2019年4月から新たな在留資格「特定技能1号・2号」を創設する。 
 
 「特定技能1号」は、不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格で、在留期間は上限5年、家族の帯同は認めない。14業種〔_雜遏↓▲咼襯リーニング、G清函↓さ業、グ食料品製造業(水産加工業含む)、Τ或業、Я之塑犹唆函蔽鯊い覆鼻法↓┿唆筏ヽ製造業、電子・電気機器関連産業、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業(空港グランドハンドリング・航空機整備)、宿泊業〕での運用が決まっている。 
 
 そして「特定技能2号」は、同分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格で、在留期間は個々の在留状況に応じて何回でも更新でき、最終的には永住許可の取得や日本国籍の取得も可能となる。配偶者や子など家族の帯同も可能である。 
 
 このうち特定技能1号について、山口委員長は次のような懸念を示している。 
「特定技能1号は、外国人労働者を5年間だけの“労働力・労働機械”と見なすもので、雇用の調整弁に過ぎないのは明白です。また『労働機械が日本に定住することなど許さない』『家族の帯同は許さない』というのはあまりに非人道的です。 
 政府・法務省入国管理局は、『外国人材』とか『高度人材』など“人材”という言葉を使うことが好きなようですが、これは入国してくる労働者が、我々と同じく心に痛みを覚えたり喜んだりする同じ感情を持った“人間”だと捉えていない姿勢の表れではないでしょうか。“労働力・労働機械”としか見ていない証拠だと思います」 
 
「3年間の技能実習を修了したら無試験で特定技能1号へ移行が可能になるという“外国人技能実習制度”と接合した制度設計ですから、技能実習修了生のおよそ半数は特定技能1号に移行すると推測されます。 
 日本が“海外の安価な労働力確保のための経路”として利用してきた技能実習制度は、国連から何度も改善の勧告が出されるなど“現代の人身売買・奴隷制度”という批判の声があります。 
 多くの実習生は、借金して日本にやってきます。ブローカーに渡すお金を工面するため、家族・親族からお金を借りたり、お金の代わりに所有する土地の権利書を担保にしたりして日本に来る人が多いのです。その人たちは『日本で技能実習生として働けば、そこそこのお金を母国の親族に仕送りできる』などと考えて日本にやってくるのですが、実際に彼・彼女たちが手にするお金は僅かで、仕送りどころではありません。 
 ところが、技能実習生に逃げられたら困る受け入れ企業や監理団体の中には、技能実習生の在留カードやパスポートを事前に取り上げたり、他者と連絡を取らせないよう携帯電話を取り上げたり、通帳やハンコを取り上げるケースもあります。また、受け入れ企業の中には『こいつ、逃げようとしているな』と察すると、『問題になる前に母国へ送り返してしまえ』ということで空港に無理矢理連れていき、帰国させるケースもあります。 
 これでは、どう考えても奴隷制度でしょう。しかも、普段なら“いい中小・零細企業のおっちゃん”が、技能実習制度が絡むと悪魔のようなことをやってしまうところに、この制度の怖さがあるのです。こんな奴隷制度の下で3年間我慢した者を特定技能1号に移行させるということですから、こんな在留資格があって良いはずがありません」 
 
「2015〜2017年の3年間に69人の死者が出たことが明らかになっていますが、国際貢献事業でこれだけの人数の死者が出たら、通常であれば大問題で、国際問題になるべきものです。だけれども、そんな状況を全てスルーして、改定入管難民法が成立してしまったわけです。 
 日本の入国管理政策は、外国人労働者を人間として見るのではなく、安価な労働力、雇用の調整弁としか見ていない。この考え方をぶち壊さなければ、外国人労働者の問題そして移民問題は、きちんとした形のものができないと思います」 
 
 カインさんは現在、天ぷら屋就労時代に酷使されたことで患った腰痛の治療を優先するため、通院しながら週3回、ラーメン店で働いているとのことであるが、体調が良くなれば、かつて勤めていた介護現場に復職したいという。カインさんは、次のように語っている。 
「今年6月から約3か月間、介護の仕事をしていました。日本のおじいちゃん、おばあちゃんが相手の仕事は楽しかったです。私の両親は亡くなっているので、日本のおじいちゃん、おばあちゃんを自分の両親のように思って仕事しました。でも、腰を痛めて通院している関係で、今は一時的に介護の仕事を休んでいます。私が介護の仕事から離れる際、おじいちゃん、おばあちゃんが泣いてくれたのが嬉しかったです。9月からは週3日、ラーメン屋で働いていますが、腰が治ったら、また介護の仕事をやりたいです」 
 
 質疑応答の中で、参加者の1人から「日本人には、欧米人に対しては優性民族的な見方で接することがある一方、アジア及び途上国の人々に対しては下に見る基本的姿勢があり、自分たちの都合の良いところでは利用するところがあるように思います。多民族共生とか基本的人権を尊重するといった基本的な思想というか理念が、我々日本人には欠けているように思えるのですが、いかが思われますか?」という質問が出された。 
 この質問に対して山口委員長は「仰るとおりです。カインさんの火傷を例に挙げると、これが日本人だったり、欧米人であったなら、会社側もそんな対応にならなかったと思います。日本人のどこかにある“アジア人蔑視”があるからこそだと思います」と応じた。 
 このやり取りを聞いて、筆者は暗い気持ちになったが、学習会の最後にカインさんが挨拶の中で「山口さんが私を助けてくれたように、どこの国にも良い人もいれば、悪い人もいます。日本人は、総じて優しい人が多いです」と語ってくれたので、少し救われた気になった。(坂本正義) 


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