2005年10月27日00時41分掲載  無料記事
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【IPSコラム】食糧援助か食糧主権か 世界の飢えをなくすために アヌラダ・ミッタル

 食糧援助は12月に香港で開かれるWTOの閣僚会議で焦点の一つになる。オークランド研究所のアヌラダ・ミッタル事務局長は、世界の飢えをなくすためには、農業の自由化ではなく、貧しい国の農業部門を発展させ、小規模の農家を強化する政策が必要であると主張する。(IPSコラムニスト・サービス=ベリタ通信) 
 
 過去数ヶ月、新聞は「ニジェールで300万人が飢餓の危機」という見出しをつけて報じている。これは最も切迫した飢餓である。 
 
 目立たない飢餓もある。8億5200万人が影響を受けていると思われる長期的な日常的な飢えである。この数は毎年、400万人の割合で増えている。この広範囲な飢えはめったに夕方のニュースとならないが、同じように致死的なものである。 
 
 毎年、飢餓で3000万人から5000万人が死亡している。その中には毎年約650万人、5秒に一人の割合で死ぬ子供も含まれる。零細農家は世界の飢餓人口の50%近くを占め、最も酷い影響を受けている。 
 
 1996年11月、186カ国の首脳はローマに世界食糧サミットに集まり、長期的栄養不足の人々(当時8億1500万人)の数を2015年までに半減することを約束した。しかし、現在の飢えの統計を見れば、飢えとの戦いがまったく前進していないことは明らかである。 
 
 1954年に始まった国際食糧援助は、飢えと戦うために提唱され、最も宣伝された手段である。特に南の国には毎年、何百万トンもの食糧が送られている。しかし、開発途上国での余剰穀物の放出を狙った、この援助システムは、過去50年間、餓えた人々を犠牲にして、援助国の貿易と外交政策の利益のために使われてきた。 
 
 途上国での貧困と餓えと戦うための方法として薦められたもう一つの道具である農業自由化は、むしろ食糧をさらに不安定にさせた。それは農業における国家の介入の排除を必要とした。その中には販売委員会のようなメカニズムもあり、それは価格を管理し、政府が農家から農産物を買い入れ、不作の時に市場に放出する備蓄を維持する機能を果たしていた。 
 
 価格管理の廃止で食糧価格が不安定になった。そして、消費者と生産者の両者に悪い影響を及ぼした。例えば、ニジェールの現在の飢餓は、不作の結果(最近の収穫は2003年の豊作の12%しか少ないだけであった)というより、私的な取引業者が高値で利益を得ようと買いだめし、貧しい人々には食糧が手に届かなくなっている結果である。 
 
 市場の開放と現物の食糧援助によって、途上国に農産物が生産コスト以下でダンピングされた。これにより途上国での農業危機が深まり、1970年代には途上国は10億ドルの食糧貿易黒字があったが、2001年には110億ドルの赤字を抱えることになった。途上国は食糧の主要輸入国に変わり、零細家族農家の生計を破壊した。 
 
 商業輸入の代替の恐れと相まって、農産物のダンピングを避けようとして、農業自由化を提唱する世界貿易機関(WTO)による食糧援助方式を実施するよう国際的圧力が高まった。 
 
 オークランド研究所が今年行った調査(食糧援助か食糧主権か。現代における世界の飢えを終わらせるために)で、この立場は2つの基礎的な要素を見落としているという結論に達した。第一に、食糧貿易は主に先進国と商業輸入の代替に影響されるブラジルと南アフリカなどわずかな途上国に支配されている。第二に、国際的なアグリビジネスと大規模農家に支配されている食糧貿易が増大しても、貧しい国とその零細農家に市場へのアクセスと利益をもたらすことはない。 
 
 世界の飢えは12月に香港で開かれるWTOの閣僚会議で再び取り上げられるであろう。食糧援助を管理する機関として、WTOHは世界の飢えを本気で取り組むことはなく、食糧輸出国の利益に奉仕するであろう。さらに、先進国は途上国に対して、関税を廃止、アグリビジネスの企業連合による増大した農産物のダンピングに市場を開放するよう圧力を掛けている。 
 
 途上国での農産物関税は、農産物の価格低下の影響を埋め合わせする補助金を受け取ることがない農家を保護するために唯一の手段であるが、それをさらに引き下げることは、さらなる餓えと貧困をもたらすことになる。 
 
 例えば、インドは関税率を1990年−1991年の平均実行税率より65%近くまで低く下げたが、現在は世界的な価格の低迷に揺れている。食糧が不安定な2億2110万人がいるインドでは、農民の自殺が相次いでいる。国立調査機関によると、9千万人の農家世帯の48.6%近くが負債を負っている。 
 
 餓えた人たちが真に必要としているのは、食糧を受ける人権を確かなものにする強制メカニズムである。これには零細農家の生計を保護し、回復し、入手可能な食糧を増加させる国家政策への支持が必要である。結局、世界中の飢餓危機の実例は、自国の農業部門を発展させ、小規模の農家を強化する政策が長期的には、より多くの人々に食糧を供給するということを証明している。 
 
*アヌラダ・ミッタル 米国・オークランドにあるオークランド研究所www.oaklandinstitute.orgの事務局長 


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