2005年12月23日04時11分掲載  無料記事
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失われる自然と多様性の危機

  今回は、ミレニアム・エコシステム・アセスメント(MA)の理事会声明の一部を紹介する。MAとは、2000年にコフィ・アナン国連事務総長が提唱し、世界中から1360人を超える専門家がかかわったプロジェクトで、2005年3月30日に理事会声明として最初の評価報告書が公表された。すさまじい環境悪化の実態が描かれたその報告書は、依然として環境問題に取り組もうとしない政治家たちに対する緊急警告であり、今まさに人類が瀬戸際に立たされていることを示している。 
 
*ミレニアム・エコシステム・アセスメントの詳細、報告書のダウンロードは次のウェブサイトから 
http://www.millenniumassessment.org/en/index.aspx 
 
■失われる自然と多様性の危機 
 
 MA声明の核心となっているのは、厳しい警告だ。人類の活動が地球の自然の機能に相当な負担をかけているため、このままでは地球上の生態系が未来の世代を維持するのは不可能だろうと考えられるまでに事態は発展している。 
 
 増加する人口を支えるため、食料や水、エネルギーや資源を供給し続けることは、私たちが地球上で暮らしていくために不可欠な環境を作り出している動植物や生物学的過程の複雑な機能にかなりの打撃を与えることになる。 
 
 今後、人類の欲求がますます高まり、こうした機能にさらなる負担が強いられると、すべての社会が依存している自然界の構造が今よりも著しく弱体化する危険性がある。 
 
 私たちの将来の暮らしを守り、向上させていくために、自然が持つ資産をもっと賢く、より害の少ない方法で利用することが求められている。言い換えれば、私たちが日々下している決定や自分たちの行動を大きく変える必要があるのだ。 
 
 自然の本当の価値とは何か。それを経済的な観点からだけではなく、計り知れないほど生活を豊かにしてくれる自然についても私たちは学ばなくてはならない。 
 
 自然が有する資産を保護することは、何にもまして必要な課題となっている。私たちが国の発展や国家安全保障の問題に対処してきたように、今一度そのことについてもっと深く考えるべきである。 
 
 MAは、人類が健全な生態系を強く望んでいることを示すものなのだ。 
 
 にぎやかな都会の路上や巨大スーパーの店内、または近代的な電子機器工場の中から見れば、地球上の河川や森林、山々の生態系の状況などは遠い世界の出来事に思えるかもしれない。だが、これまで私たちが目にしてきたように、技術が急激に進歩しても人類が地球上のあらゆる生命の一員であることに変わりはなく、私たちが考えている以上に、そうした生命とのつながりにそれぞれが依存しているのである。 
 
 食料と水がなければ生きていくことはできない。木は住まいや家具を提供してくれる。気候も大切な要素であり、もちろん空気も必要だ。これらはすべてこの惑星の生態系の働きによって与えられているのだ。 
 
 現在、森林やサバンナは農地に変わり、田畑に水を供給するために川の流れが変えられ、技術の進歩によってかつてないほどの漁獲量を上げられるようになった。自然に手を加えることによって近年起きている変化は、急激に増加している人類に食料を供給するだけでなく、多くの人々の生活をも向上させている。 
 
 しかし、人類はかつてないほどの規模で地球の自然を消費しており、その状況をすぐに調査する必要がある。そうした作業を行ったのがMAであり、その結果明らかになったことが、地球に対して多大な負債を抱えている人類の現状である。 
 
 私たちは自然からさまざまな恩恵を受けているが、そのおよそ3分の2が世界中で減少していることが明らかになった。要するに、地球環境を操作して得た利益は、自然の資産を食いつぶすことの上に成り立っているのだ。 
 
 多くの場合、私たちは文字通り時間との闘いの中で生きている。例えば、補充されるより速いペースで私たちは地下水をくみ上げており、本来は子孫へ残すべき資産を現在使ってしまっている。 
 
 その影響をすでに実感しているのは、自然からもたらされる利益を享受しているとは言い難い人々であることが多い。ヨーロッパの食卓に上るエビは、東南アジアのマングローブ林に建設された養殖池のものだろう。マングローブ林を犠牲にして養殖池を作ることによって、自然の防波堤としての機能が弱められ、海岸近くに住む人々はより危険にさらされているのだ。 
 
▽多様性貧困の時代 
 
 私たちが負債に気付き、その増加を防がない限り、地球の生命維持機能が突然変化するリスクが一層高まり、最も豊かな人々でさえ、その影響から逃れることはできないだろう。またそれだけでなく、人々の念願である飢餓、悲惨な貧困、予防可能な病気の封じ込めの達成も危ぶまれる。 
 
 さらに私たちは、世界の生物の多様性がかつてないほど貧しい時代へと突き進んでいる。単純でより統一された風景が人間の手によって作られ、多くの生物種が絶滅の危機に直面している。それは、柔軟性に富む自然の力と、より感覚的で精神的な価値または文化的価値にも影響を及ぼしている。 
 
 だからといって、最終手段のような大げさな行動を起こす必要はない。後世に引き継がれる自然の状態は、地球上のすべての場所で行われている、あらゆる選択にかかっている。バングラデシュの村長からニューヨークの高層ビルの企業の取締役会、あるいは世界の金融相の会合からブラジルの家具店の顧客の集まりまで、選択の機会はどこにでもあるのだ。 
 
 
訳: 諸 英樹 
 
掲載:New Internationalist 2005年5月 No.378 
原題:Only protect... (失われる自然) 
 
参考 ミレニアム・エコシステム・アセスメント ウェブサイト 
http://www.millenniumassessment.org/en/index.aspx 


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