2005年06月10日02時17分掲載  無料記事
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ボリビアの「ガス戦争」 先住民族、ガス資源の国有化求める

 「貧乏人には食い物がないが、金持ちには平穏がない」。世界で最も高いところにある空港の一つからボリビアのラパスまでのびる二車線の道路沿いの壁に落書きがされている。落書きの前にある6つの料金ブースは、破壊されたままだ。5月にほとんど毎日のように、貧しいエルアルト市から首都ラパスの政府中枢に向かって11キロを行進したデモ隊によって打ち壊されたのだ。(ラパス=ニック・バクストン/ベリタ通信) 
 
 これまで権力の中心であったところが突然、何世紀にもわたり、権力から排除されてきた人々でいっぱいになった。巻きスカートと山高帽をかぶった先住民族の女性、赤いポンチョを着て、コカの葉で口を膨らませたアイマラ族の男、しおれた野球帽で厳しい自然にさらされてきた顔を隠したいなかの農民、議会の建物をいつでも襲撃できるダイナマイトの束を持った鉱夫たちである。 
 
 主に先住民族からなるデモ隊が声高く要求しているのは、ボリビアのガス資源の国有化である。現在は、英国のブリティッシュ・ガス、ブリティッシュ・ペトロリアムなど6つの多国籍企業によって支配されている。デモはボリビアの政治エリートを大きく震撼させた。6月6日、カルロス・メサ大統領は辞任を表明した。議会はこの申し出をまだ受理していない。議会は比較的安全な南部のスクレにあり、6月8日、危機を打開するため、早期の選挙を含む政治的選択について検討する。 
 
 鉱夫のイリアロは抗議に加わるためにラパスに6時間かけてやってきた。 
 
 「皆は金がないので、ここに来るのに頭を悩ましている。でも私は来ることにした。なぜなら、われわれの天然資源を返してもらうように求める必要があるからだ。何世紀も奪われてきたし、政府がまたわれわれから奪おうとしている」 
 
 「ガス戦争」と知られているものは、ボリビアの大多数の人々が国の富から除外されてきたことに対して反抗しているのである。 
 
 ボリビアはラテンアメリカで一番貧しい国である。人口の3分の2は貧困ライン以下の暮らしをしている。しかし、ほとんどすべてのボリビア人はこう言う。アンデスの山頂からアマゾンのジャングルにまで広がるこの内陸国は天然資源に非常に恵まれていると。石油とガスだけで、亜大陸で2番目に大きい埋蔵量がある。 
 
 現在の紛争の種は1990年に国際通貨基金と援助国政府がまいた。ボリビア政府に対して、ガス・石油部門を民営化し、税金を引き下げるよう説き伏せた。そうすれば、外国の投資が増えて、収入も増加すると保証したのだ。 
 
 実際には、政府の収入は減った。しかし、多国籍エネルギー会社は、未曾有の利益を稼いだ。ガスと石油の収入から58%を利益として取り、ボリビアは世界で最ももうけの出る国の一つになった。 
 
 さらに、多国籍エネルギー会社は、ガスの使用だけでなく内外価格も支配した。その多くは近隣国にあるそれらの子会社に安く輸出された。それはボリビアを長期的に貧困から抜け出すために役立つ石油・ガス製品を開発するために使われることはなかった。 
 
 多くのボリビア人にとって、自分たちの資源を安く売却することは、17、18世紀にスペイン人がポトシの銀鉱山を盗み取ったことを思い起こさせた。彼らが盗み取った銀は欧州の産業発展を助けた。怒りが膨らんでいった。 
 
 熱狂的な自由市場主義者ゴンサロ・サンチェス・デ・ロサタが大統領としての2期目の2003年秋、ガスをチリに輸出する新しい契約を発表すると、何百万人のボリビア人が感じていた怒りが爆発した。 
 
 ガス戦争が始まった。最初の抗議の波で60人以上が死亡した。サンチェスは国を脱出、副大統領だったメサが昇格。ボリビアのガス資源の将来の利用について国民投票をすると約束した。 
 
 国民投票は正規に行われた。だが、抗議者の目にはいくつかの欠陥があった。それは世界銀行が一部金を出していた。質問はあいまいであった。ガス戦争を始めた抗議者を動かした重要な問題、ボリビアのガス資源の国有化、は問われなかった。 
 
 これを除外したことは一時的に人々の怒りをそらせたが、鎮めることはなかった。2005年5月17日、ボリビア議会は、新しい「炭化水素法」を採択した。それを喜ぶ者は誰もいなかった。 
 
 多国籍エネルギー会社とボリビア政府は、それを「没収的だ」と非難、外国からの投資を害すると主張した。先住民族のグループ、労働組合、その他の社会運動(先住民族の指導者エボ・モラレス率いる「社会主義運動」が有名)は、法律がガス資源の管理を国とボリビア国民に返還することになっていないと非難した。 
 
 法律は、税金を上げ、国有のYFPBを再び設立することになっている。しかし、多国籍エネルギー会社は価格を支配したままで、ガスを採掘する土地を持つ先住民族グループと話し合いを持つことを義務付けていない。一方、国は資源の開発に対して、戦略的な支配をほとんど得ていない。 
 
 多国籍企業にとって好ましい環境が続くということが最もよく示されたのは、スペインの石油会社レプソルがこの法案が通過した数週間後、数ヶ月にわたり投資を減らすと脅していたのにかかわらず、ボリビアへの投資を増やすと静かに発表したことであろう。 
 
 一方、法律が通過して以来、抗議は3週目に入った。ラパスはデモ隊でいっぱいの状態が続いている。全国の町でデモがあり、国中の農民は道路を封鎖している。国はまひ状態になっている。小さな企業は損害を受け、観光客は消え去った。 
 
 しかしながら、多くのボリビア人は抵抗の強い歴史を持っている。それは世界中の反グローバリゼーションの活動家を刺激する結果をもたらしている。2000年にコチャバンバで水道料金の大幅引きあげに反対する人々の抗議で、米国の多国籍企業ベクテルが追放された。今年に入ってからは、ラパスの近隣の都市、エル・アルトでの街頭抗議の結果、もう一つの暴利をむさぼる多国籍企業、スエズが追放された。 
 
 しかし、ガスの国営化への道は疑いなく、最も困難なものであろう。ボリビア政府は会社を買い上げる資金的な余裕はない。そのため、産業を国有化するためには、多国籍企業の資産を没収しなければならない。そうすれば、世界中から怒りの声を招きざるをえず、ボリビアは国際社会から孤立するだろう。 
 
 ウゴ・チャベスの下のベネズエラと違って、ボリビアは外国からの援助により多く頼っており、自力でやっていく経済的力に欠ける。ボリビアとの国際的連帯は弱いか、ほとんど存在しない。これに直面しても、国有化への動きを弱めかねないこの新しい「炭化水素法」に抵抗している国民運動の間では、分裂は驚くべきことに現れていない。 
 
 ボリビア人の大多数は、企業グローバリゼーションの潮流に逆らう道を築きたいと願っている。国内において、何世紀にもわたり、少数のエリートが政治的・経済的権力を制度的に握っているのを覆そうとしているのである。 
 
 エル・アルトの建設労働者ギルバートの言葉ではこうなる。 
 
 「権力にある者は余りに長く、彼ら自身のために支配してきた。ぜいたくにくらし、一方で、大多数は惨めな暮らしをしている。街頭で見られる人たちは、苦しみ、自分たちのものを返してくれと要求している人たちなのだ」 
 
 
 *本稿はラパス在住のニック・バクストン氏がopenDemocracyに掲載したものを、同氏の許可を得て翻訳、配信したもの。 
 
同氏はブログ、Open veins 
http://www.nickbuxton.info/ 
を開設している。 


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