2005年09月01日14時01分掲載  無料記事
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進化論に対抗し、神の「知的計画」 米で影響力増すキリスト教原理主義

 ブッシュ米大統領が最近、キリスト教原理主義者らが唱える「知的計画(ID)」を、ダーウィンの進化論とともに公立学校で平等に教えるべきだと発言、波紋を呼んでいる。知的計画は、地球上の生命の誕生には、創造主の力が働いていたとするもので、多くの科学者が認知している進化論とは、大きく内容が食い違う。大統領の政権与党、共和党リーダーであるフリスト上院院内総務も、大統領を支援する形で、ID教育に賛成の意向を表明するなど、ID推進派の力が勢いを増す気配だ。(ベリタ通信=エレナ吉村) 
 
 進化論は、自然淘汰や突然変異論などで種の変化を科学的に説明する。これに対し、知的計画は、人間の生物学的営みには、進化論で説明がつかないことがあるとして、生命の誕生の際に、創造主の手が加わったとする主張だ。 
 
 知的計画は、聖書の創世記にある天地創造説に類似しているのが特徴だ。天地創造説では、神がまったくの無の状態から天地や動植物を作ったことになっている。 
 
 シアトルにある保守系シンクタンク、ディスカバリー研究所は、ID推進派の拠点といわれる。全米の公立学校の生徒は、進化論とともに知的計画を習うべきだ、長年にわたってID推進運動を続けている。スタンフォード、コロンビアなど一流大学出身の研究者が、ID推進の中核になっている。 
 
 同運動に資金提供しているのは、キリスト原理主義者の富裕層といわれる。原理主義者とは、聖書に書かれていることをすべて信じている人たちを指す。 
 
 大統領は8月にテキサス州で取材陣に対し、進化論とIDは平等に学校で教えられるべきだと述べ、ID教育にお墨付きを与えた格好になった。 
 
 ブッシュ大統領は、キリスト教右派などの結束で、選挙に勝利してきた。06年には米議会の中間選挙が控えており、大統領としては、キリスト教組織の支持を固めるためにも、ID支持を打ち出すのが得策と考えたのかもしれない。 
 
 この発言に呼応したのが、フリスト上院院内総務。現在の多元的な社会の下では、生徒は、IDを含め様々な考えを学ぶべきだと、早速大統領を支援した。 
 
▽科学でなく信仰 
 
 フリスト氏は、ハーバード大学医学部出身。一部のマスコミは、最先端の医学を学んだ同氏が、進化論とIDを同列視して、同等に学ぶべきだと発言したことに違和感を覚えたようだ。フリスト氏は、この少し前に、万能細胞と呼ばれるES細胞研究を支持する発言をし、保守系右派から、研究に消極的な大統領に背いたと批判が集中していた。 
 
 同氏は08年の大統領選挙への出馬を検討している。案の定、キリスト教右派のご機嫌を取るため、ID教育支持を打ち上げたとの見方が広がった。 
 
 一方、多くの大学、学者陣が、知的計画には疑問の声を上げている。進化論のように科学と呼ばれるためには、研究内容について客観的な検証を受けているのが条件だからだ。知的計画は、科学というより信仰に近いとの意見だ。 
 
 また知的計画を公立学校で教えるにしても、何をどう教えるのか、今のところはっきりしていない。ディーン民主党全国委員長も大統領発言を「反科学的」と批判している。 


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