2004年12月16日20時45分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200412162045504

反戦ビラ配りに無罪 表現の自由を重視 捜査を批判

【東京16日=鳥居英晴】東京・立川市の防衛庁官舎の新聞受けに「自衛隊のイラク派兵反対」を訴えたビラを投函し、住居侵入罪に問われた市民団体のメンバー3人に対し、東京地裁八王子支部は16日、「刑事罰に処するに値する程度の違法性があるものとは認められない」として、全員に無罪を言い渡した。 
 
被告・弁護側は被告の行動は正当な表現活動で、逮捕・起訴は憲法が保障した表現の自由、思想信条の自由を脅かす弾圧であるとして訴えていた。 
 
長谷川憲一裁判長は冒頭、裁判の重要性から、主文は最後に言い渡すと述べ、判決理由を先に読み上げる異例の言い渡しとなった。 
 
判決で同裁判長は、ビラの投函自体は「集会、結社及び言論、出版その他の表現の自由は、これを保障する」とした憲法21条1項の保障する「政治的表現活動の一態様であり、民主主義社会の根幹を成す」とした。 
 
その上で、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」とした憲法22条1項により保障される「営業活動の一類型である商業的宣伝ビラの投函に比して、いわゆる優越的地位が認められている」と判断した。 
 
さらに判決は、商業的宣伝ビラの投函については、これまで刑事責任を問われずにきたことを指摘、防衛庁・警察から「正式な抗議や警告といった事前連絡なしに、いきなり検挙して刑事責任を問うことは、憲法21条1項の趣旨に照らして疑問の余地なしとしない」と述べて、警察の捜査のあり方を批判した。 
 
無罪判決を勝ち取ったのは「立川自衛隊監視テント村」のメンバーの大西章寛さん、高田幸美さん、大洞俊之さん。3人は2月に逮捕され、75日間にわたり拘留された。 
 
裁判では、検察側は住居侵入罪の成立が認められると主張したのに対し、弁護側は、起訴は公訴権の乱用にあたるとして公訴棄却を求めるとともに、住居侵入罪の構成要件にあたらず、違法性もないと主張した。 
 
これに対し判決は、「極限的な訴追裁量権の逸脱はみられない」として、弁護側の公訴棄却の訴えを退けた。また、被告の立ち入り行為は住居侵入罪の構成要件に該当すると判断した。 
 
判決は「ビラを届けることで自衛隊のイラク派遣に関するテント村の見解を自衛官らに直接伝えるという動機自体は、テント村の政治的意見の表明という正当なもの」と認めた。立ち入り行為の態様については、「宿舎の正常な管理及びその居住者の日常生活にはほとんど実害をもたらさない、穏当なもの」と認め、「宿舎に立ち入ったことにより生じた居住者及び管理者の法益の侵害は極めて軽微なもの」であるとした。 
 
「被告人はいずれも無罪」と裁判長が言い渡すと、満員の傍聴席からは歓声が上がった。判決後の記者会見で、大洞さんは「大変うれしい。無罪判決は当然と思っていた」と述べた。大西さんは「表現の自由にからむ問題で重要な認識を示した。歴史的な判決だ」と評価した。高田さんは「憲法判断まで踏み込んだのは画期的だ。イラク戦争で考えられないことで逮捕されることが増えていった。こうした流れに歯止めをかけていくきっかけになればいい」と語った。 
 
虎頭昭夫弁護士は「常識的な判決だ。この事件は警視庁公安部が主導した。検察は控訴を断念してもらいたい」と語った。内田雅敏弁護士は「検察は警察の暴走を止める役割を果たしていない。検察は劣化している。裁判所は良識、勇気で応えた」と判決を評価した。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。