2006年11月21日17時21分掲載  無料記事
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フィリピンで加速する記者弾圧 大統領府詰め記者に逮捕状

 9月19日に発生したタイのクーデターで失脚したタクシン前首相がその全盛時、自身および一族の脱税など不正疑惑や縁故主義を報道、批判した記者・報道機関を相手取り、巨額の賠償金を求める名誉毀損訴訟を起こしていたことはよく知られる。フィリピンでも現在、これと酷似した事態が相次いでおり、13日にはアロヨ大統領が執務するマラカニアン宮殿(比大統領府の別称)に私服警官が乗り込むという異常な事態になった。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 地元テレビ局、ABS−CBNの電子版(14日付)によると、警察は経済紙ビジネス・ミラーおよび隔週誌ニュースブレークの女性記者、ミア・ゴンザレスさんに対し逮捕状を用意した。同記者は宮殿内に詰めて記者活動をしている。容疑はアロヨ大統領の夫、ホセミゲル氏を誹謗(ひぼう)中傷したというものだ。 
 
 しかし、当の記者はこの日、事態の急を察知し記者室に姿を現さなかったため、令状執行が空振りに終わるという、何とも締りのない“逮捕劇”となった。 
 
 これに対し、多発する同僚記者たちの殺害事件を追及しているフィリピン全国ジャーナリスト連合は同日、全国への情報発信源であるマラカニアン宮殿に、警察官が逮捕令状を持って乗り込んだことを重視。「(ホセミゲル氏が絡んだ)記者弾圧と報道の自由の侵害を許せない」と激しく抗議する声明を出した。 
 
 ゴンザレス記者はこの日、警察官5人がマラカニアン宮殿にやって来た午前10時には自宅を出て、記者室へ向かっていた。しかし、既に記者室入りしていた他社の記者が“異変”に気づき、携帯電話でゴンザレス記者に連絡。これを受けてゴンザレス記者は宮殿行きを急きょ中止し、姿を隠したという。 
 
 関係者によると、ゴンザレス記者は約2年前、ニュースブレークに「アロヨ大統領は変わるか」と題する記事を掲載、人口問題や財政赤字など同大統領が直面する課題を取り上げた。この中で政策決定や人材登用をめぐり、夫のホセミゲル氏が影響力を行使していることを示唆した。このため同氏が「記事内容は事実に反し、個人を侮辱している」と槍玉に挙げ、ゴンザレス記者を名誉毀損容疑で告発した。 
 
 ゴンザレス記者の弁護士は同記事がホセミゲル氏とは無関係と主張するとともに、「今回のケースでは同記者が既に宣誓供述書を裁判所に提出しており、現在は裁判所の裁定を待っているところ。その最中の逮捕状執行にはあきれるばかりだ」と当惑を隠さない。 
 
 弁護士出身のホセミゲル氏にはこれまでにも、政財界との癒着、政府人事への介入、さらに不法賭博業者からの献金疑惑や海外での不正預金疑惑などが次々と浮上。マラカニアン宮殿の“陰の実力者”として野党勢力だけでなく、メディアからも厳しい批判を受けている。 
 
 そのたびに同氏は掲載記事などに敏感に反応、名誉毀損で告訴した地元記者らはゴンザレス記者を含め実に43人にも上るなど、“対マスコミ戦争”を演じたタクシン前タイ首相も顔負けの“荒業”をみせている。 
 
 フィリピンでは現在、ラモス元大統領派がアロヨ大統領早期退陣を画策した憲法改正手続きが暗礁に乗り上げている。また、07年には中間選挙が迫っており、ホセミゲル氏としては夫人のアロヨ大統領の側面支援を続け、任期切れの2010年までは何としても政権維持を図りたいところ。 
 
 そのためにもアロヨ政権への批判記事を書く記者たちに脅しをかけ、力づくでも黙らせる必要がある。宮殿詰め記者たちの間には今、そのスケープゴートにされたのが、敏腕で知られるゴンザレス記者だったのではないかとの情報が飛び交っている。 


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