2020年05月03日10時54分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202005031054490

反戦・平和

憲法九条誓願桜「九条乙女」(3)今年も5月3日に北海道で開花 浅利政俊

 私は子供の頃、花好きだった母親から「花を育てるとみんな喜んでくれる」と、自宅に小さな花畑を与えられた。長じて、北海道第二師範学校の学生だった1952年に、植物学者の宮原繁蔵先生に出会った。先生は、「自然はわからないことがいっぱいあるが、答えは自然の中を駆けずり回って見つけよ」と教えた。松前町の清部小への赴任が決まると、「腰を据えて桜を研究しなさい」と送り出してくれた。 
 
▽子供たちとの桜の保存活動と新種開発 
 通学区域には桜が多数あり、1本ずつ丹念に調べた。59年に松前城の隣りの松城小に転勤してからは、「松前桜保存子供会」をつくり、子供たちと一緒に種から苗木を育て、教育植物園の桜の世話もした。 
 桜に関心を持つ人を育てながら、研究にも打ち込んだ。国立遺伝学研究所の桜研究の第一人者である竹中要博士の指導も受け、59年に新品種第一号のマツマエアヤニシキ(松前綾錦)を誕生させたのを皮切りに、104種の新品種を開発してきた。大半が八重桜である。 
 
 こうした桜との歩みの中で生まれたのが、九条乙女(クジョウオトメ)である。 
 クジョウオトメは、私が2003年(平成15年)にヒガンザクラ系のジュウガツザクラとシナミザクラ系と推定される両親の雑種とされる桜から採取し、北海道亀田郡七飯町の自宅畑で発芽させて育成したサクラである。 
 樹の高さは約4メートル。花冠は直径約2.0僉2屬凌Г呂瓦薄い淡紅色。花弁数は5枚で一重咲き。花弁は幅約0.8僉長さ約1.0僂脳さい小輪花である。 
 開花期は春秋2度あり、松前では春咲きは4月中旬〜5月中旬、秋咲きは10〜12月といずれも長い。 
 私は親木と異なるこの新種を、2007年(平成19年)5月3日の憲法記念日にクジョウオトメ(九条乙女)と命名した。世界中の乙女たちがそれぞれの国で、平和を求める憲法で生きてほしいという願いを託した。 
 命名は、すでに述べたように函館空襲の犠牲者の霊を慰め、戦争で人生を絶たれた人びとの無念に生き残った者がどのように応えるべきかの問いから発している。その答えを、私は日本国憲法第九条の理念に見出すとともに、それを桜によって示そうとした。 
また日本の桜の歴史を農民の立場から調べると、この花に平和を託してきた話が多く、平和の中で米作りの温度計の役割をしてきた花であることがわかる。 
 クジョウオトメは現在、北斗市運動公園、松前町松前公園、藩屋敷付近桜植栽地、函館市立石崎小学校に植栽されている。 
 
 九条乙女の命名をして数日後の5月9日に北斗市運動公園で開催された市主催の「さくら鑑賞会」で、講師をつとめた私は参加者にこう呼びかけた。 
「北斗市運動公園の桜や樹木に親しみ、この公園の桜や樹木の美しさを次の世代に引き継ぐ学習をしましょう」 
「桜や樹木を守るために病害虫の見つけ方を学習し、市の花・市の木・山のみどりを守る営みを市民が協力して育てる方法を探りましょう」 
 
▽地域に根ざして世界に向き合う 
 日本の桜というと、ソメイヨシノがイメージされがちだが、この花は江戸時代に作られた栽培品種で、明治時代に全国に広まった。ソメイヨシノはパッと咲きパッと散るところから、大和男児のいさぎよさを象徴するものとして、国策によって軍国主義の鼓吹にも利用された。 
 九条乙女は、ソメイヨシノのようにパッと咲いて散る桜ではなく、長い期間咲いてくれる。憲法記念日の5月3日には必ずと申してよいように北海道で咲きます。しかし東京では、気温が高いので散ってしまいます。またソメイヨシノは、北海道では道南、道央にしかない。北海道を代表するのは、オオヤマザクラなのである。 
 地域があって国があるのであり、その逆ではない。九条乙女も地域の花でよい。それは地域の歴史と風土に根ざしながら、世界にむけて国境、政治、民族、宗教などの違いを越えて、平和の尊さを発信する美しい桜であればよい。 
 新型コロナウイルス感染で国民に見えたものは何であったのか。私には見えないものを人類は見つけるかも知れない。コロナウイルスは人智を生かす自然力となり、人類が連帯して守る平和の使者となることを夢みたい。 
 
 日本有数の桜の名所である松前町の松前公園大小公園や緑地には、九条乙女をふくめて約250種、1万本がある。積雪寒冷地で開花時期が違うため、4月中旬から2か月近くも楽しめる。その中には、私が手がけた品種も多数ある。 
 若かった頃、「松前を世界一の桜の街にしよう」と、子供たちと一緒に苗木を育て、植えてきた。公園の山手にある土地に肥料をやって育てた約30本のオオヤマザクラは高さ10メートルに成長した。昔は単なる野山だった一帯に見事な桜の園が広がり、国内だけでなく海外からも多くの観光客が訪れる。一緒に苗木から桜を育ててきた子供たちの中には、卒業後に観光客の説明係をつとめてくれる者もいる。 
 松前で育てた桜を国内外にも贈ってきた。国内では大阪の造幣局に、国外へは1972年の国交正常化記念で中国に5種30本を寄贈した。戦時中、連合軍の英兵捕虜が北海道内で過酷な労働を強いられていたことを知り、1993年にはその罪の償いとして英国に56種を贈った。その縁で、2015年4月に英国の育成関係者2人が松前を訪れた。 
 九条乙女もいずれ、人類の平和を願う日本の「北国の桜」として、若い世代によって世界の各地に美しい花を咲かせる日が遠くないものと、私は信じている。 
(おわり) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。