2006年09月09日13時38分掲載  無料記事
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時事英語一口メモ

【11】インテリジェンスとは何か

ブログ版 
 
 外務省のラスプーチン、佐藤優氏の一連の著作や手嶋龍一氏の小説「ウルトラ・ダラー」で、インテリジェンス(intelligence)という言葉がbuzzword(流行語)になっている。安倍政権では、首相直轄の「対外情報機関」を創設して政府のインテリジェンス機能の強化するという。産経新聞は8月24日、次ぎのように報じている。 (鳥居英晴) 
 
 「安倍晋三官房長官が、次期首相就任を見据え、首相直轄の「対外情報機関」を創設し政府のインテリジェンス(情報・諜報(ちょうほう))機能の強化を検討していることが23日、明らかになった。「対外情報機関」は「日本版CIA」ともいえるもので、日本が自前の情報をもたなければ外交・安保政策は立ちゆかず、国と国民の安全、国益を確保することはできないとの問題意識がある。 
 
 政府には現在、警察庁、公安調査庁、内閣情報調査室などの情報部門がある。しかし、国内の治安情報の収集、分析に重点が置かれ、対外情報の収集は諸外国に比べ人員、権限とも極めて脆弱(ぜいじゃく)で「戦後日本がもっとも軽視してきた分野」(自民党幹部)だといえる。 
 
 検討されているのは、「対外情報機関」を内閣官房に置き、国内外で国際テロ情報、外国の政治、軍事情報の収集活動にあてる。米中央情報局(CIA)や英対外情報部(MI6)など各国の情報機関とも、情報交換をはじめ連携する体制を構築。要員は警察、防衛両庁や内閣情報調査室、外務省、民間から優秀な人材を登用する」 
 
 AFPは、この記事をLeading PM candidate plans ‘Japanese CIA’という見出しで次ぎのように転電している。 
 
 Shinzo Abe, the front-runner to be Japan's next prime minister, is considering setting up a spy organisation similar to the US's Central Intelligence Agency (CIA), a report says. 
 
 Abe, currently the chief cabinet secretary, is looking at creating an intelligence body directly under the prime minister, the conservative Sankei Shimbun newspaper reported without giving its sources. 
 
 The new agency would be a response to concerns that Japanese police and other bodies have focused intelligence gathering on domestic matters, and lack the resources and authority for international activities, the report said. 
 
 The spy agency, if created, would work with such bodies as the CIA and MI6 of Britain to collect and analyze information related to international terrorism, politics and military affairs, the Sankei said. 
 
 産経の記事には、情報の出所が示されていない。国際的に通用する英文記事には必ず情報の出所(attribution)が明示される。AFPが“without giving its sources” という句をわざわざ入れたのはそのためである。 
 
 この記事では、情報はintelligenceともinformationとも訳されている。両者はどのように異なるのか。 
 
 英英辞典ウェブスターはintelligenceについて次のような説明をしている。The ability to apply knowledge to manipulate one’s environment or think abstractly as measured by objective criteria.(環境をコントロールするために知識を応用する能力、あるいは客観的基準で判断されるような抽象的に考える能力) 
 
 一方、informationについては、knowledge obtained from investigation, study, or instruction(調査、研究などによって得られた知識)などと説明している。 
 
 鈴木宗男衆議院議員は、インテリジェンスという言葉に関して質問主意書を3月3日、同17日、4月4日の3回にわたって提出している。2004年5月の在上海総領事館員自殺事件に関連して、国会の審議で政府参考人が「インテリジェンスの問題にかかわる」として答弁を拒否したためだ。 
 
 「インテリジェンスの定義は何か」、「インフォメーションの定義は何か」、「情報の定義は何か」、「情報と諜報」「情報とインテリジェンス」「諜報とインテリジェンス」のそれぞれの共通点と相異点などについて質している。 
 
 政府の回答は、要約すると次ぎのようになる。 
 
 「インテリジェンスとは、一般に、知能、理知、英知、知性、理解力、情報、知的に加工・集約された情報等を意味する」、「インフォメーションとは、一般に、情報、報道、知らせ等を意味する」、「情報とは、一般に、ある事柄についての知らせ、判断を下したり行動を起こしたりするために必要な知識等を意味する」、「諜報とは、一般に、秘匿されている情報を入手して知らせること又はその知らせを意味する」 
 
 通り一遍の回答である。PHP総合研究所が6月に発表した「日本のインテリジェンス体制 変革へのロードマップ」ではインテリジェンスとインフォメーションを次ぎのように定義している。 
 
 「加工、統合、分析、評価および解釈して生産されるプロダクトで、国家が安全保障政策を企画立案、執行するために必要な知識。なお広義では、インテリジェンスが生産されるプロセス、工作活動、防諜活動やインテリジェンス組織まで指すことがある」(インテレジェンス) 
 
 「インテリジェンスのもととなるもの。報告、画像、録音された会話等のマテリアルで、まだ加工、統合、分析、評価および解釈のプロセスを経ていないもの」(インフォメーション) 
 
 これは安全保障という枠での狭義の定義である。大森義夫・元内閣情報調査室室長の説明の方が一般的でわかりやすい。「インフォメーションを丹念に精査することによって、またインフォメーションを種々組み立てることによってターゲットの概念図を描くことができる。その上で、足りないものは何か?それを追求するのがインテリジェンスである」(「日本のインテリジェンス機関」)。 
 
 中国語ではintelligenceは「智力、情報、諜報」、informationは「情報、通知、信息」などと訳され、最近では「信息」が普及しているという。大森氏は、日本でもinformationは「信息」に統一され、intelligenceは諜報ではなく、情報と使うようになるのではないかと予測している。 
 
 ところで、「軍事研究」9月号別冊「日本の対外情報機関」に面白い記事があった。これまでほとんど国内の「公安」をやってきた日本の情報機関は、自分たちが日本を代表する正当な情報機関であることをアピールするために、先を争うように英語名にintelligenceという言葉を入れて、イメージチェンジを図っているという。 
 
 内閣情報調査室は1986年に内閣調査室(Cabinet Research Office)から改名された。当初、英文名はCanbinet Information Research Officeであったが、いつのまにかCabinet Intelligence and Research Officeに変えた。 
 
 外務省は1993年、それまでの情報調査局(Information Analysis, Research and Planning Bureau)を国際情報局(International Intelligence Bureau)に変えた。2004年には国際情報統括官組織(Intelligence and Analysis Service)になった。 
 
 防衛庁の情報本部(Defense Intelligence Headquarters)は、1997年に創設された。 
 
 警察庁は2004年に警備局を改編し、長官官房国際部の一部と外事課(Foreign Affairs Division)を合併したかたちで外事情報部(Foreign Affairs and Intelligence Department)を発足させた。 
 
 極めつけは公安調査庁で数年前、日本語の名前はそのままに、英語名をPublic Security Investigation AgencyからPublic Security Intelligence Agency にこっそり改名した。「調査」を強引に“超訳”してintelligenceにした。PSIAという略称は変わらないのがミソだ。 
 
 同記事はこう結んでいる。「外国人からみると、今、日本ではインテリジェンス機関が雨後の筍のようにいきなりどんどん誕生しているようにみえるかもしれない。ちょっと変だ」 


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