2006年07月09日14時42分掲載  無料記事
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右腕を自ら切断し助かった米登山家、人々に勇気を与える日々

  山登りの最中に腕を石に挟まれ、身動きできなくなったときに、人はどう行動するのか。気温の下がる山中で遭難死するのか、それとも何か別の手段を講じるのか。3年前、米ユタ州の山中で一人の青年が、落石に右腕を挟まれた。青年は6日間も腕を抜き取るともがいたが、無理だった。そして最後の手段を講じた。青年は血の気の失せた右腕のひじから下を、持っていた道具を使って切断したのだ。青年は救出され、米国のヒーローになった。今でも山登りは続けているが、その一方で、人々に勇気を与える“モチベーション・スピーカー”としても活躍している。(ベリタ通信=有馬洋行) 
 
  この青年は、コロラド州の登山家アロン・ラルストンさん(30)で、2003年5月に、「腕を切断して生還を果たした勇気あるクライマー」としてマスコミの寵児になった。全国放送のテレビのゲストにも招かれ、自らの体験を書いた本はベストセラーになった。 
 
  米紙ロサンゼルス・タイムズなどによると、当時の新聞各紙は「戦士の精神がクライマーを救った」「最強のタフ男が生還――腕切断の模様を語る」などと、センセーショナルな見出しで、このニュースを伝えた。 
 
  アロンさんは、大学で機械工学を学び、大手半導体メーカーのインテルに入社した。しかし、山登りをあきらめられず、コロラド州の4000メートル級の高峰すべてを冬場に踏破する目的で会社を辞めた。 
 
  2003年の春先の4月、隣りの州であるユタ州の山に日帰りの軽い気持ちで山登りにでかけた。これが思いもかけない事態になった。大きな石が転がり落ちてきた。アロンさんの右腕は、石と岩場に間に挟まれた。 
 
  6日経っても救出隊は来なかった。次第に腕の血流が止まり、神経はマヒ状態になった。幻覚も起きた。脱水状態になったため、自分の小水を飲んだりした。 
 
  遂に腕を切断して脱出する決意をした。持っていた山登り用の道具をつかって右腕を切断した。その後、出血を止めながら下山し、途中でハイカーに発見され、ヘリで救出された。 
 
▼自らのミスとの批判も 
 
  アロンさんの救出劇は、多方面に大きな影響を与えた。特にソルトレークシティーの女性は、アロンさんの生き抜こうとする姿に感銘して、自殺を思いとどまったとの手紙を送ってきた。 
 
  アロンさんは、自らの体験が多くの人に勇気を与えることを知り、各地で講演をするようになった。大企業からも講演依頼が来る。講演料は高いが、その分、障害児や環境団体の講演は無料で行っている。 
 
  多くの登山家仲間の間では、アロンさんが事故で右腕を失ったのは、彼の重大なミスだとの指摘がある。当日、アロンさんは、誰にも告げずに山登りをするというミスを犯していた。このため捜索開始も数日遅れた。 
 
  自らのミスを売り物にして有名になっていいのかとの批判も依然根強い。その辺の事情はアロンさんも十分理解している。数年後、世界第二の高峰K2に米国とパキスタンの遠征隊とともにアタックすることを計画している。「間違いを犯して右腕を切断した男」としてだけ、人々に記憶されたくないとの矜持もあるようだ。 


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