2005年10月25日01時37分掲載  無料記事
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比南部に爆弾テロリスト養成基地? 東南アジア域内で不安再燃

 インドネシアの国際観光地バリ島で起きた2回目の同時爆弾テロ事件を機に、イスラム系過激派の軍事訓練拠点があるフィリピン南部ミンダナオ島にあらためて疑惑の目が向けられている。同事件の首謀者とされる東南アジアのイスラム系テロ組織「ジェマ・イスラミヤ」(JI)の幹部2人が、かつて同訓練基地で爆弾製造技術などを学んだとされ、インドネシア捜査当局は、今回もその2人が事件の背後で暗躍したとみているからだ。東南アジア諸国はJIの存在に不安を再燃させ、フィリピン政府に訓練拠点の早期排除を期待している。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 フィリピン国軍当局者は今月半ば、「マニラ首都圏で爆弾テロ発生の可能性がある」と警告した。その根拠として当局者は、同国で活動するイスラム過激派「アブサヤフ」とJIのメンバーがマニラ首都圏に潜入、テロの機会をうかがっているとの情報を入手したことを挙げた。 
 
 フィリピンでこれまで、爆弾テロをたびたび起こしてきたアブサヤフが、メンバー訓練拠点としているのが同国南部に位置するミンダナオ島。北海道よりやや大きめの面積(9万1000平方キロ)を持つ同島には、約1400万人が住んでいる。 
 
 南海にあるこの同島が「テロリスト養成基地」として浮上、国際的な注目を集めたのは、米軍が2001年末、アフガニスタンにあった国際テロ組織「アルカイダ」の活動拠点のほとんどを壊滅へ追い込んで以来。アルカイダを核に集まっていたテロリストたちが、第2の拠点構築を目指し、東南アジアなどへ逃走したからだ。 
 
▽バリ島テロ事件で再び注目 
 
 そして、同年10月に発生した最初のバリ島爆弾テロ事件(死者202人)で逮捕されたJIの実行犯たちの多くが「アブサヤフ軍事訓練基地」とのつながりを自供、同基地でさまざまな訓練を受けたことを明らかにした。 
 
 中でも東南アジア諸国が注目、そして懸念と警戒を強めたのが、「アルカイダ」とつながりを持つアザハリ・ビン・フシンとヌールディン・トップ両容疑者の存在。2人はいずれもマレーシア人で、アザハリ容疑者はアフガニスタンでアルカイダと関係を深め、爆弾製造の専門家とされる。ヌールディン容疑者もアルカイダなどからの資金調達を担当、さらに爆弾テロ実行犯を「一本釣り」する重要な役割も担ったとされる。 
 
 フィリピン国内でイスラム教徒が多いミンダナオ島は、イスラム過激派、原理主義派が存在するインドネシア、マレーシアと至近距離にあり、海軍・沿岸警備隊など治安当局の監視の目をかいくぐり、特にイスラム教徒が同島に潜入するのはそれほど難しくはないとされる。事実、同島内で起きた爆弾テロ事件ではJIメンバーのインドネシア人容疑者1人が逮捕され、緊密な連携関係が明らかになった。 
 
 このためフィリピン政府は米国の協力を得て、02年からアブサヤフ壊滅を目指した合同軍事演習「バリカタン」を実施しているが、ジャングルに被われた拠点ミンダナオ島を知り尽くしているアブサヤフを壊滅へと追い詰めるまでには至っていない。 
 
 アブサヤフは04年に、マニラ首都圏マカティ市の目抜き通りで公共バス内に仕掛けた爆弾テロ事件を起こすなど、フィリピン政府をテロ攻撃で揺さぶり続けている。 
 
 10月1日のバリ島同時爆弾テロ事件では、自爆犯3人が爆弾を入れたバッグを背負い、実行したとみられる。3人の身元は依然分かっていない。このため、フィリピン捜査当局はこのほど、吹き飛ばされた3人の頭部の写真を拘束中のJI容疑者たちに見せ、3人がミンダナオ島の“テロリスト養成基地”で目撃されたかどうかなどを確認、身元確認の手掛かりをつかみたいとしている。 
 
 そうした中、英字紙フィリピン・スターはこのほど、時事漫画でバリ島同時爆弾テロ事件を取り上げた。この漫画には爆弾を手にした「イスラム兵士」が、「バリ島爆弾犯」「PR(フィリピンのこと)で養成」と染め抜かれたTシャツを着ていた。 
 
 同盟関係にある東南アジア域内諸国から信頼を得るためにも、フィリピンにとり、「テロリスト養成」の温床とされる、ミンダナオ島内のイスラム過激派軍事基地の壊滅が急務となっている。 


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