2006年12月02日11時15分掲載
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基地・沖縄に新たな難題 「PAC3」配備と普天間移転 池田龍夫(ジャーナリスト)
北朝鮮の弾道ミサイル発射実験に続く核実験強行で、国際情勢は緊迫している。これに対し、過剰とも思える“北朝鮮脅威論”が喧伝され、ミサイル防衛(BMD)システム構築の日米協力が加速されており、膨大な防衛費を要する新たな難題がつきつけられた。
日米安全保障協議委員会は5月1日、「在日米軍再編『最終報告』」合意にこぎつけ、具体的テーマ別に「日米ロードマップ」を作成。本欄で既に取り上げた「普天間基地移転や米海兵隊一部のグアム移駐」などとは別に、「ミサイル防衛」の一章を設け、その中に「米軍のパトリオットPAC3能力が、日本における既存の米軍施設・区域に展開され、可能な限り早い時期に運用可能となる」と明記された。その後「六カ国協議」再開をめぐって交渉が続いていた7月5日、北朝鮮が弾道ミサイル発射実験。これに触発されて、在日米軍と防衛庁は地対空誘導弾パトリオット(PAC3)配備の迅速化を決定、在日米軍は9月末から沖縄・嘉手納基地へのBMD持ち込みに踏み切った。
沖縄米軍の先行配備に続き本年末、航空自衛隊第一高射砲軍・入間基地に最初のPAC3が前倒し配備される。次いで防衛庁は2010年末までに浜松基地・岐阜基地・春日(福岡)基地に順次配備する計画という。自衛隊基地のBMDシステムは米国から購入するわけで、膨大な防衛費負担となる。「本土防衛」の名のもとに配備が急速に進んでいく現状が氣になっていた折、「普天間基地移設」にも新たな難題が持ち上がってきた。基地・沖縄の苦悩に思いを馳せ、問題点を探ってみた。
▽嘉手納基地を守るため緊急配備?
PAC3装備第一陣が那覇軍港に到着したのは9月29日夜、30日から連日嘉手納基地への搬入が行われた。沖縄タイムス30日夕刊は「日米政府は7月、米軍再編最終合意に従ってPAC3を嘉手納基地と嘉手納弾薬庫に配備すると発表。米軍は年内には、PAC2を含む計24基を配備して試験運用を始め、来年3月をめどに本格運用する方針。すでに米テキサス州フォードブリス陸軍基地から米兵約200人が嘉手納基地に配備され、2カ月以内には残る400人も移転を完了する。家族900人も來沖する」と報じた。
米軍車両の一般道路使用は、日米地位協定に基づき届け出義務はないものの、米軍は県警にも陸送日時を連絡しなかったという。県民には“寝耳に水”…突然現れた米軍トレーラーの隊列に驚いたのは当然で、東門美津子沖縄市長が「一切説明がない中で、配備が一方的に進められた」と即座に抗議し、関係市町村からも非難の声が上がった。ミサイル本体が入港した10月9日をピークに搬入阻止行動が高まり、2日間陸送できず、県警の介入によって搬入する騒動にまで拡大してしまった。
「県民の声は東京に届いていないようだ。県民大会の反対の声も、稲嶺恵一知事の『遺憾』の声も、政府は聞き流すだけ。“馬耳東風”だ。それどころか『喜んでほしい』と感謝を求められては不快だし、怒りさえ覚える。政府の県民に対する高圧的な姿勢はこれまでもあったが、10月26日の参院外交防衛委員会での久間章生防衛庁長官の発言はあまりに露骨で無理解なものだった。長官の発言はこうだ。『沖縄については米軍がPAC3を置いてくれた。沖縄の方までは今のわが国の予算の中で追いつかない点を先にやってくれた。むしろ沖縄の人は喜んでもらいたいと私は思っている』。稲嶺知事は『負担軽減がされるとの(米軍再編)計画だが、まだ何も見えるものがない段階で、PAC3の配備が先行されたことは大変遺憾だ』と不満をにじませた」との琉球新報社説(10・27)は、軽率な大臣発言を捉えて地元無視の姿勢を指弾しものと言えよう。
配備をこんなに急いだ「PAC3」の正体は何か? 敵国が発射した弾道ミサイルを地上から迎撃するミサイルで、射程は20キロ程度という。イージス艦から発射する海上配備型迎撃ミサイル(SMB)と併用すれば、SMBが大気圏外で撃ち漏らしたミサイル弾頭をPAC3が撃つ二段構えと解説されていたが、命中精度を疑問視する専門家が多い。米国の情報センター(CDI)HPには、「湾岸戦争に使われたPAC2は、イラク軍のスカッド(射程600キロ)に対して役に立たなかったことで有名になった。そこで改良型PAC3を研究・開発中」と記されていた。しかしPAC3の精度も余り芳しくないようで、ある資料には「PAC3をイラク戦争の2003年に配備、敵のミサイルを迎撃したことはあったが、友軍機を誤射した失態もあった」とも記述されていた。
軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は「最初に配備される入間基地のPAC3では、射程から見て横田米軍基地だけを守る形だ。来年以降計画通り配備しても、射程が短くて隙間だらけだ」と指摘する(AERA06・10・23号)。「ある軍事評論家は『射程が20キロ程度であり、全てのミサイルを撃ち落とせるわけではない。住民を守るものではなく、嘉手納基地を守るものだ』と指摘している。米軍を守るためでありながら、あたかも沖縄を守るとする政府の説明は、本質を隠すこれまでの常套手段と同じだ」(週刊金曜日06・10.20号)との指摘とも符合する分析である。
1999年の「弾道ミサイル防衛に関する日米共同研究」開始以来、今年度までに3821億円を投じ、来年度は今年より56・5%増の2190億円が見込まれているという。この研究・配備だけで年々千億円単位の予算がつぎこまれ、あっという間に1兆円を超すだろう。国民に明確な情報を開示せずに、日米防衛協力が強化されていく現状を座視するだけでいいのか。沖縄県紙だけでなく、本土紙はもっと問題意識を持って実態を追跡し、読者に考える材料を提供すべきだと思う。
▽「�校�滑走路」を形骸化する米軍新提案
先の「在日米軍再編」で合意した普天間飛行場移設問題は、クリアすべき最大の案件である。普天間(宜野湾市)からキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市辺野古)移設交渉の結果、住宅地の上空を飛ばないよう離陸専用、着陸専用に振り分ける「�校�滑走路」案で日米が合意していた。ところが、米軍側が日本政府に対し、「緊急時のため、�校�型滑走路両端に計4カ所の進入灯を設置して離着陸を双方向からできるようにしてほしい」と要望していたことが11月5日明らかになった。
これまた“頭越し”の提案で、7日の衆院安全保障委員会で共産党議員が政府を追及した。久間長官は「米軍との合意は、住宅地上空は飛ばないことだ」と答弁したあと「どういう方向からでも着陸することはあり得る」と緊急時における双方向からの着陸の可能性を認め、「運用の在り方、緊急時の概念について米国と詰めていく」と釈明した。
「緊急時ならどこからでも離着陸できるという例外措置は、同滑走路の事実上の『自由使用』に道を開きかねない。……嘉手納基地の騒音防止協定が、一つの例である。同協定は『午後10時から午前6時までの飛行を原則禁止し、運用上必要なものに限定する』と定めている。この『運用上』と、ただし書きが設けられているのが問題である。実態は、米軍が必要であればいつでも飛行可能ということになり、未明の騒音などが絶えないのも、そのためにほかならない」との沖縄タイムス社説(06・11・7)の警告は尤もである。
形の上で『�校�型』を装い、飛行ルートの上では『�昌�型』を企むとは、卑劣なやり方だ。厚木、岩国など米軍機騒音に悩まされている自治体や住民も同様な苦しみに喘いでいるのである。
普天間飛行場の辺野古移転は、1996年の日米合意後白紙に戻され、今年5月にやっとまとまった修正案。「�校�滑走路」合意で移転計画が進むと思っていたが、沖縄県との話し合いは難航。半年間全く進展していない矢先に、またも地元を逆なでする“無謀な米軍要求”が明るみに出たことは嘆かわしい。米海兵隊グアム移駐計画は普天間移転とパッケージの「在日米軍再編合意」であり、普天間移転を進めることこそ急務である。
11月19日の沖縄知事選で与党が推す仲井真弘多氏が当選。稲嶺恵一知事の路線は継承されるが、米軍基地をめぐる課題は山積している。普天間移設でも、稲嶺氏は「キャンプ・シュワブに代替ヘリポートを設置して移転促進を促しており、仲井真県政も多難が予想される。
(本稿は、「新聞通信調査会報」12月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です)
*訂正:東門美津子沖縄市長が那覇市長となっていたので訂正しました。
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