2005年10月19日17時13分掲載  無料記事
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タクシン・タイ首相が辛口批評に激怒  TV司会者相手に13億円の損害賠償請求

  地元マスコミとの間で「戦闘状態」にあるタイのタクシン首相が今度は、辛口の時評トークTV番組の司会者らを相手取り、「番組中の発言で名誉を著しく毀損(きそん)された」として、総額1200万ドル(約13億5600万円)の損害賠償支払いを求める訴えを起こした。これに対し同司会者は「高額の賠償請求でマスコミを脅し、口封じを狙っている」とタクシン首相をあらためて非難するとともに、法廷の場で同首相とわたり合う決意を明らかにしている。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 首相に訴えられたのは、国営テレビ局チャンネル9が毎週金曜日に放映していた時評トーク番組「ムアン・タイ・ライ・サプダ」(週刊タイランド)を受け持っていたソンティ・リムトンクン氏のほか、相手役のソロチャ・ポーンウドムサク氏、それに番組制作会社。首相はソンティ氏らを名誉毀損の罪でも刑事告発している。 
 
 首相をこれほどまでに激怒させたのは、9月9日の放映分。その中でソンティ氏は、タクシン首相が仏教界最高指導者の暫定人事に介入したことを取り上げ、「介入は国王の大権を侵害する行為」と示唆するとともに、匿名筆者が同大権などについて書いた論文を番組中に読み上げた。 
 
 首相の怒りは、チャンネル9を運営しているタイマスコミ機構(MCOT)を動かし、2003年7月から続いていた同番組は、即刻、放映中止処分を受けた。しかし、首相の怒りはそれだけでは収まらず、今回の高額賠償請求訴訟となった。 
 
 訴えによると、ソンティ氏らは番組中で、タクシン首相が王室に忠誠を果たしていないと非難するなど、同首相の名誉を著しく傷つけた。請求額が高額になったことについてタナ・ベンジャティクン主任弁護士は「(名誉を毀損された者が)首相という極めて高い地位にあることを考えれば当然」と説明した。 
 
▽そのくらい払えると応酬 
 
 また、同弁護士は「マスコミを押さえつけようとしているのではない。しかし、マスコミが事実を曲げて報じれば、首相も一市民として訴える権利を有している」と指摘した。 
 これに対し訴えられたソンティ氏も早速会見を開き、「首相は高額の請求を脅しに使って、マスコミ封じを狙っている」と述べ、今回の訴訟の裏には、政府に批判的なマスコミに圧力を掛け、あわよくば牛耳ろうとする首相の思惑が働いているとの見解を示した。 
 
 同時にソンティ氏は「でもそのぐらいの額なら、今の私には払える」と強気に発言、訴えに真っ向から応じ、かつては支持したこともある同首相と法廷の場で決着をつける考えを明らかにした。 
 
 タクシン首相自らが訴訟を起こすのは、就任後、今回が初めてだが、所有する通信最大手のシン・コープは昨年、マスコミ関係者らを相手に、1000万ドル(約11億3000万円)の損害賠償請求を起こしている。 
 
 首相の妹も今年7月、政界へ賄賂工作を図ったと虚偽の記事を書かれたとして、これを報じた新聞社と記事の情報源となった野党政治家を名誉毀損で訴え、総額12億ドルの損害賠償支払いを求めた。いずれのケースも現在も公判が続いている。 
 
 豪腕政治家で知られるだけに、タクシン首相がマスコミとの対応で自らが譲歩し、関係修復を図るとは到底考えられず、マスコミとの“冷戦”関係はしばらく続くことになる。 


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