2006年08月10日16時54分掲載  無料記事
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【IPSコラム】米国はイランと交渉すべき 核開発阻止、中東の安定のために ダリウス・ザヘディ/オミディ・メマリアン

 【IPSコラムニスト・サービス=ベリタ通信】イランが核開発計画に強硬姿勢を取っていることとあわせてヒズボラの挑発は、ブッシュ政権でのイランに対するタカ派の影響力を増やした。彼らはイランが中東を不安定にさせている主要な原因であるとみなし、イランをさらに孤立化させ、弱体化させ、懲罰し、屈辱を与える政策に乗り出した。 
 
 イランで究極的に政権変革の準備をするためのこれらの政策は、多くの前提を基にしている。その中で顕著なものは、ヒズボラを活動不能にさせて、「イランの長い腕」を切り取ることが可能であるばかりでなく、そうすることによってレバノン、イラク、パレスチナ地域の安定によい影響を及ぼすであろうという考えである。さらに、イランは民主主義への移行に機が熟していると推定しており、イランの核計画に対処する上で究極的に最善の方法と見なされている。 
 
 ブッシュ政権は、米国のアラブの同盟国を説得して、イランの最も親密な同盟であるシリアをイランから引き離そうとした。イランを弱体化させるために国連の制裁も提唱してきた。ブッシュ政権の当局者は、ヒズボラの力の弱体化はイランの威信と戦略的能力にさらに大打撃を与えると予想している。 
 
 イスラエルはヒズボラの報復能力を低下させた。したがって、イランの核施設に対する米国の攻撃を防ぐためにヒズボラを使おうとするイランの能力を弱めたかもしれない。しかしながら、レバノンのインフラの壊滅は、特にシーア派のほとんどが住む南部での破壊は、イランとヒズボラの関係を強め、両者がシーア派の支持を得る基礎を固めることになった。 
 
 石油輸出から700億ドル以上を手にしようとしているイランは、レバノンの再建に必要な資金を喜んでヒズボラに提供するであろう。イランはまた、ヒズボラの武器を補充する機会を逃さないであろう。 
 
 一方、イスラエルに損害を与え続けながら、イスラエルの猛攻撃に耐えたヒズボラの予期しない能力は、特に一部のスンニ派の目には、世界で最も勇敢な反イスラエル組織としてのグループのイメージをよみがえらせた。 
 
 このように、ヒズボラは今やシーア派とスンニ派の分裂をますます越えてアピールするようになった。今までスンニ派は、レバノンからのシリア軍の撤退をもたらした2005年のシーダー(訳注:レバノン杉)革命に対する愛憎併存の感情を持っていたこととヒズボラがイラクのシーア派側に立っていたことから、ヒズボラと対立していた。 
 
 現在のヒズボラの指導者、ハッサン・ナスララ師はアラブ・イスラム世界で誰でも認める英雄になった。スンニ派の多数派とイラクのシーア派を仲介し、アルカイダ関係した少数派のジハーディスト(聖戦を行う人)を脇に押しやる特異な立場にいる。さらに、イランはヒズボラを説得できる特異な位置にいる。 
 
 イランのヒズボラに対する影響力はシリアのそれより大きい。米国は渋々ながらシリアに接近を図っている。しかしながら、イランは米国が政権変革で脅す限り、イラクやレバノンの安定に協力しないであろう。 
 
 ほとんどのブッシュ政権の当局者は公式には否定するが、イランにおける政権変革を好ましいと見なす。この目的のために、国務省はイランにおける変化を促進するためのオフィスを開設することに乗り出した。米国はまた、イランの市民社会を強化するために750万ドルを割り当てた。 
 
 イランのばらばらの野党勢力の間の結束を図るために、ホワイトハウスは先週、国外居住のイラン人の集まりを主催した。出席者全員はイラン政権の打倒かイラン自身の解体をもたらすことに熱心でる。米政府と国外居住者の顧問は、イスラム共和国の除去は(イラクの侵入の前に想定されていたように)、リベラルな民主主義の確立と強化をもたらすという想定で工作しているようだ。 
 
 しかしながらイランは現在、民主主義の必要条件の多くを欠いている。イラン経済の約80%は国家の手にある。民間セクターは従属的で、弱い。30歳以下のイラン人の70%は財産を持たず、中産階級とは見なされない。石油価格が高騰し、国家はさらに強力になっており、中産階級の多くは国家の隷属民になった。 
 
 さらにコンセンサスと妥協という政治文化は根を下ろしていない。アフマディネジャドの当選が示すように、市民社会のリベラルな構成は伝統的な依存分子よりも力が弱い。 
 
 外の世界、特に米国により国を開き、国費を使った民間セクターへの投資の流入だけが、イラン社会の力を強め、リベラル民主主義への移行への準備ができる。 
 
 3年前イランは、核開発計画とヒズボラとイスラエルへの立場など米国との長年の問題のすべてを解決する意欲を示唆した。しかしながら、政権変革にやっ気になったチェイニー副大統領陣営は、その考えを妨害した。そのためイランは、外部からの政権変革を防ぐ手段として核開発を加速させた。 
 
 イランが求め、米国が与えるのをあくまで拒否しているのは、核計画を中止させるための面子を保つ方法である。米国がもし本当にイランの民主化と中東の安定に関心があるなら、交渉の余地のない提案をするのではなく、イランと交渉する可能性を少なくとも支持すべきである。さらなるレバノンやイラクを生む選択肢は、地域にとっても米国にとってもよくない。 
 
 米国がイランと有意義な交流に関与することを拒否する限り、中東における安定、イランの核開発の阻止、イランにおける民主主義の促進は得られないということを米国は認識すべきである。 
 
*ダリウス・ザヘディ カリフォルニア大学バークレー校で国際政治経済、平和紛争学を教える。 
*オミディ・メマリアン イラン人ジャーナリスト。カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院の客員学者 
 


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