2006年09月16日21時05分掲載  無料記事
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時事英語一口メモ

【12】固定されていない大砲

ブログ版 
 
 イマニュエル・ウォーラーステインによると、中東でのそれはイランでもイラクでもなく、イスラエルでも米国でもない。それはパキスタンであるという。それとは loose cannonのことである。(鳥居英晴) 
 
 The Loose Cannon in the Middle Eastと題したウォーラーステインの最新の評論は次ぎのように述べている。 
 
 Everyone's attention is in the wrong place. Most analysts, journalists, and political leaders worry about some government doing something truly destabilizing in the Middle East that will launch widespread regional havoc. 
 
 (どの人も注意を間違ったところにおいている。ほとんどのアナリスト、ジャーナリスト、政治指導者は中東地域を大混乱にさせるようなことをする政府のことを心配している) 
 
 The standard culprits -- differing according to one's political persuasions -- are Iraq, Iran, Israel, and the United States. But in fact, for different reasons, none of these countries is likely, now or in the near future, to provoke a scenario that could lead to generalized warfare. 
 
 (政治信条によってそれは異なるが、主な容疑者はイラク、イラン、イスラエル、そして米国である。しかし実際には、異なった理由で、それらのどの国も、現在あるいは近い将来、全面戦争につながるようなことを引き起こすことはなさそうだ) 
 
 ウォーラーステインはそれぞれの国について、その根拠を挙げている。そして、中東におけるloose cannonはパキスタンであると断じる。 
 
 loose cannonは固定していない大砲を意味するが、比ゆ的表現である。ウェブスターはdangerously uncontrollable person or thing(危険なまでに手におえない人物ないしもの)と説明している。 
 
 なぜそのような意味を持つようになったのか。Wikipediaによると、この言葉は木造軍艦時代から由来しているのだという。 
 
 When a storm began, all cannons had to be securely fastened and tied in place; otherwise, they would roll uncontrolledly around the deck, causing havoc. A loose cannon, weighing hundreds of kilograms, would crush anything and anyone in its path, and possibly even break a hole in the hull, thus endangering the seaworthiness of the whole ship. 
 
 (嵐になると大砲はしっかり固定させておかなければならなかった。そうしないと数百キロもある大砲はデッキを転がり、人や物を押しつぶし、船体に穴をあける危険があった。それは船全体を危険に陥れる可能性があった) 
 
 パキスタンがなぜloose cannonなのか。ウォーラーステインがあげる理由はこうである。 
 
 パキスタンもインドの核を保有し、核拡散防止条約に調印していない。インドの政治は安定しているが、パキスタンの政治は軍の関与が多く、現政権は軍事クーデターで成立した。 
 
 イスラム原理主義者は政党を結成した。ゲリラ活動も行い、カシミールで主に活動している。さらに軍隊、情報機関にも浸透している。北西辺境州には事実上、自治政権を打ち立てた。 
 
 パキスタンの政府は、西洋化した層とイスラム主義者の両方を同時に満足させようとしてきた。米国の支援を得るために米国とあいまいで親密な関係を築いてきたのは、その手品のようなテクニックのひとつであった。 
 
 ビンラディンの目的のひとつは、このあいまいさ衝くことであった。彼は、9・11テロで米国がパキスタンに対して、全面的な同盟国になるように圧力を掛けるように願った。ビンラディンはある程度まで、この目的を達成した。 
 
 軍は北西辺境州に秩序をもたして、ビンラディンを捕らえようとしたが、失敗した。米国はインドの核開発を認めたが、パキスタンに対しては、米国とインドの改善した関係を台無しにしないように(lest it upset the applecart)、それを拒否した。 
 
 ムシャラフ大統領はますます政治的に失敗している。軍は密かにアフガニスタンのタリバンを支持している。ムシャラフ政権が揺らぐと、米国と敵対するイスラム主義政権が生まれる可能性がある。核兵器を持った強力な軍事国家のもと、ビンラディンは大手を振って居すわることができる。 
 
 ウォーラーステインはイェ ール大学上級研究員。世界システム論を提唱している。世界システム論とは、国家をひとつの単位として扱わず世界をひとつの単位として分析する手法。邦訳書は多数ある。 
 
 パキスタンについては、フレデリック・グラレがフ9月7日付のフォーリン・ポリシー誌に 奇しくもPakistan's loose cannonと題した論文を載せている。 
 
 グラレはパキスタン治安軍が8月末、パキスタン南西部のバルチスタンの反政府部族指導者ナワブ・アクバル・カーン・ブグティを殺害したことをとり上げている。 
 
 Some argue that because the insurgency is essentially tribal, the removal of this tribal leader cuts the head off the snake. But that is a fundamental misreading of the insurgency. A prolonged, low-intensity conflict is now likely. With Bugti's death, the insurgency will be led by far more radical elements, many of whom, including the largest tribe in Baluchistan, the Marri, will settle for nothing less than independence. 
 
 (反政府運動は基本的に部族的なものであるから、この部族指導者の排除はヘビの頭を切ったのである、と言う者もいる。しかしそれは、その反政府運動を基本的に読み違えている。長期で、低強度の紛争になりそうだ。ブグティの死で、反政府運動はより過激な部分に率いられるであろう。バルチスタンの最大部族、マリを含んだ多くの部分は、独立を要求していくであろう) 
 
 Musharraf's actions have reversed decades' worth of slow progress toward national integration. Reporting restrictions will guarantee that we will not hear much from Baluchistan in the coming months. But the next thing we hear might well be an explosion that reverberates as far as Washington. 
 
 (ムシャラフの行動は、数十年分の国民統合に向かったゆっくりとした歩みを逆転させた。報道規制で今後数ヶ月はバルチスタンから多くの情報はこないであろう。しかし、次にわれわれが耳にすることは、遠くはワシントンにまで反響する爆発であるかも知れない) 
 
参考サイト 
 
http://www.agenceglobal.com/Article.asp?Id=1046 
http://www.canada.com/nationalpost/news/issuesideas/story.html?id=297781be-ea75-40f8-bd75-34f8c502d210 


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