2006年11月21日09時01分掲載  無料記事
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多文化主義オーストラリアに異変? 商店の看板を英語併記に

 オーストラリアは2005年現在、2030万人に上る国民のうち、約4人に1人が「外国生まれ」という。その国家運営の柱の1本に据えているのが「多文化主義」だ。この国の各地を歩くと、アジア、南太平洋、中東、欧州の各地から移住してきた肌の色も、言葉も違う人々が新たな生活を営んでおり、その民族の多様さは「国連加盟国数」に匹敵するともいわれる。しかし最近、外国人商店の看板などに英語の併記を求める動きが起き、波風が生じている。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 大都会シドニーやメルボルンにはそれら出身国を代表する食材や料理を売り物にする店が数多く見られ、タイ、ベトナム、日本、韓国、中国、そして中東の料理を出すレストランが並び、まるで“世界料理展”にでも足を踏み入れたような錯覚さえ覚える。 
 
 人口400万人を抱えるシドニー都市圏では、鉄道の基点となるセントラル駅から西へ伸びる一帯を中心に、アジア、中東などの出身者が住む地域が多く見られる。 
 
 そのひとつ、シドニーの南西部にあるマーリックビル地区で今、国是の「多文化主義」にも影響を与えかねない“異変”が起きようとしている。 
 
 同地区評議会が今月7日、地区内で営業する商店の看板や商品宣伝の文言に、必ず英語表記を併記するよう求める提案を採択、近く、その是非を問う住民投票の実施を決定したからだ。 
 
 2001年の国勢調査によると、マーリックビルの人口は7万2500人で、そのうちベトナム系住民が4・2%、中国系住民が2・4%を占めるなど、全住民の39%が「外国生まれ」となっている。 
 
 このため、同地区内に移住した者たちが営業する食材、雑貨、薬、ビデオ、レストランなどには看板にとどまらず、すべての商品を中国語やベトナム語などそれぞれの母国語で宣伝、懐かしい祖国の味、道具・衣類、漢方薬そして音楽・物語を商っている。 
 
 これに対し、地区評議会の一部議員から最近、外国語で書かれたこうした看板などは「英語だけを話す多くの住民たちには理解不可能。どんなものを宣伝、売っているのかを分かってもらうために英語表記を併記すべきだ。住民間に一体感を生むためにも必要」との提案が出され、同評議会で協議したところ、「英語併記」が賛成多数で採択された。 
 
 採決に当たっては、評議会の中から「英語併記の義務化は人種差別にもつながる」と反対の声が上がったほか、中国系、ベトナム系の商店主たちからも「看板や商品名の表記は顧客向け」とした上で、「顧客の80%以上が同じ母国からの移住者で、英語が分からない者も多く、英語併記は意味がない」と提案への疑問の声が上がっていた。 
 
 今回の「英語併記」の義務化案はシドニー都市圏のマーリックビルが初めてではない。同地区と似た環境にあるオーバン、ハーストビル両地区では既に「英語併記」を実施しており、近く実施される予定の住民投票でマーリックビルが第3の「英語併記」地区になるかどうかが関心を集めている。 
 
 オーストラリアは第2次大戦後の1958年に移民法を制定し、移民受け入れを積極的に進めてきた。その結果、02年6月末の推定では、国民のうち5・7%がアジア生まれで、国民の15%が日常生活で英語以外の言葉を話しているという。 


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