2005年07月02日11時34分掲載  無料記事
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靖国神社問題

首相参拝の「自粛」論強まる 靖国問題めぐる各紙の論調

 靖国神社参拝をめぐる小泉純一郎首相の軽率で頑な姿勢は、日中関係を放置できない状況にまで険悪化させている。ジャーナリストの池田龍夫氏は、この問題に関する新聞報道を分析し、これまで論調のあいまいだった讀賣まで「国立追悼施設の建立」を訴える社説を掲げたことに注目している。産経以外の各紙は「首相参拝の自粛」で足並みが揃ってきたといえる。(ベリタ通信) 
 
 小泉純一郎首相の「靖国神社参拝」をめぐる日中関係の険悪化は、放置できない状況である。そこで先月号に続き同じテーマを取り上げるが、再検証に先立ち「靖国神社」の予備知識を整理しておくと、戊辰戦争での官軍の戦死者を弔うため、明治2年「東京招魂社」が創建され、10年後に「靖国神社」と改称された。幕末の志士、吉田松陰や坂本龍馬らも合祀されているが、西南戦争の賊軍・西郷隆盛は祀られていない。�猝�国の神�瓩蓮�国のために戦死・戦病死した人たち(『ひめゆり部隊』なども)246万柱余り。東郷平八郎や乃木希典は戦死者でないため合祀の対象ではない。 
 
本稿を書くに当たって、神社側に確認したところ、各戦死者名は「霊璽簿(れいじぼ)」に記帳して保管(非公開)し、「246万柱の御霊(みたま)を『一座』として本殿に祀っている」という。いわゆる「御神体」は靖国にはなく、鏡だけが飾ってあるシンプルな神殿である。所管省庁から神社へ送られてきた戦没者名を「霊璽簿」に記載することによって祭神となる。太平洋戦争敗北までの累計が246万柱に達したわけで、そこには戦前日本人だった台湾人2700余柱・朝鮮人2100余柱も含まれている。 
 
 日本古来からの神道とは趣きを異にした、天皇親政下の「国家神道」―そのシンボルが「靖国神社」である。一神社の在り方が国際問題に発展したのは不思議なことだが、深刻な対立の根っこに、「A級戦犯合祀」があることは明らかで、小泉首相の不用意な発言や行動が中・韓両国の怒りを増幅させてしまった。 
 
▼首相の軽率な発言が反発を招く 
 
 小泉首相は2001年政権の座に就いてから、�犖�約�瓩量�国参拝を毎年強行してきた。参拝の都度日中関係は悪化し、首脳の相互訪問を凍結せざるを得ない事態に陥ってしまっている。それなのに、小泉首相は「他国が内政干渉するのはおかしい」「心ならずも戦没された方々に哀悼の意を捧げる参拝で、A級戦犯のためではない」「『罪を憎んで人を憎まず』とは、孔子の言葉だ」などと平然と答えるのみで、靖国問題の背景を考えることを頑なに拒否している。 
 
特に「罪を憎んで…」とは、全く的外れな引用。加害者(日本)が被害者(中国)に向かって吐く言葉ではない。しかも、この言葉は「孔子ではなく、九代目・孔鮒(こうふ)の言葉」という。古典や警句の�爐弔泙濘�い�瓩覗蠎蠅魃譴亡�く小泉流話術は噴飯ものである。 
 
こんな独りよがりの小泉政治に、外国メディアも「落としどころなき、日中のすれ違い」(ニューズウイーク6・8号)などと呆れ顔だ。そもそもA級戦犯14人が合祀されたのは、サンフランシスコ講和条約発効から四半世紀後の1978年。関係者だけの判断で�犧弯性瓩棒�り込ませていたことが後日判明、このため天皇陛下参拝を取り止めたことは周知の事実である。60年前の敗戦時を振り返れば、日本は東京裁判を受け入れてサンフランシスコ講和条約に調印、国連にも加盟して国際社会に復帰したのである。この事実は世界共通の�猯鮖貿Ъ鵜瓩噺世辰討いぁ� 
 
「小泉首相はアジアに向かって95年の村山首相談話を引用するだけ。靖国参拝に関して『他の国が干渉すべきでない』と語る。戦死者を祀る靖国神社に行ってなぜ悪いという。A級戦犯といわれる人たちは、戦時の国家指導者として政治的責任をとるべきなのです。(A級戦犯を合祀したままで)『靖国参拝がなぜ悪い』という,その論理は、日本国内でしか通用しない。アジアに通用する論理で語らず、『東アジア共同体』といってみても、成立しないでしょう」と、松本健一氏(評論家)が喝破している通りだ(朝日5・26朝刊)。 
 
首相の頑なな姿勢を心配している折、森岡正宏・厚生労働政務官の暴言(5・26自民党代議士会)には驚かされた。「極東国際軍事裁判は、平和や人道に対する罪を勝手に占領軍が作った一方的な裁判だ。A級戦犯は罪人ではない」と息巻いたのだ。言語道断な発言を不問に付した政府の態度には、国際条約軽視の姿勢が透けて見える。 
 
小泉首相は昨年11月チリで会談した胡錦涛中国主席の追及に対して、「今後の靖国参拝は適切に処理する」と述べて理解を求めたものの、その後の首相には「内政干渉するな」との居丈高な言動が目立つ。この4月ジャカルタで両首脳が会った際も、「適切に処理する」の繰り返し。このため胡主席から「行動で示してほしい」と突っ込まれ、全く実りない接触に終わった。6月2日の衆院予算委でも「いつ靖国に行くかは適切に判断する」と鸚鵡返しに答えるばかり。ただ、岡田克也・民主党代表の執拗な追及に、「東京裁判で(A級戦犯は)戦争犯罪人と指定されており、その点は受諾している」と答弁せざるを得なかった。 
 
▼ 讀賣が「国立追悼施設を」と訴える 
 
 事態を憂慮した中曽根康弘・元首相は6月3日の講演会で「(A級戦犯を)分祀するのが一番いいが、時間がかかる。ならば参拝をやめるのも一つの立派な決断だ」と述べ、首相に参拝中止を促した。河野洋平・衆院議長も首相経験者8人の意見を集約したうえで、7日に首相を訪ねて「こういう状況の中で、慎重の上にも慎重に考えるべきだ」と自粛を求めている。首相は河野氏に「よく分かった」と答えたというが、その後記者団には「適切に判断するとしか、いまは言わない方がいいと思います」との弁明を繰り返すだけ。 
 
森喜朗・前首相も10日の講演で「自分の気持と国家の命運のどちらを優先させるべきかだ。日本の将来がどうなるかという問題だ」と述べ、自粛を言外に匂わせている。首相が参拝強行の拠り所とした日本遺族会(古賀誠会長)までが11日の幹事会で「参拝は有り難いが、英霊が静かに休まることが大事だ。近隣諸国に配慮し、理解してもらうことが必要だ」との見解を突きつけるに至っている。 
 
朝日・毎日・東京が「首相参拝の自粛」を主張していたのに比べ、讀賣の論調に曖昧さを感じていたが、6月4日「国立追悼施設の建立を急げ」と題する一本社説を掲げて旗幟を鮮明にしたことが注目される。「小泉首相は、いわゆるA級戦犯について『戦争犯罪人であるという認識をしている』(6・2衆院予算委)と述べた。『犯罪人』として認識しているのであれば、『A級戦犯』が合祀されている靖国神社に、参拝すべきではない。……靖国神社が神道の教義上『分祀』は不可能と言うのであれば、『問題解決』には、やはり、無宗教の国立追悼施設を建立するしかない」と言い切ったのだ。 
 
理解されやすい常識論と思えるが、産経が7日の主張欄ですかさず取り上げ、「最近、朝日新聞だけでなく、保守主義を基調とする読売新聞までが『国立追悼施設の建立を急げ』とする社説を掲げた。……首相の靖国参拝について『他国の干渉によって決めることではない』とした讀賣の論調(5・25社説)は、どこへ行ってしまったのだろうか」と批判したのも異常な反応だ。 
 
 自国の歴史認識に明らかな過誤があった場合、他国からの指摘を�狷眄�干渉�瓩醗貶�的に退けることはできまい。そもそも侵略戦争こそ究極の内政干渉ではないか。被害国には戦争の歴史的評価に対して異議を申し立てる権利があり、それを抜きにして共通の�猯鮖貿Ъ鵜瓩鯑世蕕譴襪呂困�ない。特に靖国問題では、「A級戦犯合祀」を曖昧に処理したままで乗り切ろうとした日本側に「歴史認識の欠如」があったわけで、開き直って�狷眄�不干渉�瓩噺世つイ譴詁四�はなかろう。 
 
「小泉首相がA級戦犯の合祀された靖国神社に参拝することで、日本政府が村山総理談話に示された政策を変更したかの印象を生んだ。一方、官房長官の私的懇談会は、小泉政権下、靖国に代わる無宗教の国立慰霊施設の建立を提言している。いま首相のなすべきことは、アジア・アフリカ会議における演説を踏まえ、靖国参拝をやめ、新しい国立慰霊施設の建立を決定し、胡錦涛主席訪日の際には参拝してもらうことである」という白石隆氏(政策研究大学院大学副学長)の指摘(讀賣5・29朝刊)に、難問解決のカギがあると思う。 
 
「『あの戦争は正しかった』、少なくとも『それほど悪くはなかった』。15年戦争の正当化または美化――これは世界の大部分の国で今や常識とされている歴史観の裏返しである。この『歴史意識』は中国のみならず日本自身を含めてのアジアの未来を脅かすだろう。…靖国神社は戦争で死んだ軍人・軍属を祀るばかりでなく、戦争を解釈するから、首相の参拝が国際的意味をもつのである」(加藤周一=朝日5・23夕刊)………。小泉首相に届けたい「憂国の具申」である。 
               (池田龍夫=ジャーナリスト) 
 
(この記事は『新聞通信調査会報』7月号に掲載されたコラム「プレスウォッチング」の転載です) 


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