2005年04月29日11時18分掲載  無料記事
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バリ島で豪州人の麻薬密輸団を摘発 ヘロイン約11キロ押収

 インドネシアの国際観光地バリ島が今、オーストラリア人が関係する麻薬密輸犯罪の拠点のひとつになっている。昨年10月、オーストラリア人女性(27)が大麻約4キロをバリ島へ密輸した事件が発覚したのに続き、今度は、少年3人を含む計9人の同国人がバリ島からヘロイン約11キロ(末端価格で約3億4000万円相当)をオーストラリアに密輸する直前、同島デンパサールの国際空港などで捕まった。既に公判が始まっている同女性に加え、今回の9人が起訴された場合、麻薬犯罪に厳しく臨むインドネシアの裁判所が全員に死刑判決を下す確率は高い。そうなれば、死刑を廃止しているオーストラリアの国民から強い反発が出るのは必至。政治とは直接関係がないとはいえ、相次ぐ麻薬事件の裁判の結果が、改善途上にある両国外交関係に影響を与える可能性も懸念されている。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 AAP通信や日刊紙シドニー・モーニング・ヘラルドなどの報道によると、インドネシア警察の麻薬捜査隊は17日夜、デンパサールのングラライ国際空港出発待合室内で、シドニー行きの航空便に搭乗しようとしていた男3人と女1人を麻薬(ヘロイン)所持の現行犯で、また、同便機内で男1人を麻薬密輸容疑で逮捕した。 
 
 捜査隊はさらに、バリ島南西部のリゾート地クタ地区にあるホテル内でも男4人を麻薬所持の現行犯で逮捕した。今回一網打尽となった9人はいずれもオーストラリア国籍で、その中には18歳の少年1人と19歳の少年2人が含まれていた。 
 
 発表によると、麻薬捜査隊はオーストラリア警察から得た「ヘロイン密輸計画」の情報を基に、観光目的でバリ島に滞在していた9人の行動を慎重に捜査、ヘロインの入手とオーストラリアへの密輸計画を確認した上で摘発作戦を実施し、9人を逮捕するとともに密輸直前のヘロインを押収した。 
 
 空港出発待合室内で捕まった女1人を含む4人はいずれもヘロイン入りの袋を脚、腰、腹部などに巻き付けて隠し持っていた。4人から押収されたヘロインは計10・9キロ。また、オーストラリア人観光客が多く滞在するクタ地区のホテル内で捕まった4人からはヘロイン計350グラムが見つかり、今回の摘発で押収されたヘロイン総量は11・25キロにも上った。 
 
 捜査隊によると、これらのヘロインはケシの栽培地として知られるタイ・ラオス・ミャンマー3カ国の国境が交わる「黄金の三角地帯」で密造された後、犯罪組織のルートに乗ってバリ島に運び込まれたとみられる。今回のヘロインは純度も比較的高く、全量がオーストラリア国内に密輸された場合、末端価格は400万豪ドル(約3億4000)以上に達するという。 
 
 デンパサールのバリ州警察本部で会見した捜査隊幹部は事件摘発について「両国間の捜査協力を土台に、地道で綿密な捜査が実った結果」と自画自賛するとともに、「事件の首謀者はシドニー便の機内で逮捕されたアンドルー・チャン容疑者(21)で、同容疑者は逮捕直後、100万豪ドル(約8500万円)で捜査員を買収しようとして失敗した。今後の取り調べを通じバリ島へのヘロイン密輸ルートを解明、密輸組織を撲滅させる」との意欲を示した。 
 
 一方、オーストラリアの各メディアは「ヘロイン密輸容疑で9人逮捕」のニュースを大きく速報、さらに容疑者たちの家族や関係者らへの取材内容などを詳しく報じている。 
 
 その結果、9容疑者のうち女性1人を含む4容疑者が、シドニーに本社を持つケータリング会社の従業員であることが分かった。同社によると、4人はいずれも日ごろから仕事熱心だったといい、上司の1人はヘロイン密輸という重犯罪に手を染めたことに驚きを隠していない。また報道によると、密輸が成功すれば、女性らは報酬として1万5000豪ドル(約127万円)前後を受け取る手はずになっていたという。 
 
 こうした中、オーストラリア国内では、今後の裁判で9容疑者が死刑判決を受ける可能性に強い懸念と反発が広がり始めている。人権団体の関係者は「豪州警察が、死刑制度のあるインドネシアに捜査協力したのは大きな誤り。裁判が開始される前に、政府は9人の身柄引渡しを早急に求めるべきだ」と主張、捜査協力の在り方を強く批判した。 
 
 これに対し同国警察幹部は「今回の事件を知りながらヘロインがわが国に密輸されるのを見逃すことはできない。捜査協力は当然で、容疑者たちの逮捕時期・場所の決定はインドネシア警察側の判断次第」と反論、今後も麻薬密輸事件に厳しく臨む姿勢を強調した。 
 
 また、ダウナー外相も「死刑判決が出れば、インドネシア政府に恩赦を求める」との考えを明らかにしながらも、豪州人関係の関係する麻薬事件がバリ島で連続発生したことについては「インドネシアでの麻薬事件が生命を危うくする事実を知り、麻薬の運び屋などといった重大犯罪に手を染めてはならない」と国民に注意を喚起するにとどまった。 
 
 両国関係は、ユドヨノ・インドネシア大統領が最近訪豪したのを機に、昨年までの“冷戦”状態が緩和され、関係改善へ大きく動き始めたばかり。それだけに、今回捕まった9人に対し裁判で死刑判決が出されれば、オーストラリアの国民感情を逆なでし、「死刑拒否反応」をさらに強め、改善傾向の両国関係に冷水を浴びせる懸念も指摘されている。国民だけでなく、オーストラリア政府も密輸事件の今後の成り行きから目を離せない状況が続きそうだ。 


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