2005年03月29日23時17分掲載  無料記事
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羊の衣をかぶったオオカミか ウルフォウィッツの世銀総裁起用 メディア論調

 「オオカミ(ウルフ)が戸口に」(タイムズ・オブ・インディア、英紙ガーディアン、英誌エコノミスト)、「羊の衣をかぶったオオカミか」(英紙インディペンデント、インド紙フィナンシャル・エクスプレス)―ウルフォウィッツ米国防副長官の世界銀行総裁起用をめぐる各紙の社説の見出しである。サダム・フセインと大量破壊兵器の脅威を煽り立ててた人物が世界の貧困問題と取り組む世界銀行のトップになることに、欧州、途上国の新聞は当惑を隠さない。(ベリタ通信=鳥居英晴) 
 
 AFPは、「ウルフォウィッツの起用はヘロデ王に保育園の鍵を渡すようなものだ」というワシントンのシンクタンク・政治研究所のアナリスト、エミー・ウッズのコメントを伝えた。 
 
 ヘロデ王とは新約聖書に出てくるローマのユダヤの王。ユダヤの王となる運命を持った子供の誕生を知ったヘロデ王は、権力の座を奪われることを恐れ、ベツレヘムとその周辺一帯にいた2歳以下の男児をすべて殺させた。 
 
 米国が脅威と感じれば、実際に米国への攻撃が行われなくとも先制攻撃を行うというのがブッシュ・ドクトリン。これををヘロデ・ドクトリンと呼ぶ人もいる。このドクトリンの元になったのが1992年、ウルフォウイッツが国防次官だった時に作成した「国防計画指針」なのである。 
 
 英紙フィナンシャル・タイムズ、エコノミスト、ガーディアンは一斉に、ウルフォウィッツの起用を非難した。エコノミストはブッシュは世界銀行を米国の外交政策の一部門にしようとしていると批判した。 
 
 インドのフィナンシャル・エキスプレスは「米国の力でイスラム世界を変えると頑固に提唱してきたポール・ウルフォウイッツが次の世界銀行総裁に起用されたことは、開発途上国の世界でほとんどで恐怖をもって迎えられたのは、驚きではない。世銀の主な任務は、貧困と戦うことであって、イスラム過激派と戦うことではない」と危惧を表明した。 
 
 同紙は「タカ派の国防副長官は経済も財政の経験もない」と指摘、「米国人の中にももっとその任に適した候補者はこと欠かない。コフィ・アナン国連事務総長の特別顧問で世界の開発専門家の一人である、ジェフリー・サックスはその一人である」と指摘する。「さらにもっと広げてみれば、世界にはたくさんの適任者がいる。が、ブッシュは耳を傾けるだろうか」 
 
 タイムズ・オブ・インディアも「先進国が開発途上国の問題を扱う機関の最高ポストについて、支配権を持っているというのはひどい話だ。選任過程を見直す必要が緊急にある。政治的影響力や資金力でなく、競争と実力の原則が導入されるべきだ。そうして初めて、IMFや世界銀行などの機関が帝国主義の手先と見られることはなくなるだろう」と世銀の改革を求めている。 
 
 経済通信社ブールムバーグのコラムニスト、ウイリアム・ペセクもアジアの受け取り方として、こう述べている。 
 
 「グローバリゼーションの時代に、世銀が与える助言は与える資金と同じように重要である。開発経済学についての経歴がなく、イディオロギー的に硬直していることで有名なウルフォウイッツの助言は、2、3粒以上の塩で迎えられ、多分、その効果は限られたものになるであろう」 
 
 「ウルフォウイッツの名前は、米国のイラク侵攻とアジアの多くの人が傲慢と見る政策と同義語である。彼は人間のヒルバートンである。ウルフォウイッツという名前を口にするだけで、米国に対する不満と同じ意味になっている」 
 
 「グリンピース・インターナショナルが、ウルフォウイッツの起用を、“米国と石油産業の利益を第一にする惨事”と言ったのは多くのアジア人の声を代表しているようだ」 
 
 英紙サンデー・テレグラフとのインタビューで、ノーベル経済学賞受賞者で世界銀行の上級副総裁・チーフエコノミストを務めたジョセフ・スティグリッツは「(ウルフォウイッツの起用で)世界銀行を再び憎しみの対象となるであろう。開発途上国の世界に街頭デモと暴力をもたらす」と述べた。 
 
 ウルフォウイッツは35年間の政府、学究生活の中で、金融や開発について直接、経験したことがない。1980年代後半の2年間、インドネシア駐在大使をした以外、開発途上国に住んだことがない。 
 
 ネオコンに詳しいインター・プレス・サービスのジム・ローブ記者によると、ウルフォウイッツはブッシュ政権のネオコンの高官と見られているが、彼の気質はステレオタイプのネオコンとは違うという。コここ数年の最も親しい女性はチュニジア生まれの世銀の職員で、それがきっかけで、アラブ世界における民主的変革に関心を持ったという。 
 
 彼の父親はポーランド人の数学者で、1920年に米国に渡ってきた。父親の家族はホロコーストの犠牲になった。ウルフォウィッツは十代にイスラエルに住んだことがあり、姉も現在、住んでおり、他のネオコンと同じようにイスラエルの運命に特別の関心を持っている。 
 
 しかし、他のネオコンたちがイスラエルの右派リクード党の見解に組するのと違って、ウルフォウィッツは、パレスチナ人の苦境に鋭敏であることを示しており、ユダヤ人入植者の動きに反対しているという。 
 
 メディアのスポットライトを浴びることを好まないのも、他のネオコンと違うところだ。 
 
 ウルフォウィッツは、民主主義、人権を支持するネオコンの中で最も理想主義者と見られている。米国のインドネシア駐在大使としては.野党の指導者と公式に合った最初の米大使となった。 
 
 世銀に関する著書もあるワシントン・ポストのコラムニスト、セバスチャン・マラビーは、ウルフォウィッツは現実主義的であるという見方をする。彼のイディオロギーは新しい課題に合うと説く。 
 
 国連大使に任命されたタカ派のジョン・ボルトンと一括りにして同じ扱いをするのは間違いだという。ボルトンの一国主義は、国際法が米国を制限するのは間違いだとするが、ウルフォウィッツはそうした信奉はない。彼の情熱は民主主義を広めることであり、彼にとって一国主義は手段であって、目的ではないという。 
 
 アカンタビリティーや透明性が不可欠になっており、情熱的な民主主義の推進者を世界銀行総裁に指名するとはおかしなことでなくなっている。スティグリッツやNGOの活動家がウルフォウィッツの起用を嘆いているのはおかしなことだ、とマラビーは言う。自信過剰を避け、否定的な見方を打ち破ることができれば、世界銀行の尊敬すべき指導者になるかもしれないとマラビーは予測する。 
 
 ニューヨーク・タイムズのエリザベス・ベッカーは、インドネシアでウルフォウィッツのもとで働いた外交官の話として、彼が東チモールの人権運動、労働団体、イスラム・グループ、環境活動家を支援し、スハルト家が関わる汚職に厳しい姿勢を取ったたことをあげている。 
 
 しかし、インドネシア国家人権委員会のアブドュル・ハキム・ガルーダ・マサンは「すべての米大使の中で、彼ははスハルトとその家族と最も親しかったと見られる。民主化や人権の尊重には関心を示さなかった」と語っている。 
 
 ハキムは当時、人権団体の代表をしていたが、ウルフォウィッツが彼の事務所を訪れたことは一度もなかったという。 


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