2006年05月22日14時34分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200605221434021

【IPSコラム】経済ソースコードの再設計が必要 貨幣の政治 ヘイゼル・ヘンダーソン

 【IPSコラムニスト・サービス=ベリタ通信】経済学は科学ではなく、常に偽装した政治であったといううわさが広まっている。地域通貨、物々交換、コミュニティ・クレジット、電子マネーを利用した市民活動は、貨幣(money)の政治の実体を明らかにしている。経済学は今や、社会のハード・ディスクドライブの奥深くにある欠陥のあるソースコードと見なされている。それは、好況、破たん、バブル、不況、エネルギー危機、資源の枯渇、貧困、貿易戦争、汚染、共同体の崩壊、文化と生物多様性の喪失など持続不可能なものを次々につくり出している。 
 
 世界中の市民は、この欠陥のあるコードとその基本ソフト(OS)を拒否している。世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)、それに専制的な中央銀行である。その頭の固いプログラム、「ワシントン・コンセンサス」(訳注1)は国民総生産の成長を誇大に宣伝するための処方せんであり、人間開発指数(HDI)(訳注2)、エコロジカル・フットプリント分析(訳注3)、カルバート・ヘンダーソン生活の質指標(訳注4)、その他の指標によってその正当性に異議が申し立てられている。 
 
 政治と同じように、すべての実質貨幣(real money)は交換を促進するためにつくられ、信頼に基づいたその場所でしか使えないものである。この便利な発明である貨幣は、支配者と中央銀行の裏付けだけに支えられた抽象的な国の不換紙幣(fiat currency)になった。情報技術(IT)と1980年代の銀行業と金融の規制緩和が現在の巨大な世界的カジノをつくり出すのを促した。そこでは毎日、1兆1500億ドルの不換紙幣が電子的取引によって動き回っている。その90%は純粋に投機的取引である。 
 
 米国のブッシュ大統領は、債券の利回りと金利が低水準にとどまっている謎は「世界的な貯蓄過剰(global savings glut)」が原因であるという連邦準備制度理事会の新議長ベン・バーナンキの意見を受け入れた。連邦準備制度理事会の前議長、グリーンスパンはゼロ金利政策で米国経済を過剰流動性であふれさせ、ドット・コム、住宅と世界的な資産バブルをつくり出したが、彼自身は、その謎に「当惑した」と述べた。世界最大の債務国である米国(世界の資本の大部分を借りている)と世界の新しい指導者としてのアジアの開発途上国、それに石油輸出国の間の世界的な経済的不均衡という異常事態が起きている。 
 
 「世界的な貯蓄過剰」とか、2005年9月24日付け英エコノミスト誌が主張したような、米国の借金を抱えた貯蓄率ゼロの家計から、倹約家のアジアの貯蓄者への「貯蓄の移動(shift of thrift)」があるとは思わない。わたしの考えは、次のようなものである。世界的にあふれかえった不換紙幣、そのほとんどは金融「革新」(デリバティブ、ヘッジファンド、オフショアの特別目的事業体、通貨投機、タックス・ヘイブン)で積み上げられた何兆ものドルがあり、これに対し現実世界では、品物とサービスの現実の生産がある。 
 
 今日、世界的に地域交換、物々交換、交換クラブによる実験が行われている。米国とカナダでは、デリ・ダラーズ(Deli-Dollars)、LETS,イカサ・アワーズ( Ithaca Hours)(訳注5)、その他の代用貨幣(scrip currency)がある。何十億人という人々が貨幣のない伝統的な社会で暮らし、世界のほとんどが女性は無償の活動をしている。 
 
 地域グループ・社会が独自の地域通貨と交換システムをつくると、経済学者が最も奥に隠していた秘密がわかった。貨幣と情報は等しいものであり、どちらも希少のものではない。経済学の教科書には原始的な遺物として片付けられている物々交換は、世界最大のガレージセールであるハイテクのeBayで機能しており、現存する市場を回避した例である。 
 
 中央銀行と国家の貨幣システムがどのようにして、国民を支配しているか人々は知り始めた。マネーサプライ、クレジット、金利など中央銀行総裁が秘密にしたがるテコと蛇口を通じて、希少性(訳注―希少な資源や限られた時間のこと)、雇用レベル、住宅や車のローンの有用性をマクロ経済運営することによって支配している。 
 
 そのような構造にもかかわらず、経済学の聖なる衣装は引き剥がされ、貨幣システムは脱構築され、健全で地域に役立つ、現実世界での代替物が成長し、広まっている。2000年にブラジルのポルトアレグレでブラジルの改革派によって始まった世界社会フォーラムは、そのような多くの世界的な運動のひとつである。2001年のアルゼンチンのデフォルトで市民は、独自の通貨、フリーマーケット、電子的交換システムは公式通貨であるペソより信頼できることを学んだ。アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラは「ワシントン・コンセンサス」の処方せんから国の経済を自由にするため、IMFの貸付金を全額返済すると発表した。 
 
 今、世界的なカジノが抽象概念、デリバティブ、通貨先物取引、金融バブルという危機に再び達したが、前にもあったことである。今日の世界的な不均衡、赤字、不安定な通貨、貧困、債務危機に対しては、その欠陥のある経済ソースコードを体系的に再設計する必要がある。財務相・中央銀行総裁が憂慮し、「新しい国際金融制度」の構築をむなしく訴えている。 
 
 「どちらか一方」という誤りに陥る前に、教条的な「小ささ」、イデオロギー的な地域主義、無条件反射的リバタリアニズムを避けるべきである。それらはどれも、市場原理主義者によるグローバリズムの脅威から地域社会を守ることはできない。好むと好まざるかを問わず、われわれは「グローカル(glocal)」なのである。今日のような情報が溢れた世界では、地域社会はどれを退け、どれを受け入れるかの分別がなくてはならない。 
 
 すべてを拒否することは、硬直性、外国人嫌い、歴史の読み誤りを招くことになる。現在の世界の持続不可能な経済潮流をすべて受け入れることは、その土地の文化、生物多様性の喪失、資源の枯渇を必ず招く。われわれ人間は、新しい計画と技術をつくるのがうまかった。それは、われわれの体系的知識や洞察力の欠如を反映している。そのような社会的変化と予期しなかった結果から学び、進歩しなければならない。さもなければ、生態の崩壊に遭うことになる。 
 
*ヘイゼル・ヘンダーソン 未来学者 著書「地球市民の条件―人類再生のためのパラダイム」 
 
訳注 
1.ワシントン・コンセンサス 
米政府や国際通貨基金(IMF)、世界銀行などが発展途上国に勧告する経済政策の総称。貿易・投資の自由化、公営企業の民営化など政府の介入を極力小さくする一方で、通貨危機に対しては財政緊縮、金融引き締めを提言する政策。 
2.人間開発指数 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E9%96%93%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%8C%87%E6%95%B0 
3.エコロジカルフットプリント 
http://www.mizuho-ir.co.jp/column/kankyo050621.html 
http://www.ecofoot.jp/what/index.html 
4.カルバート・ヘンダーソン生活の質指標 
生活の質のレベルを表す指数として、米国最大の社会責任投資会社(SRI)であるカルバート・グループと共同で開発した。文化や健康、教育、人権、安全保障など、生活の質を構成する12の要素を盛り込んで、社会の幸福度を評価する。 
http://www.calvert-henderson.com/ 
5.地域通貨 
http://www.econavi.org/weblogue/special/38.html 
http://www.timedollar.or.jp/index.html 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。