2005年12月09日16時41分掲載  無料記事
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敵対組織員処刑の様子をDVDに記録  メキシコで麻薬カルテル抗争が激化 イラクでの手法まねる?

  大河リオ・グランデを挟んで、米テキサス州南部に隣接するメキシコのヌエボラレド市で、米国への麻薬密売をめぐり、二大麻薬カルテルによる血みどろの抗争がエスカレートしている。最近は、一方の麻薬カルテルが、相手側の殺し屋4人を拘束、その処刑の模様をDVDに記録していたことがわかった。そのやり方は、米軍が駐留中のイラクで、イスラム教過激派などが誘拐した者に対して行なう処刑方法とそっくりで、関係者に衝撃を与えている。(ベリタ通信=有馬洋行) 
 
 ヌエボラレド市では、ことしに入って、「シナオラ」と「ガルフ」の二大麻薬カルテル同士の殺戮が激化、既に100人以上が殺害されている。メキシコの麻薬組織は、警察や軍内部にも浸透し、メキシコのフォックス大統領もその腐敗ぶりに手を焼いている。 
 
 各種報道を総合すると、DVDに録画されていた4人は、「ガルフ」に所属していた殺し屋とみられる。メキシコ西部のアカプルコでことし5月に、「シナオラ」の手先となって働いていた、連邦捜査庁(AFI)の要員によって拘束され、「シナオラ」に引き渡された。AFIは、メキシコ版の米連邦捜査局(FBI)と位置づけられたエリート機関で、連邦政府に与えたショックは大きい。 
 
 処刑は、アカプルコの組織の隠れ家で実行された。DVDの中で、拘束された4人は、黒のビニール袋を張った場所に、手錠をかけられ座らされていた。いずれも殴られた跡があり、拷問を受けたようだ。目隠しはされていなかったが、4人は、カメラに向かって撮影者からの“尋問”に答え、6分間にわたり、これまでの犯行を告白した。 
 
 ことし4月に情報提供者だったジャーナリストを口封じのために殺害したこと、また6月に麻薬撲滅を叫んでいたヌエボラレド市の新警察長官を殺害する計画だ、と語っている。DVDは5月中に録画されたみられるが、実際ヌエボラレド市の新警察長官は実際に就任直後に殺害されている。 
 
▽イラクでの処刑方法に酷似 
 
 この告白の後、4人の映った画面に黒手袋をはめ銃を持った手だけが現われ、1人の頭に銃口をあて発射し、殺害した。この一連の手順は、イラクで、過激派組織が誘拐の犠牲者に対して行なっている処刑方法と酷似している。残る3人の消息は不明だが、黒のビニール袋は死体を包むものとされ、全員殺害されたとみられる。 
 
 DCDは、アカプルコから、米西海岸のワシントン州にある新聞社に郵送され、その後、その新聞社がテキサス州のダラス・モーニング・ニュース紙に提供した。DVDは同ニュース紙のネットでも公開された。同じ内容のコピーも連邦捜査当局に送られている。 
 
 メキシコ連邦検察当局によると、4人の殺し屋に尋問していたのは、AFIの要員とみられ、この事件ではAFIの要員8人と民間人2人が10人が既に逮捕された。しかし、その後逮捕されたAFI要員の5人が証拠不十分で釈放されていたことも発覚し、捜査の混乱ぶりが露呈している。 
 
 二大カルテルは、それぞれ実行部隊を持ち、「ガルフ」は「セタス」と名乗る武装組織を持っている。「セタス」のメンバーは、元メキシコ国軍のエリート麻薬撲滅部隊の要員という。これに対抗するため「シナオラ」が、AFIの要員を買収し、実行部隊として抱え込んだ公算が大きい。 
 
 DVDは、「シナオラ」が一方のカルテルを批判する目的で、宣伝のために作ったとの見方もある。捜査当局は、今後DVDなどを使った“宣伝合戦”が増えるかもしれない、と指摘している。 


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