2005年06月16日11時43分掲載  無料記事
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公共の場で飲酒のイスラム教徒兄弟にムチ打ち刑 マレーシアのイスラム法廷が厳しい判決

 【クアラルンプール16日=和田等】多数派を占めるマレー系イスラム教徒のほか、華人やインド人ら多民族が共存し「穏健なイスラム教国」として知られるマレーシアで、イスラム法廷高裁が14日、公共の場で飲酒したとしてイスラム教徒男性2人にそれぞれムチ打ち6回の刑と罰金5000リンギット(約14万円)の判決を言い渡した。マレーシアで飲酒に対してこれだけ厳しい判決が下されたのは異例で、各方面に驚きが広がっている。 
 
 地元英字紙ニュー・ストレーツ・タイムズ(15日付)によると、判決を受けたのはモハマド・ニザム・イブラヒム被告(32)とモハマド・ナシャ被告(30)の兄弟。2人は昨年8月、同国東海岸パハン州クアンタンにあるレストランでビールを飲んだとして、イスラム宗教局の取締官によって逮捕された。 
 
 ともに工場労働者の2人は、1982年イスラム宗教行政・パハン州マレー伝統条例(87年に改定)136条に基づいて起訴された。同条項では有罪と認定された者に対して最高3年の懲役刑もしくは罰金刑、ムチ打ち刑を科すと規定している。これまでイスラム教徒が飲酒によって起訴された場合、罰金刑が科せられるのが通例だっただけに、ムチ打ち刑の判決が下ったことに兄弟をはじめ、裁判を傍聴していた人たちは驚きを隠せない様子だったという。 
 
 同高裁のアブドゥル・ラーマン裁判官は「イスラム教徒に法違反を犯さないよう警告する意味で重い罰則を言い渡した」と厳しい刑を下した理由を説明したが、モハマド兄弟はイスラム法廷控訴裁判所に控訴する構えを示している。 
 
 マレーシアでは現在、イスラム教徒のマレー人に対してイスラム法が適用されている。イスラム法は主に家族関係法として活用されているほか、飲酒やラマダン(断食月)中に断食の決まりに従わなかったなどの宗教的な規律違反に対して適用されるが、これまでそれほど重い罰則が下されることはまれだった。 
 
 これに対してイスラム国の樹立を党是に掲げる野党、全マレーシア・イスラム党(PAS)は、イスラムの規律を犯した者に対して公開投石や手首の切断といった罰則を含めた厳格なイスラム法をマレーシアに導入するよう求めているが、連邦憲法はこうした罰則を施行することを禁じている。 
 
 一方、英国植民地時代に制定されたマレーシアの刑法には、レイプや近親相姦、麻薬の使用、不法入国など40以上の罪状に対してムチ打ち刑を科すとの規定があり、マレーシア政府は現在、刑務所内での収容者増加を解消する窮余の策として、刑期を短縮する代わりにムチ打ちの回数を増やすことを検討している。

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