2006年03月22日18時51分掲載  無料記事
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中絶拒否のメキシコ当局、非を認め賠償金  レイプ被害少女の出産で

  メキシコ人女性が13歳の時に自宅に押し入った強盗のレイプされた。間もなく妊娠。しかしメキシコの州当局や医師、宗教家、反中絶活動家が、中絶は罪悪だとして子どもを産むよう説得し、結局この女性は中絶の機会を失った。子どもは現在5歳になり、幼稚園に通っている。この女性に対し、人権保護団体が女性の権利がはく奪されたとして支援に乗り出していたが、今月、行政当局が非を認レイプによる中絶は女性の権利だと明確に認めた。この合意に対し、人権活動家は「すべてのメキシコ人女性の勝利だ」と歓迎している。(ベリタ通信=エレナ吉村) 
 
 この女性は現在20歳になっているパウリナ・ラミレスさん。各種報道を総合すると、ラミレスさんは1999年、メキシコのバハカリフォルニア州の自宅に押し入ったヘロイン中毒の男にレイプされた。その後妊娠に気付き、中絶を望んだが、周囲から猛反対に遭った。 
 
 メキシコの各州では、原則として中絶は禁止されている。ただし、レイプや母体の健康に影響がある場合は許可される。しかし、建前上はそうでも、メキシコはローマ・カトリック教信者が多く、中絶を阻止しようとする傾向が強い。 
 
 州総合病院の医師は、モラル上からの理由としてラミレスさんの中絶を拒否した。また中絶に反対していた当時の州司法長官は、ある時、ラミレスさんを個人的に車に乗せ、教会の神父に会わせるために連れて行ったことがあったという。 
 
 このほか反中絶活動家が病院にいたラミレスさんを訪問、中絶写真を見せながら、中絶を思いとどまるよう説得した。 
 
 周囲からの中絶反対の圧力の中で、ラミレスさんは中絶のタイミングを失い、2000年男の子を産んだ。当時、メキシコ市にあローマ・カトリック教会の司教は「人間の命はどのような状況下でも尊重されるべきだ。レイプ犯の子どもだからだという理由だけでは死に値しない」と発言した。 
 
▽中絶の権利を認めさせる 
 
 
 その後国際人権保護団体がラミレスさん支援に立ち上がり、2002年に米国にある米州機構(OAS)の米州人権委員会に救済を求めて請願を行った。こうした外部からの圧力でメキシコ当局も非を認め、ラミレスさんとの和解が成立した。 
 
 行政当局はラミレスさんに対し4万ドル(約460万円)の賠償金を払うほか、高校までの子どもの教育費支援を約束した。さらに連邦政府や州政府は、レイプ被害の女性には、中絶を受ける権利があると明確に認め、今後これが阻害されないよう指導を徹底化することに合意した。 
 
 メキシコ政府の集計では、同国では年間12万人の女性がレイプ被害に遭っている。メキシコでは、レイプで妊娠した女性が中絶を望む場合、最初に被害者がレイプ犯に対する訴状を裁判所に提出する必要がある。この後、裁判所が中絶を行うことを医師に許可する決定を出す。 
 
 しかし、首都メキシコ市では、中絶前と中絶後に被害者女性の顔写真を撮ることを義務づけているなど、合法的な中絶をためらわせる仕組みにもなっている。 
 
 こうした実情から、大半が闇での中絶手術を選ぶ事態になっている。これは安全面でも問題があり、メキシコ政府によると、毎年1000人程度の女性が中絶手術後に死亡している。 


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