2006年04月13日10時30分掲載  無料記事
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根津教諭の「君が代」拒否

高圧的な人たちと励ましを送ってくれる人たち 停職「出勤」から見える日本の姿

  今春の卒業式で「君が代」を拒否して東京都教育委員会から停職3ヶ月の処分を受けた、根津公子教諭(鶴川二中)は、前任の立川二中と現任校への「出勤」と都教委への抗議行動を続けている。同教諭は日々の出来事を支援者や教え子たちにメールで伝えているが、今回紹介するのは4月10日から3日間の報告である。様々な人たちの出会いの中から垣間見えるのは、日本の社会がいまどのような方向に進みつつあるかである。言い換えれば、「君が代」問題はそのような日本の縮図なのであろう。(ベリタ通信) 
 
皆さま 
 
根津公子です。 
 
河原井さんは明日で停職から解放されます。14日から出勤です。 
 
私(根津)は、2つの学校へ「出勤」したり、都教委に抗議等に行く日々です。 
今日は、河原井さんと他に13人の人が集まってくれて、都教委に行きました。 
 
以下、日記を転載します。転載していただいて結構です。 
 
 
 
4月10日(月) 立川二中 
 
 元同僚の友人宅に駐車させてもらって、そこから自転車「出勤」を始めた。生徒の登校が終わり、読書タイムに入っていると、どなたかが道路の反対側から声をかけてくださる。顔を上げると、昨年知り合った近所のおじいさん。近くの市民センターに通っていらして、行きに帰りに挨拶を交わした方であった。駆け寄って、「先生どうしているかと思っていた」とおっしゃるおじいさんに、今年の顛末を伝えた。 
 
 
 
 立てかけたプラカードを見て、声をかけてくださる方との一瞬の出会いも楽しい。今日は2人。一人は、バイクに乗った若者が「先生がばれよ!負けるなよ!」と大きな声を残して走り去る。もう一人は、自転車から「がんばってください」と。花冷えがして、おまけに雨まで降り出す中でこうしたことばに心があったかくなる。この方たちが過ぎ去った後も、私の顔はにっこり状態が続く。 
 
 
 
 部活動のない生徒たちの下校時刻は楽しい時間だ。雨の中、新クラスのことをおしゃべりしていく生徒、「がんばって!」「ファイト!」と手を振り振り返っていく生徒。ある生徒は、「雨降ってもやるの?」と聞く。「雨だって仕事はするでしょう?」と答えると、「そうかー!」。子どもたちと接していると、私の顔は緩みっぱなし。 
 
 夜はAさんの定時制高校の入学式に参加し、ともにお祝いをさせてもらった。 
 
 
 
4月11日(火) 鶴川二中 
 
 自宅から鶴川二中までの交通費が2000円。無収入でこの出費は辛い。「どなたか無料で駐車場を提供してください」とお願いの呼びかけをしたところ、友人を介して貸してくださる方が現れた。おまけに、ラッシュ前なので公的交通手段よりも30分も時間短縮になる(6時25分自宅を出発し、7時50分学校前に到着)。本当にほんとうに有り難い。こういう人の繋がりって、とってもうれしい。 
 
 私が校門前に立って10分もすると、校長と副校長がやってきた。「保護者や近所の方から『立つのを止めさせろ』と苦情が来ている。学校の前は止めてくれないか」「弁当を地べたで食べさせるな。生徒がコンビニの前で食べるのも止めさせているのだから、と言われた」と私に言う。「すべては都教委の処分がさせること。都教委に処分を止めるように言えばいいことです」と答えて、話は終わった。 
 
 二人はそのことを告げに来たのかと思っていたら、そうではなかった。校門前で登校する生徒たちに挨拶の声かけを始めた。立川二中では私の停職2週目から地域の方が挨拶運動を始めたが、ここでは校長と副校長が、である。職員の朝の打ち合わせの時刻になっても、中に入って行かない。こんなことをしていて、学校の「運営」に支障は出ないのだろうか?私が何かをするわけでもない。ただ、出勤途上の校門前でシャットアウトされているだけのことなのに。そう伝えたが、二人は生徒たちの登校時刻を過ぎるまで立ち去らなかった。 
 
 
 
 10時50分、町田警察の若い警察官がバイクでやってきて、「110番が入ったから来た。名前は何と言うか」と高圧的に訊いてきた。「ここにいることが道交法違反などの法令違反になりますか?なるのなら、名前をいいますが」と答えると、「道交法違反でも、他の法令違反でもない」と言う。「それなら答えません」と私。 
 
 次に警察官が言ってきたことは、「大体何で停職3ヶ月なんだ!」と、あざけるような、かつ威圧的な物言いをした。「その質問は職務を越権する行為ではないですか」と2回言うと、ようやく謝り、撤回した。私を心配して来ていた友人にも「あなたもここの職員か」と訊く。権力の末端で、権力を笠に着てものを言うから、質問することに慎重さがない。だから私たちに論破されて終わる。 
 
 警察官は、無線で上司と思しき人に報告を始めた。プラカードの文字を読み伝え、「チャリンコに貼っている。隅っこに座っているだけ」と言った。上司の指示があったようで、交信を切ると警察官は、「妨害していないし、隅っこに座っているだけですから、帰ります。また110番があったら、そちらも気分が悪いだろうが、来なければならない」と言って、帰っていった。どこもかしこも、上司の指示でしか動かない日本社会をここでも見せ付けられた。 
 
 
 
 下校時間になるとまた、副校長が出てきた。仕事があるだろうに…と同情したくなる。 
 
立ち止まってじっくり読み、「がんばってください」と声をかけてくれた生徒が3人、この生徒たちはどういう問題かを知っている、あるいは知っているようだった。 
 
 見えない苦情には脅えない。直接言ってきてくれる、見える励ましに私は希望を重ねる。そう、思った。 
 
 
 
4月12日(水) 都庁に 
 
 6時に自宅を出発し、都庁に行った。8時から1時間、総勢15人で情宣とチラシまきをした。2回目の処分を受けた7年前、毎月八王子市役所の前でチラシまきをした時はほぼ全員が受け取ってくれた。声をかけてきてくれる職員もかなりいた。しかし今日の都職員の反応は、その頃とまったく違う。この7年で都教委が変容したのと同じ速度でここに働く職員の反応も変容したようだ。背広あるいはスーツ姿のこの人たちの表情は硬く、外界は何も見えないかのように庁舎の中に入っていく。 
 
 庁舎前の通路にはホームレスの人たちが大勢、寝ていた。あまりの多さに、打ちのめされた。これが「先進国」日本の格差社会の現実。「日本の象徴だね」と一人が言った。まったくだ。雨が降っていたから起きても仕方がないからだろう、寝ているその人たちを都庁の警備の職員が「起きろ」と命じていた。 
 
 
 
 チラシまきをした後、その足で皆で「停職にするな!解雇するな!」の署名を持って教育委員会に行った。ほうせんか37号に掲載した報告のように、今回も署名の行方を確かめようとしたが、はっきりしない。署名(=これまでで15497筆)を提出して、次回来る日を告げ、そのときには明快な回答ができるようにと要請してきた。 
 
皆さん、署名は続けますので、さらにご協力くださいますよう、お願いします。 
毎週、都教委には行く予定です。 
 
 
 
 その後は、多摩中裁判の進行協議が地裁であった。夜は、国労を解雇され鉄建公団訴訟をされている稚内の斉藤さんという方から、励ましの電話をいただいた。機関紙「ほうせんか」をご覧になって電話を下さったと、おっしゃる。闘っている人を見て、私も闘おう!と自然に思うようになったこと。それぞれの闘いが互いに励ましになっていること。そんな話を交わした。うれしかった! 


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