2005年06月28日21時56分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200506282156492

番号公開でインドネシア大統領の携帯電話がパンク 「国民との対話」狙った奇策が裏目?

 インドネシアのユドヨノ大統領はこのほど「国民との対話」を掲げる中で「問題があれば、私の携帯電話に直接伝えてほしい」と、同電話番号を公開したが、その結果、わずか1日間で呼び出しやメールが3000件以上も殺到し、対応し切れなくなった携帯電話はあえなくパンク状態になった。地元マスコミからは「受けを狙った奇策が裏目に出た」とも皮肉られている。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 有力日刊紙コンパスの報道(電子版)などによると、「0811109949」がユドヨノ大統領の持つ携帯電話番号。同大統領は11日、西ジャワ州で開かれた集会で、「国民のみなさんがなかなか解決できない問題や(政府への)苦情・不満があれば、24時間通じる同番号に直接電話するか、短いメールを送ってほしい」と話し、番号を公表した。 
 
 ユドヨノ大統領は昨年10月、同国で初の民主的選挙を通じて選ばれて就任した。国民との直接対話を嫌って距離を置き、それが大統領選挙での敗北につながったメガワティ前大統領の行動を“反面教師”とするかのように、ユドヨノ大統領は就任直後から夫人を伴っては各地を訪れ、国民との直接交流・対話を繰り返している。昨年12月26日のスマトラ島沖大地震・津波の際も、訪れた避難民キャンプで一泊し、肉親や家屋を失った被災民たちを慰めるなど、「国民と近い大統領」を可能な限り演出している。 
 
 とはいえ、さまざまな努力にもかかわらず、「インフレ抑制」や「汚職取り締まり」そして「貧困撲滅」など、国民が政府に最も望んでいる政策では成果を上げられず、大統領支持率は今ひとつ伸び悩んでいる。 
 
 こうした現状を打破し、同時に支持率上昇のきっかけにしようと目論んだのが今回の携帯電話番号の公開だった。「国民の悩みを自ら受け止め、解決」という「行動する大統領像」を国民に見せようとしたわけだ。目論見通り、地元マスコミは同電話番号を大々的に報じてくれた。 
 
▽殺到「予想しなかった」 
 
 インドネシアは今、他の周辺諸国にも引けをとらない「携帯電話文化」が広まり、中でも「SMS」と呼ばれる「ショート・メッセージ・サービス(メール)」が全盛で、最近では「爆弾を積んだ3台の車がジャカルタ市内を走っている」とのSMSが携帯電話を通じて一斉に流れ、これを信じた警察が各所で検問を実施するなど大騒ぎになったばかり。 
 
 大統領およびその周辺はこともあろうに、こうした国民間の「携帯電話事情」を見誤り、墓穴を掘ってしまった。電話番号が国民に知れた直後から、大統領の携帯電話には呼び出しとメールが瞬く間に殺到。旧式だったこともあり、携帯電話はこの洪水状態に対応できず、たちどころにパンク、使用不能に陥ってしまった。 
 
 英字紙ジャカルタ・ポストの取材に応じた市民の1人は「何回掛けても通じず、メッセージさえも送ることができなかった。これでは番号を公表した意味がない」と落胆の色を隠さず、逆に政府の対応のお粗末さに不信感を募らせてる始末。 
 
 これに対し大統領府の報道官は「大統領自身も呼び出しやメールがこんなに殺到するとは予測していなかった。携帯電話を新たに5台用意し、新しいシステムで受信可能にしたい」と平謝り。と同時に報道官は「本当に困った問題だけを大統領に伝えてほしい」と国民に呼び掛ける体たらくぶり。報道官によると、メールの多くは大統領の近況を尋ねるなどの「取るに足らない内容」と明らかにしたものの、市民の間からは「携帯電話が故障するほどメールなどが殺到するのは、国民が政府に対しいかに多くの苦情や不満を持っているかの証明」との声も出ている。 
 
 今回の携帯電話騒ぎを「国民受けを狙ったパーフォーマンス」と揶揄(やゆ)されないためにも、ユドヨノ大統領には民選の指導者として「国民の声は天の声」と受け止める真剣な姿勢が求められている。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。