2005年03月24日11時57分掲載  無料記事
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中国企業の上場めぐり英米の証券取引所の綱引きが活発に

 中国企業の上場誘致をめぐって英米の主要証券取引市場の争いが活発になってきた。ロンドン証券取引所(LSE)が昨年10月、香港に事務所を開設したほか、ニューヨーク証券取引所(NYSE)と店頭市場のナスダックも中国での事務所の開設を申請したという。中国では複数の国有銀行が年内にも香港を含めた海外市場での上場準備を進めていて、調達金額の規模も大きいことから主要市場の誘致熱が高まっている。(ベリタ通信=中邑真輔) 
 
 中国の国有4大銀行の1つの、中国建設銀行は年内に海外市場での上場を検討している。株式公開(IPO)による調達額は50億ドルから100億ドルに上るとされている。当初同行は、香港、ニューヨークの両市場で同時上場を進めていた。しかし最近の中国メディアの報道によると、同行は法的規制が厳しい米国での上場は断念し、香港での単独上場に傾いているという。 
 
 エンロン事件など企業の粉飾決算にからんだスキャンダルが続発した米国では2002年7月、証券市場の信用回復のためにサーベンス・オクスレー法(企業改革法)が制定された。同法は、上場企業に対し経営陣による内部管理の報告書作成や、内部通報制度の確立を求めるなど厳しい内容で、違反企業への民事・刑事上の罰則も強化された。このため中国建設銀行はハードルの高いNYSEでの上場を見送るとの見方が強まっている。 
 
 中国ではこのほか、国有の中国銀行が今年下半期に海外上場を進めていて、調達額は30−40億ドルと見られている。中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は最近、「(上記2行の上場)準備は基本的に完了した。上場までの距離は遠くない」と述べた。また4大国有銀行のうち、残り2行の中国工商銀行と中国農業銀行についても周総裁は、先行2行の経験に基づいて株式会社への移行を進めると話した。 
 
 そこで中国建設銀行を好ましくない前例にしないため、NYSEとナスダックの両市場が最近、中国での事務所の開設を中国の金融当局に申請した。中国企業の上場誘致活動を積極的に進めるのが目的だ。 
 
 フィナンシャルタイムズによると、中国の金融当局は両取引所の申請を受理するかどうか明らかにしていないが、最近北京で開かれた外国銀行との会合で、申請があったことを知らせたという。 
 
 一方LSEは昨年10月、香港に事務所を設置した。昨年12月には、中国3大航空会社の1つの中国国際航空がNYSEでの上場を取り止め、LSEと香港で上場している。同社は公募価格を約3香港ドルに設定したが、ブックビルディングで応募倍率が82倍に達するほどの関心を呼んだ。 
 
 こうして中国の国有銀行の上場に関心が高まっているが、中国の金融機関が抱えている問題は根が深い。上場は中国の金融改革の最重要課題と位置づけられ、その目的は資金調達だけではなく、企業統治の確立にある。中国政府はこれまで、4行の不良債権処理のために巨額の税金や外貨準備を投入したほか、各行の不良債権を簿価で買い上げるなどの努力をしてきた。それに加えて各行も独自にリスク管理や内部管理を強化してきた。 
 
 しかし中国銀行では今年に入って、黒龍江省ハルビン支店の幹部2人が公金を横領して海外に逃亡したことが発覚、被害総額は少なくとも10億元に上るという。さらに、張恩照会長が今月16日に「個人的な理由」で辞職したが、香港紙によると、共産党当局から収賄容疑で取調べを受けているという。また中国建設銀行でも吉林省の支店で約6000万元が横領された事件が2月に発覚していて、企業統治の面での問題は解決されていない。 
 
 そのためイギリスの経済誌エコノミストは、「もし、中国銀行と中国建設銀行がNYSEへの上場を避けようとすれば、それは潜在的な投資者に(米国での上場基準を満たしていない企業であるという)否定的な信号を示したことになる」と指摘している。 


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