2005年07月14日14時05分掲載  無料記事
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タイ仏教徒を震撼させる首切断事件 イスラム過激派の報復か

 東南アジア諸国の中では、治安状況が比較的安定しているタイで今、仏教徒を襲って、その首を切り落とす残忍な事件が南部3県で相次いで起き、犠牲者は6月だけで既に7人にも達している。事件はいずれも、3県の分離・独立を主張するイスラム過激派組織による犯行とされ、目的はタクシン政権の進めるイスラム取り締まり強化策への報復と警告とみられている。治安当局は犯人逮捕に全力を挙げているが、目撃者らが「仕返し」を恐れて口を開かないため、どの事件も解決の糸口さえつかめていない。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 恐怖の「首切断事件」が起きているのは、マレーシアと隣接するタイ南部のヤラー、パッタニ、ラナティワートの3県。住民の多くがイスラム教徒のこれら3県は、経済開発から取り残されていることなどもあって、仏教徒主流の現支配体制に反発・抵抗する気運が強い。1970年代後半以降、パッタニ統一解放機構など分離・独立を掲げるイスラム過激派組織の活動拠点となっている。 
 
 最近では、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダの活動、さらにマレーシア、インドネシアそしてフィリピンのイスラム過激派からの影響も受けて、3県での反政府武装闘争が激化し、軍・警察部隊との衝突や爆弾テロ事件もしばしば起きている。 
 
 タクシン政権は現在、3県の一部を「非常事態」下に置き、イスラム勢力への監視と取り締まり強化策を実施し、イスラム教徒たちを明白な証拠もないまま拘束、厳しく取り調べている。イスラム過激派はこうした治安対策を「イスラム教徒を狙い撃ちにした差別行為」と非難、容赦ない取り調べを行うタクシン政権に反発を強めている。 
 
 こうした中、3県では今年6月に入り、一般の仏教徒たちが犠牲となる襲撃・首切断事件が連続して起きている。同月6日、ヤラー県ヤハー郡のゴム園では、仏教徒の男性労働者(59)が首を切られて殺害された。この男性は政治活動とは全く無縁で、日ごろの行動からは殺害される理由は見つかっていない。 
 
 同月中旬にはパッタニ県ヤリン郡に住む仏教徒の元教師(65)が首なし死体で発見された。首は遺体発見現場から数キロ離れた路上に放置されていた。 
 
 ヤリン郡ではまた、タイ東北部の隣国ラオスから出稼ぎに来ていた仏教徒のラオス人夫婦が、働いていた養鶏場の宿舎内で殺害された。2人の切断された首は宿舎から約8キロ離れた路上に放置されていたポリ袋内から発見された。 
 
 続いてヤラー県では、ゴム農園へ働きに出る途中の仏教徒のタイ人夫婦がオートバイに乗った5人組に銃撃された後、のどをかき切られ、2人とも首がほぼ切断状態だったという。 
 
▽目撃者の目の前での凶行 
 
 さらに、同月下旬にナラティワート県内で起きた事件は、白昼、しかも多くの目撃者がいる中での凶行だった。犠牲となったのは衣料品を行商していた仏教徒のタイ人男性(34)で、同県チョアイロン郡にある茶店近くで休んでいたところ、オートバイに乗った2人組に銃撃された。 
 
 背中を撃たれた男性は茶店内へ逃げ込んだが、追ってきた犯人の1人に押さえられ、目撃者たちの目の前で、首を切断された。切り落とされた首は犯人に持ち去られた後、茶店から約2キロ離れた路上のポリ袋内から見つかった。 
 
 これらの事件でほぼ共通しているのは、切断された首が見つかった現場に、イスラム過激派のものとみられる“犯行声明”が残されていたこと。それには「無実の(イスラム教徒)1人が逮捕されれば、無実の(仏教徒)2人を殺す」と書かれ、タクシン政権のイスラム対策に激しい敵意を表している。 
 
 これに対しタクシン政権は3県での経済開発促進などを発表、イスラム勢力懐柔を図っている。しかし、東南アジアのイスラム系地下組織ジェマ・イスラミヤ(JI)とも連携する同過激派組織は、タクシン政権との対決姿勢を崩していない。仏教徒を震え上がらせている「首切断」事件は、南部3県を中心に当面、続きそうだ。 


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