2005年06月21日16時56分掲載
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津波被災地アチェで合同結婚式 連れ合い亡くした者同士が
死者20万人を超す未曾有の災禍をもたらしたインドネシア・スマトラ島沖大地震・津波の発生から間もなく半年を迎える。その中、最悪の被害地アチェ州でこのほど、津波で最愛の連れ合いを亡くした男女を含む計23組が、新しい伴侶と共に悲しみを乗り越え、新生活を目指そうと合同結婚式を挙げた。復興作業がはかどらず重苦しい状況が続く中だけに、被災民たちは新たな愛を誓い合った23組の男女を励ますとともに、暖かい拍手で新たな門出を祝っていた。(ベリタ通信=都葉郁夫)
インドネシア国営アンタラ通信(電子版)と日刊紙コンパス(同)が報じたところによると、合同結婚式は6月5日、アチェ州最北部アチェブサール県ゲガジャ村の被災民キャンプ内で行われた。
新郎新婦は、昨年12月26日の大地震とそれに続く大津波で最愛の連れ合いを亡くした者同士や、けがの看護をきっかけに知り合った者たち。津波ですべてを失った厳しい環境の中で暮らす者たちが、将来の生活を築くため、手を携え、支え合える新たな伴侶を見つけた。
本来であれば、新郎新婦とも華やかな民族衣装に身を包み、アチェ民族の伝統儀式にのっとって式を挙げるのが通例だが、大地震とそれに続く大津波の被害からまだ立ち直っていないため、23組の式場となったのは被災キャンプの即席式場だった。
それでも新生活に踏み出すカップルたちを祝おうと、キャンプ内には民族音楽が流れ、参列者たちは日ごろの生活の厳しさを忘れるかのように、手を取り合って踊りを楽しんでいた。
その中の1組は、60歳の新郎と34歳の新婦のカップル。新郎のシェク・シャムさんは長年連れ添った妻と子供たちを襲ってきた津波で亡くした。新婦のマリアティさんも津波で夫を失い、孤独の身となった。
被災民たちの暖かい祝福を受けたシャムさんは「このような式を企画してもらい、とても幸せだ。津波で家族を亡くした直後は気持ちが落ち込んだが、新妻と一緒に生活を築いていきたい」と喜びをかみしめていた。
今回の合同結婚式を挙げた中にはマリアティさんと同様、夫を亡くした女性が10人おり、新たな伴侶との生活に踏み出した。
こうした連れ合いを亡くした者たちとは別に、今回の津波が「縁結びの神」になったケースもある。35歳になる新郎トゥック・チュット・ニャク・ザフヤニさんは津波に流され負傷したが、その看護をしてくれたのが今回新婦となった31歳のゾラナさんだった。2人はその間に、親しみを愛に育てていったという。
▽水びたしになった土地台帳
合同結婚式は被災民たちに一時の心の安らぎをもたらしたが、津波被害とその復興という現実に目を向けると、被災民を取り巻く環境は一向に改善していない。インドネシア中央政府の土地登記庁がこのほど明らかにしたところによると、津波に襲われた膨大な量の「土地台帳」の修復作業が、いまだ一向に進んでいないという。
土地台帳は州都バンダアチェの庁舎に保管されていたが、津波の襲来で水びたしになってしまった。その量は15トンにも上る。現在は修復のため首都ジャカルタに運ばれているが、土地台帳の乾燥作業は始まっていない。
津波に襲われた地区では家屋をはじめ、何もかもが押し流され、各戸の土地境界線も不明となってしまった。今後、インフラなどの復興が進んでも、被災民たちにとり最も懸念されるのは、自分たちの土地の範囲を津波以前の状態に戻せるかどうかだ。
住民たちの思惑が深く関係するだけに、土地の区画を明確にする土地台帳の修復は極めて重要。それだけに修復作業の遅れは、被災地アチェの今後の復興や被災民たちの志気にも影響を与える可能性も指摘されている。
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