2003年09月22日17時12分掲載  無料記事
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SARS基金でコンサート開催に疑問の声 香港で大物招聘イベント

【香港22日=柏村富】「SARS基金は有名ミュージシャン招へいのためにあったのか」。香港で来月17日から3週間にわたり開催予定の大型フェスティバル「香港ハーバーフィエスタ」に対して、開催を疑問視する声があがっている。本来、市民のために使われるべきSARS対策資金が米英のミュージシャンや関連企業に持ち出されることに首をかしげる人も多い。「本当に開催が必要なのか」という声も出てきている。 
 
 このハーバーフィエスタは、新型肺炎(SARS)の影響で萎縮した香港の景気回復を目的として在香港の米国商工会議所が主催、企画したもので、「インベスト香港」(香港政府の公的投資信託基金)が協賛、ビクトリアハーバーに面した特設会場での大物ミュージシャンの来港公演が目玉。17日の開幕はプリンス、その後クレイグ・デイビッド、ジョセ・カレーラス、ウエストライフの公演、最後11月1日の閉幕がサンタナ、と香港ではなかなかお目にかかれない大物スターの出演が目白押しだ。 
 
 他にも、まだ未定だが、3月に開催予定がSARSで取消しとなったローリングストーンズの出演の可能性も話題になっている。 
 
 SARSでのコンサートといえば地元民にとってはアニタ・ムイが主催し地元ミュージシャンが総出演した5月の「WE SHALL OVERCOME」コンサートが記憶にも新しく「感動的だった」と市民の評判は高かった。 
  
 しかし、今回の催しに対しては「今さらこのハーバーフェスタがSARSとどう関係があるのか」との声も聞かれる。 
 SARSでの様々な悲しみや苦労を「せめて娯楽で忘れてほしい」という催しとは思われるが、大物を招聘(しょうへい)したことから、入場料はプリンスの公演の場合でいえば最低でも258香港ドル(3950円)からS席は988香港ドル(15000円)と高い。 
 主催者側は一連の大型コンサートで来港者が増えることを期待、景気を刺激というが、それもどの程度のものか疑問視されている。 
 
 今回の催しの総経費は宣伝まで含めて10億香港ドル(150億円)。世界各地から大物スターが香港救済にとボランティア出演するのではなく、あくまで多額の出演料で大物スターを集めているのだ。しかも、入場料を高くしたうえに、主催団体からの資金拠出、関連企業の寄付などあてにしても、なお「赤字覚悟」という。 
 
 香港政府は「インベスト香港」が協賛であることを理由に、この催し物で赤字が出た場合、3000万香港ドル(4億6000万円)から8000万香港ドル(12億2400万円)までの補填を約束した。しかもこの資金の出所はSARS関連という名目で、政府がこの春に創設した総額10億香港ドルの「ポストSARSファンド」からである。 
 
 この動きに対して、市民の間から大物スターのギャラがSARS対策のための基金から拠出することには疑問の声があがった。 
 「本当に開催が必要なのか」「公的資金が導入されるのだから10億香港ドルという経費の内訳も政府に報告されるべき」という意見は、香港の国会にあたる立法会でも巻き起こった。このため「インベスト香港」側の企画責任者はコンサートなどの支出明細を公示するよう求められている。 
 
 主催者側は、企画の判断の正しさ、明瞭な運営を主張し、開催の可否については、すでに出演料の半額を支払っており、今さら取消しは被害総額が多い、と弁明している。 
 チケットは19日に売り出されたが、イベントの開催はなお不確定要素が残っている。 
 来月、本当に開催されるのか、いったいどれだけの公的資金がこのギャラとなったのか、さらに一番の大物ローリングストーンズの来港があるのか、など、本来の催し物への関心とは違ったレベルの話題を香港市民に提供している。 


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