2005年08月16日04時00分掲載
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【コラム】辟易した世界陸上中継 視聴者をあざむいた「このあとすぐ」「優勝候補」
日本のテレビ局の視聴率至上主義に、辟易とさせられるようになって久しいが、ＴＢＳ系列が１４日まで連日放映したヘルシンキでの世界陸上中継ほど不愉快な放送はなかった。注目競技が始まる一時間以上前から「このあとすぐ」を連呼して今にも競技が始まるかのように視聴者をあざむき続けたほか、日本選手のメダルの可能性を全般に過大評価、視聴者に誤った情報を与え続けた。視聴率至上主義と「がんばれニッポン」一色のナショナリズムに偏りすぎた中継スタイルだった。（稲元洋）
独占中継の放映権料、映像の送信コストなど莫大な費用をかけた中継だっただけに、一定の視聴率を獲得を目指さざるを得ない社内事情があったにせよ、視聴者をあざむく「放送言語」を連発したＴＢＳには良識が欠けていたといわざるを得ない。
１３日、１４日と続いた男子、女子のマラソン中継前には「マラソンは７時から」と同局は繰り返し視聴者に伝えていたが、実際にマラソンが始まったのは１時間半ほど後の日本時間午後８時２５分ごろだった。その間は出場選手のプロフィールを繰り返し放映、それでも持て余す時間をキャスター役の中井美穂、織田裕二のほとんど意味のないトークでつないだ。
コマーシャルに入る前の画面には必ず「このあとマラソン」と入れるが、コマーシャル後にマラソンは一向に始まらない。「このあとマラソン」が五、六回、「このあと、すぐマラソン」のテロップが二、三回繰り返し表示され、視聴者をつなぎとめるトリックばかりを仕掛け続けた。
「マラソンスタートは８時２０分すぎからです」といった正直な競技開始時刻を視聴者に伝えることは全競技を通じて全くなかった。この点では昨年のオリンピック中継の方が、まだましだった。
▽本当に優勝の可能性などあったのか
マラソンに限らず、ロシアのイシンバエワ選手が出場した棒高跳び、日本選手のリレーなどでも競技が始まる３０分から一時間以上前から「このあと」「このあとすぐ」を連発。男子陸上競技の中にはスタートの２時間以上前から「このあと」や「このあとすぐ」のテロップを流していたケースもあった。
日本選手の優勝やメダルの可能性などについて、中井、織田の両キャスターをはじめ、実況陣、解説者らが冷静・客観的に語っていたとも思えない。男子マラソンの「日本の最有力選手」とされた高岡寿成選手は４位、「精鋭ぞろいの日本女子マラソン」選手最高位は原裕美子選手の６位だった。「金メダルのチャンス」と実況アナや解説者が叫んだ男子４×１００�奪螢譟爾瞭�本は決勝最下位の８位だった。
マラソンではアテネ五輪優勝者の野口みずき、シドニー五輪優勝者の高橋尚子ら実力者不出場の理由説明も一切なく、「日本最強のメンバー」とキャスターたちは連呼していた。
▽レポーター、中継映像にも問題
現地レポーターの中では、競技終了直後に選手にインタビューしていたアナウンサーの質問がおしなべて陳腐で、視聴者が聞きたいことに迫ろうとせず、いらいらさせられた。比較的評価できたのは、現地の選手の様子をよく取材し、歯切れのいいレポートにまとめていた小谷実可子のしゃべりぐらいだった。
中継映像にも問題があった。女子マラソンの場合、トップから遅れた原選手の独走映像が長く続き、トップのラドクリフ選手と２位、３位争いの映像はほとんど映らない時間帯があった。
キャスター役の織田裕二が「オリンピックで優勝したい」といった女子選手に「世界陸上で勝たなければ」と言った場面があったが、テレビ局側からは、世界陸上というイベントをサッカーのＷ杯のようにオリンピック以上のイベントとして認知させようというやや強引な意図も感じられた。
スポーツ中継は娯楽番組の性格とともに報道番組の性格も本来は持つ。日本選手を応援するのは構わないとしても、あまりにも客観性からかけ離れた情緒的な放送は、スポーツ中継の醜悪な形の一つではないか。
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