2021年05月07日09時15分掲載  無料記事
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アジア

利権がつなぐ日本とミャンマー「独自のパイプ」 ODAビジネスの黒幕と国軍トップがヤンゴン商業地開発で合弁事業

 ミャンマー国軍のクーデターから3ヶ月になる5月1日、東京など世界18か国の都市で「国民を解放せよ」と叫ぶミャンマー人らの抗議デモがあった。欧米諸国の国軍への制裁強化と世界で高まる国軍批判の声をよそに、日本政府がいまだに旗幟を鮮明にしないのはなぜなのか。その謎を解くカギとして無視できないのが、両国を結ぶ利権のネットワークである。一例として、ODA(政府開発援助)ビジネスの黒幕とされる日本ミャンマー協会の渡邊秀央会長が、クーデターの首謀者で国軍トップのミンアウンフライン総司令官が会長をつとめる国軍系企業と手を組んだ、最大都市ヤンゴンの商業地開発事業がある。(永井浩) 
 
▽二人の親密な関係 
 まず渡邊氏とミンアウンフライン司令官との親密な関係を確認しておこう。 
 2月1日のクーデター直前の1月19日に、二人が首都ネピドーで会談したことは、国営英字紙でも報じられた。渡邊氏はその前日にアウンサンスーチー国家顧問とも会談していて、こちらも同紙の1面で報じられたが、スーチー氏とは初対面であるのに対して、ミンアウンフライン氏とは確認されただけで24回も会っている。 
 最初の出会いは、2011年の民政移管で誕生したテインセイン政権が打ち出したヤンゴン郊外のティラワ工業団地の開発がきっかけといわれる。旧知の軍人であるテインセイン大統領からこのプロジェクトへの日本の支援を打診された渡邊氏は、さっそく日本の政官財の関係者に根まわしして巨額のODA供与の約束を取りつけた。オールジャパンの総力を結集したこのODAプロジェクトについて、安倍晋三首相は13年のミャンマー訪問のさい、両国の協力の象徴とぶち上げたが、ミャンマー側で共同開発を担ったのは国軍と関係の深い財閥企業だった。渡邊氏はその関係で12年に国軍トップとの関係ができ、ミンアウンフライン司令官は17年に日本ミャンマー協会と日本財団(笹川陽平会長)の招待で来日、安倍首相と茂木外相と会談した。 
 そして渡邊氏が国軍系の複合企業ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)と手を組んだのが、ヤンゴンのミンダマ地区の開発である。 
 
 JICA(国際協力機構)の2013年の調査報告書によると、ミンダマはヤンゴン空港に近い地区で、国防省が大半を所有する80任療效呂法▲筌鵐乾鹽垰垠の新たな中心地として銀行、金融、ビジネス、商業の大型商業施設を建設する計画である。国営英字紙グローバル・ニューライト・オブ・ミャンマーは15年、 オフィスビル、サービスアパートメント、5階建てショッピングモール、貿易センターなどからなる商業区開発プロジェクトが来年始動すると報じた。18年の経済産業省の報告書には、日本側の事業主体は東南アジア各地でイオンモールを手がけてきたイオングループとされている。同年、海外企業の入札を求めることがヤンゴン市開発委員会から明らかにされた。 
 このプロジェクトに参入するため、渡邊会長が社長、息子の渡邊祐介氏(日本ミャンマー協会常務理事・事務総長)が副社長をつとめる日本ミャンマー開発機構(JMDP)がMECと提携した。JMDPはミャンマーではJMDIの名称になっており、ミャンマー側の合弁企業はMEC傘下のアンバー国際会社(Amber International Ltd)。アンバーは、建設、土木、不動産開発を手がける同国最大の不動産デベロッパーで、本社はミンダマにある。出資比率はJMDIが49%、アンバーが51%となっている。両社の事業は開発予定地の土地開発とみられる。 
 ミンダマ開発はティラワ開発のようなODAプロジェクトではなく、民間投資を呼び込んで事業を進める構想とされている。協会の会員企業が開発事業に参入することが見込まれている。中心となるイオングループも会員である。 
 
 ところが、プロジェクトの推進に大きな問題が生じた。国連のミャンマーにおける事実調査団が2018年に、国軍系企業の実態とその外国企業との提携関係を明らかにしたからである。調査団は翌年の報告書で、「ミャンマー国軍とその所有企業であるミャンマー・ エコノミック・ホールディングス(MEHL)とMECが参加する外国企業の活動はすべて、国際人権法や国際人道法の違反の一因となる、またはそれらの違反と関連づけられる危険性が高い。少なくとも、そうした外国企業は国軍の財政能力を支える一因となっている」として、国軍による国際人権法と人道法の違反を防ぐために国軍を「財政的に孤立」させるべきだと主張した。 
 ミンダマ開発の関係者によると、報告書の指摘をうけて、イオンは「国軍と関係したくない」として、プロジェクトから手を引き米国進出を優先する方向転換の意向をしめしたところ、渡邊氏が激怒したという。 
 
▽反クーデター運動弾圧の指揮者たち 
 MEHLとMECは国軍系の複合企業で、前者の傘下に後者があり、さらにそれぞれが銀行やホテル、製鉄など幅広い企業を所有している。国内経済に強い影響力をもち、株式はミンアウンフライン総司令官ら国軍の現役、退役幹部らが個人で保有している。 
 国連報告書によると、MEHLの会長はミンアウンフライン司令官、副会長はソーウィン副司令官、役員には国軍の最高幹部が名を連ねている。MECの取締役キンマウンソー氏は軍の役職は記されていないが、国軍で非制服組の経理将校をつとめていたとみられ、携帯電話会社の会長として軍と関係が深い。同氏はJMDIの役員でもある。 
 国連報告書では会長、副会長はすでに米国の制裁対象とされているが、今年2月1日の国軍クーデター後もMEHLの幹部らはさまざまな形でミャンマー国民の怨嗟の的となっている。 
 ミンアウンフライン司令官が首謀したクーデターに抗議する広範な国民の民主化運動弾圧の総指揮を執っているのが、ソーウィン副司令官である。MEHLの序列6番目の役員マウンマウンチョー空軍司令官は、クーデターを批判する東部カレン州の少数民族武装組織の支配地域を空爆した作戦の指揮官である。この空爆で住民ら約3千人が国境を越えてタイ側に避難した。 
 
 EU(欧州連合)は3月22日の加盟27か国の外相会議で、ミャンマー国軍がクーデターで権力を握り、これに抗議する国民のデモへの弾圧をつづけている責任を問うため、国軍トップら11人への制裁を発動した。対象はミンアウンフライン総司令官、ソーウィン副司令官のほか、昨年の総選挙結果を受け入れない判断をした責任者もふくまれ、EUへの渡航禁止やEU域内の資産凍結などの措置が取られる。 
 EUは、クーデターで民主主義や法の支配を損なったことにくわえ、「市民や武器をもたないデモ参加者を殺害したほか、集会の自由やネットへの接続の制限など深刻な人権侵害をつづけている」と軍高官らをきびしく批判、制裁は今回かぎりではなく「あらゆる選択肢の検討をつづける」とも表明した。 
 米財務省は同25日、MEHLとMECを制裁対象にしたと発表した。制裁で米国内の資産が凍結され、米国民や米企業などとの取引が原則として禁じられる。ブリケン国務長官は声明で、「(制裁は)クーデターを主導した者や国軍の経済的権益、国軍による残忍な抑圧を支える資金を標的にした」とし、暴力の停止や拘束者の解放などを国軍側にもとめた。英国も同日、MEHLへの制裁を発表した。 
 
 日本でもクーデター後、市民団体が政府に対し、日本の公的資金と国軍ビジネスとの関連を早急に調査し、国軍の資金源を断つよう求めている。ヒューマンライツ・ナウ、日本国際ボランティアセンターなど5団体は2月25日、茂木外相に対して、日本政府が関係諸国と共同して、国軍とその指導部、国軍所有企業のMEHLとMECがもつ莫大な経済資産に対する対象限定的経済制裁をとるよう求めた。メコン・ウォッチとアーユス仏教国際協力ネットワークなどは3月3日、麻生財務相、茂木外相、赤羽国土交通相らに、「JICAが現在実施している対ミャンマーODA事業は、人道目的以外のすべての支援を一時停止、国軍との関連が指摘された企業が事業に関与していないか、または事業の実施が国軍に経済的利益をもたらしていないか、早急に調査してください」という要請書を渡した。 
 しかし日本政府は、「独自のパイプ」をいかして問題解決に努力するとの空念仏を繰り返すだけで、同盟国米国と歩調を合わせて制裁に踏み切るわけでも、最大の武器とされるODAを切り札に国軍に民主化への回帰を説得することもない。なぜなのか、の理由のすべてではないものの、大きな要因が渡邊氏と日本ミャンマー協会の活動にあると見て間違いないだろう。多くのミャンマー人はクーデター後にそのように認識しはじめており、だから彼らは4月14日に同協会に日本人とともに抗議デモをおこなったのである。 
 
▽両国民の真の交流には黒い霧の一掃が不可欠 
 渡邊会長が協会のホームページで述べている「ご挨拶」によれば、日本ミャンマー協会はミャンマーが民政移管した翌年2012年に、ミャンマーへの民間の窓口として正式発足した一般社団法人である。両国関係の多岐にわたる分野において着実に交流を発展させていくのが目的とされ、民間の投資、貿易の拡大、技術協力・支援など経済発展をウィンウィンの戦略的関係で構築するために、重要な役割を果たしていくとされている。 
 その役割を果たすために、協会の役員には最高顧問の麻生太郎副首相・財務相を筆頭に、政官財のそうそうたるお歴々が名を連ねている。副会長には大手商社の三菱商事、丸紅、住友商事の元トップ、理事には自民、公明、立憲民主の与野党の現・元衆参国会議員、関係省庁の事務次官経験者、大手企業の役員らがずらりと並ぶ。顧問は歴代の駐ミャンマー大使。正会員(2021年3月現在)は日本を代表する大手企業127社。協会はまさにオールジャパン、日本株式会社の縮図といえる。会員各社は同協会をつうじてミャンマー側とのODAビジネスなどの便宜を図ってもらい、その差配人である会長・理事長の渡邊氏には頭が上がらないということになる。 
 ちなみに、現職国会議員では、自民党は麻生氏以外に甘利明・元経済再生相、加藤信勝・現官房長官、立憲民主党の福山哲郎幹事長、安住淳・元財政相が理事をつとめている。 
 渡邊氏は一民間団体の会長にすぎないのではなく、その背後に郵政相時代にきずいたこうした政官財の勢力が控えているから、ミャンマーの国軍とその関連企業に大きな影響力を発揮でき、また氏が社長をつとめる会社が国軍系企業と合弁事業に乗り出すことが可能なのである。また日本の政財界も、対ミャンマー関係においては氏の意向を無視することは難しい。ひと言でいうなら、これが日本政府の口ぐせである「独自のパイプ」なるものの正体なのである。そのパイプは国軍とだけでなく、スーチー氏側ともつながっているとされるが、冒頭で確認したように、渡邊氏は国軍トップとは24回も会っているが、スーチー氏とはクーデター直前に初めて1回会っただけである。 
 
 しかも、明らかにされている渡邊氏の発言はスーチー氏らが率いる民主化運動を評価していない。先の「ご挨拶」では、1988年の民主化運動は「内乱の拡大」であり、「国内治安安定のためやむをえず軍政になった」とされる。日本財団(笹川陽平会長)と協力して2014年からはじめた自衛隊とミャンマー国軍将官級交流プログラムの歓迎レセプションで、渡邊氏は「ミャンマーの民主化は革命ではなく、軍がみずからの手で実現した。この点は正しく評価されなくてはならない」とミャンマー軍将官たちを激励した。ミンアウンフライン司令官の片腕として、クーデター後の国民の抵抗運動弾圧を総指揮しているソーウィン副司令官は、この将官級交流プログラムで来日したことがある。 
 だから渡邊氏は、クーデター直前に民主化運動のリーダーと彼女から不当に権力を奪った国軍トップの双方に会い、その後にクーデターに抗議する広範な国民のデモが全土に広がっていくころまでミャンマーに滞在していたにもかかわらず、帰国後はミャンマー情勢に沈黙したままであるのは不思議ではないだろう。また日本政府は、こうした国軍との太いパイプでつながった「ドン」の存在を無視することはできないはずである。「独自のパイプ」は渡邊氏以外にもあるのだろうが、日本が欧米諸国のように、国軍トップらや国軍系企業に日本が制裁を打ち出せないの理由の一端が同氏と国軍との利権のパイプであることは間違いないだろう。米国の財務省はMEHLとMECを制裁対象にしたが、日本の財務省のトップは、MECと合弁事業を手がける日本企業の社長が率いる日本ミャンマー協会の最高顧問なのである。 
 
 ミンダマ開発は、ティラワ開発のようにはヤンゴン市民に広く知られたプロジェクトではない。商業施設の建設ははじまっておらず、まだ「捕らぬ狸」「不発弾」とも言われている。ところがクーデター後、この計画をめぐる渡邊氏とミンアウンフライン司令官との関係について、情報源がはっきりしない情報やうわさが密かに流れるようになっている。氏の帰国前日の2月18日にフェイスブックに投稿された「良き友人の日本人はなぜ黙っているのか?」もそのひとつ。「確かな情報ではないですが、人づてに聞いたところによると、渡邊という人物は「ミンダマ」という軍の所有地の利権を得ているそうです。政界を退いたといっても日本の政界と政府に対してある程度の影響力もつ人々が(軍の)総司令官を守っているから、日本が沈黙を貫いているのだと言われています」。情報の真偽はべつにして、このよう情報が流れるようになった事実が注目される。 
 日本ミャンマー協会への抗議デモに参加したあるミャンマー人は、私にこう語った。「日本の大企業の利益とミャンマー国軍の利益が一致していることは、私たちには前から分かっていた。だから国軍は、自分たちが何をやっても日本は強く出てこないと足元を見透かしている。でもそのような両者の関係は、これまでは霧につつまれていた。それが、クーデターを機に明るみになったのです。ミャンマーと日本の国民が真の交流と友好関係を発展させていくためには、黒い霧に隠れて甘い汁を吸ってきた連中を取り除かなくてはならない。そうでないと、これまでの日本に対する私たちの好感度が損なわれていく恐れがあります」 


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