2006年08月19日15時44分掲載  無料記事
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時事英語一口メモ

【6】「スパゲッティと麺には気をつけろ」

ブログ版 
 
 経済記事には一般の辞書にも載っていない用語がよく出てくる。ましてやホカホカの新語であれば、ネットを使って調べるほかはない。そんなケースが最近あった。8月17日付のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に載ったフィリップ・ボウリングのコラム。見出しはWhen free trade sinks into the 'noodle bowl'であった。(鳥居英晴) 
 
 フィリピンのセブ市で開かれたAPECのBusiness Advisory Councilの会議を取材して、このコラムは書かれている。世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)が7月に決裂し、それに伴って、2国間で工業品や農産物などの貿易自由化を目指す自由貿易協定(FTA)を結ぶ動きが強まっていることに警鐘を鳴らしている。 
 
 問題は"noodle bowl"(ヌードル・ボウル)という表現である。本文中では次ぎのように使われている。 
 
 Worst of all from a practical trading perspective, rules of origin widely diverged. Singapore had seven FTAs but no standard rules of origin for them. Multiply that across all members and you have a "noodle bowl," a jumble of rules and tariffs created in the name of free trade. 
 
 The "noodle bowl" threatens the trans-Pacific bridge that APEC represents. And it threatens to turn East Asia inward on itself, away from the global market on which it has thrived and away from the growth potential that now lies in South Asia, West Asia, Africa and South America. APEC must wake up or die. 
 
 "noodle bowl" は自由貿易の名のもとにつくられたルールと関税のごちゃ混ぜ(jumble)といっている。 国際経済・貿易問題に詳しい人ならすぐにピンとくる表現なのであろう。いまいちピンとこなかったのでグーグルを馳駆して調べることにした。 
 
 最初に見つかったのがWTO collapse to fuel 'noodle bowl' effectという見出しの東京発のAFP電(7月26日)。 
 
 The breakdown of the WTO talks has dealt a blow to the trade prospects of Asia’s open economies and is likely to encourage a growing "noodle bowl" of bilateral pacts, analysts said.・・・The Asian Development Bank has warned that the mushrooming of bilateral free trade agreements (FTAs) risks creating a "noodle bowl" of overlapping rules that could actually make life harder for companies. 
 
 「WTO交渉の決裂は、アジアの開放経済の貿易見通しに打撃を与え、“ヌードル・ボウル”の2国間協定がますます促進されそうだ、とアナリストが語った。・・・アジア開発銀行は、FTAの急増はルールが重なりあう“ヌードル・ボウル”をつくりだし、会社にとって仕事がかえってやりにくくなる危険がある、と警告した」 
 
  アジア開発銀行は4月に発表された「Asian Development Outlook 2006」で"noodle bowl"という表現を使っている。 
 
 さらに調べると、この言葉のもとになったのは“spaghetti bowl effect”(スパゲティ・ボール・エフェクト)であることがわかった。 
 
 FTAの数が増えていくと、貿易ルールが入り乱れて、スパゲティ・ボウルのように、グチャグチャの状況になって貿易政策が行き詰まること指す。米コロンビア大学のジャグデシュ・バグワティ教授が1995年に命名した。つまり"noodle bowl"は“spaghetti bowl”の東アジア版というわけである。 
 
 バグワティはインド出身の経済学者で、一貫して自由貿易主義を主張してきた。邦訳書には「グローバリゼーションを擁護する」「自由貿易への道―グローバル化時代の貿易システムを求めて」がある。ポール・クルーグマン教授はかつて教え子であった。 
 
 APECのこの会議にバグワティが出席し、講演していた。14日付のフィリピン紙 Philippine Daily Inquirerは次ぎのように報じている。 
 
 “Trade experts picked up Bhagwati's phrase and coined the "noodle bowl" effect, referring to what is happening in the Asian trade arena.”(貿易専門家はバグワティの用語を採用して、アジアの貿易分野で起きていることを“ヌードル・ボウル”効果と命名した) 
 
 バグワティが"spaghetti bowl"という言葉を使ったのには、もうひとつの理由があった。 
 
 "Another reason is that my shirt gets messed up whenever I eat spaghetti.”( スパゲッティを食べる時にはいつも、シャツをメチャクチャにしてしまうからだ) 
 
 “BEWARE OF SPAGHETTI AND NOOdles, they can make a mess of global trade as well as your shirt。”(スパゲッティと麺には気をつけろ。シャツだけでなく世界貿易も台無しにしてしまう) 
 
参考サイト 
 
http://www.iht.com/articles/2006/08/16/opinion/edbowring.php 
http://services.inq7.net/express/06/08/14/html_output/xmlhtml/20060814-15101-xml.html 


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