2005年10月03日14時34分掲載  無料記事
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タイで辛口のトーク番組を突然打ち切り 地元メディアは猛反発

 首相が記者からの気に食わぬ質問に「×(バツ)」印を出し、国際社会からひんしゅくを買ったばかりのタイ。今度は国営テレビ局から放映されていた辛口の時評トーク番組が突然、打ち切られる事態が起きた。同番組の主役を務める人気キャスターの発言が「一方的すぎる」がその理由。これに対し、政府の相次ぐ干渉を受けているマスコミ界は「政府批判を封じ込める“言論弾圧”行為」と反発している。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 打ち切られたのは、タイマスコミ機構(MCOT)の運営下にある国営テレビ局チャンネル9が、毎週金曜日の午後10時から1時間放映している時評トーク番組「ムアン・タイ・ライ・サプダ」(週刊タイランド)。番組は別会社の「タイ・デー・コム」が、経済紙マネージャーの創刊者ソンティ・リムトンクン氏をキャスターに採用して2003年7月から制作、契約局の同チャンネルから放映してきた。 
 
 番組の中では、タイ報道界でも「直言居士」として名を馳せるソンティ氏が、豪腕のタクシン首相個人やその政権、そして汚職のはびこる国軍や国家警察関係者らをズバリと切る辛口批評を展開することで知られる。 
 
 今回問題になったのは9月9日の放映分で、その中でソンティ氏は、タクシン首相が仏教界最高指導者の暫定人事に介入したことを取り上げ、「介入は国王の大権を侵害する行為」と示唆するとともに、匿名筆者が同大権などについて書いた論文を番組中に読み上げた。 
 
 タイでは国王は「絶対不可侵」の存在と憲法で規定され、王室を政治と絡めて話題として取り上げることは極めて困難。それに今回は、国王を頂点とする国教の仏教をも取り上げる“大胆さ”が打ち切り騒動の発端になったとみられる。 
 
 これに対しMCOTは同15日に理事会を早速開き、ソンティ発言問題を協議、その結果、番組の「即時打ち切り」を決定した。MCOTは決定に当たって発表した声明の中で、「ソンティ氏にはこれまでも何回となく『発言を慎む』ように注意し、同時に、言論人らしく公平さを保つよう要請してきた。だが、それらが受け入れられず、やむを得ず番組を打ち切ることにした」と述べた。 
 
▽政府の操り人形と批判 
 
 また、MCOTのトントン理事は、ソンティ氏が番組で国王の大権に触れたことに、王室側も困惑していると発言。さらに、「政府側から圧力があったのか」の質問には、「番組打ち切り決定と政府は関係ない」と否定、「打ち切り決定は王室を守るためで、政府を守るためではない」と釈明した。 
 
 しかし、この決定に納得がいかないのは当のソンティ氏で、打ち切り決定直後の記者会見には、王室を象徴する「黄色」のTシャツを着て登場。「国王のために闘うぞ」と書かれTシャツ姿の同氏は、「打ち切りはMCOTが政府の意を受けて行った、明白な政治的決定。MCOTは政府の操り人形と化した」と激しく非難するとともに、「私の口を封じることはだれもできない。別のTV番組に出て、あくまでも真実を国民に伝える」とぶち上げ、政府の“言論弾圧”に真っ向勝負を挑む姿勢を鮮明に示した。 
 
 タイではこのほか、有力英字紙バンコク・ポストを発行する親会社の株が最近、タクシン首相の刎頚(ふうけい)の友で、同国最大のレコード会社の会長に大量買収される事態が起きた。このため同ポストの記者らが20日、タクシン首相に抗議デモをかける騒ぎがあるなど、同首相とマスコミ界の“犬猿関係”を解く糸口は当分見いだせそうにない。 


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