2005年07月07日18時23分掲載  無料記事
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取材源秘匿貫いたとNY社 ミラー記者収監で波紋広がる

 米中央情報局(CIA)の工作員の氏名漏洩問題に絡み、取材源の公表を拒否し、法廷侮辱罪に問われた米ニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラー記者(57)が6日、米バージニア州の施設に収監され、取材に携わる報道機関に衝撃が広がっている。同日、土壇場で取材源を公表すると態度を変えたタイム誌のマッシュー・クーパー記者は、収監を免れ、明暗を分けた。ニューヨーク・タイムズ社は同日声明を発表し、ミラー記者が収監の道を選んだことは、取材源を秘匿するジャーナリズムの原則を貫いた正当な行為だと指摘した。(ベリタ通信=有馬洋行) 
 
 CIA工作員の氏名漏洩問題は、2003年7月に保守系コラムニスト、ロバート・ノバク氏が、ホワイトハウスの政府高官(複数)の話として、ブッシュ政権批判をしていた元ガボン米大使ジョセフ・ウィルソン氏の妻バレリー・プレイムさんは、「CIAの秘密要員」と記事の中で暴露したのがきっかけ。その後、他のジャーナリストも記事を追いかけ、記事にした。プレイムさんの氏名公表は、ウィルソン氏への報復と見られる。 
 
 CIAの氏名を公表するのは、秘密行動をするCIA要員の生命を脅かす恐れがあり、重大な連邦犯罪とされている。このため政府高官は誰かをめぐり、フィッツジェラルド特別検察官の下で、氏名漏洩問題の実態解明が行なわれた。 
 
 政府高官やジャーナリストが、連邦大陪審(起訴陪審)での証言を求められ召喚されたが、ジュディス・ミラー記者とマッシュー・クーパー記者は、取材源である政府高官の氏名公表を拒否、法廷侮辱罪に問われた。下級審では有罪と認定され、上告したが、連邦最高裁は5月末、両記者の訴えを却下した。 
 
 6日、連邦地裁は、両記者に収監の刑期を言い渡す予定だったが、クーパー記者は同日朝、取材源から氏名を公表をしてもかまわないとの連絡が入ったため、急遽、取材源公表を決めた。このため地裁判事はクーパー記者は収監せず、証言を拒んだミラー記者を、連邦大陪審の任期が満了する10月末まで収監することを命じた。クーパー記者の取材源は、カール・ローブ大統領上級顧問とみられている。 
 
 これまで、取材源の公表をめぐり、検察側は、重大な連邦犯罪の解明のためには、ジャーナリストといえ、証言拒否は許されないと指摘。これに対し、主要メディアは、政府権力の不正や腐敗を暴くジャーナリストの使命を挙げ、また政府の内部告発者の氏名を秘匿しなくては、情報は入手できないとして、強く反発してきた。 
 
 工作員の氏名漏洩問題では、メディア仲間から、最初に記事を公表したロバート・ノバク氏について批判が高まっている。同氏は、記者仲間が苦境に陥っているのにもかかわらず、事件の核心部分には口をつぐんでいる。ノバク氏は法廷侮辱罪に問われていないことから、既に大陪審で密かに取材源について証言している可能性もある。 
 
 今回収監されたミラー記者は、クーパー記者と違い、取材はしたが、記事にはしていない。特別検察官が、なぜ執拗にミラー記者に取材源の公表を迫るのか不明だが、連邦大陪審に出廷した政府高官が、「ミラー記者に話した」と証言しているためかもしれない。 
 
 メディアは、ミラー記者の収監を受け、現在連邦議会に提出されている「情報自由法」の成立を求めている。この法律は、記者の証言は、事件解明に不可欠な場合に限定するもので、記者の保護を手厚くする内容だ。しかし、共和党が上下下院で多数を握っている状況下で、直ちに成立する見込みは立っていない。 


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