2006年12月10日01時04分掲載  無料記事
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日本の「廃棄物輸出協定」 アジアに懸念広がる

  日本の国会では取り立てての議論もなく、あっさり承認された日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)だが、ここに盛り込まれた廃棄物輸出条項がフィリピン側では大きな問題となり、市民団体・NGO、議会の場で同協定への異議申し立てや批准に反対する運動が強まっている。この動きに呼応して日本でも環境問題や新自由主義に基づくグローバリゼーションへの異議申し立て運動に取り組む市民団体・NGO が共同で声明を出し、政府・国会への申し入れ行動に取り組むなど 、反対運動が広がりつつある。この日本とフィリピンに広がる市民の懸念は、日本との経済連携協定が大筋合意に達しているタイに飛び火し、タイで環境問題に取り組む市民団体・NGOが12月8日にバンコクで「日タイ自由貿易交渉と環境・汚染問題」をテーマにセミナーを開き、フィリピンの事例をもとに、日本からの有害物質流入への懸念が示された。(大野和興) 
 
 
  日比経済連携協定は11月14日に衆議院で、12月5日に参議院で承認された。5日の参議院外交防衛委員会では民主党の榛葉賀津也議員と社民党の太田昌秀議員がこの問題で質問した。両党とも同協定には賛成の立場にあり、突っ込んだ議論にはならなかった。 
 
  国会審議に場で協定の内容として示された日本語テキストには、フィリピンから日本へ輸出される物品の関税削減のリストは示されたものの、日本からフィリピンへの輸出物品についての「フィリピンの関税削減表」は省略され、提示されなかった。つまり廃棄物輸出に関しては一切国民に隠したまま国会審議が行われたのである。このことについての政府答弁は、「相手国の表を翻訳するとわかりにくくなるので示さなかった。他意はない。正式の文書は英文版である」というものであった。 
 
  ちなみに協定でフィリピンが関税を削減する日本からの輸入廃棄物にはバーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約)で規定する有害廃棄物が数十程度含まれる。 
 
  また、榛葉議員の「有害廃棄物は絶対輸出しない約束が必要である」という質問に対しては、「しっかり受け止める。バーゼル条約と日比経済連携協定23条がある」という答弁であった。同協定23条はGATT20条「人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置」や「有限天然資源の保存に関する措置」の適用を謳っており、これにより有害廃棄物輸出はありえないという意味である。 
 
  しかし、このことに関しても市民団体からは疑問が出ている。同協定第4条の存在だ。第4条は「法令の見直し」についての規定で、「各締約国は、この協定の実施及び運用に関連し、又は影響を及ぼす法令につき、その制定の契機となった事情若しくは目的が存在しなくなった場合又はそのような事情若しくは目的について一層貿易制限的でない態様で対応することができる場合には、その法令を改正し、又は廃止する可能性を検討する」としている。フィリピンに有害廃棄物の輸入を禁止する法令があり、それがこの経済連携協定の実施・運用の妨げになると判断された場合は「貿易制限的でない態様で対応」するべく、その国内法を改正したり廃止できることになるという解釈だ。 
 
 いずれにしても、日本における国会審議は中途半端のまま終わり、協定は承認された。この問題に積極的に取り組んでいる市民団体、化学物質問題市民研究会(http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/)など9団体は12月8日に安倍首相、麻生外相、若林環境相あてに「協定が発効しても有害廃棄物を絶対輸出しないこと」などを要求する市民団体共同声明を出した(資料参照)。またグローバリゼーションへの異議申し立て活動に取り組んでいる脱WTO草の根キャンペーン(http://no-to-wto.blogspot.com/)は12月14日、外務省に対し、日本フィリピン経済連携協定の関税削減リストから廃棄物を削除することや、今後締約されるアジア地域内を含む途上国の二国間経済協定に廃棄物を含めないこと、などを申し入れる。 
 
  後者についてはすでに日本と自由貿易・経済連携協定を結ぼうとするアジア各国から警戒の声が出ている。バンコクで12月8日に開かれた市民団体のセミナーでは、日本で産業廃棄物問題を調査した廃棄物問題に取り組むNGOのリサーチャーから、日本では廃棄物の行き場がなくなっている実情が報告され、流出への懸念が示された。 
 
<参考資料>市民団体共同声明 
2006 年12 月8 日 
 
内閣総理大臣 安倍晋三 殿 
外務大臣 麻生太郎 殿 
環境大臣 若林正俊 殿 
 
市民団体共同声明 
日本政府は廃棄物の「国内処理原則」を守り資源循環に名を借りた「途上国への輸出」戦略を止めるべき 
 
 私達は環境問題、健康問題及び人権問題に取り組む市民団体です。 
 
 2006 年9 月9 日に小泉純一郎総理(当時)とフィリピンのアロヨ大統領により署名された日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)は、日本からフィリピンへの有害廃棄物の輸出の問題が内在しているにもかかわらず、それらが十分に明らかにされぬままに11 月14 日に衆議院で、12 月6日に参議院で、それぞれ承認されました。 
 
 このJPEPA の関税削減対象リストには有害廃棄物が含まれています。したがって、バーゼル条約でその移動が厳しく管理されている有害廃棄物のフィリピンへの輸出に道を開くものとして、フィリピンの市民団体や政治家の間にもこの条約の批准に反対する抗議行動が起きており、「既にマニラ近郊で日本の廃棄物を受け入れる場所が用意されつつあると農民グループらが訴えている」という現地英字紙や毎日新聞の報道もあります。また、フィリピン上院では批准のための審議ができない状態になっています。国際的にも大きな懸念が寄せられています。 
 
 JPEPA の日本からフィリピンへの輸出物品の関税削減を示す「フィリピンの表」には、ヒ素、水銀などを含む残渣、焼却灰、医療廃棄物、生活ゴミ、下水汚泥、有機溶剤などの廃棄物が関税即時撤廃の物品として記載されています。一方、フィリピンから日本への輸出物品の関税削減を示す「日本の表」にはこれらの廃棄物は記載されていません。外務省のJPEPA の和文テキストには廃棄物の示されていない「日本国の表」だけが記載され、廃棄物が示されている「フィリピンの表」は”省略”されています。これは廃棄物輸出を日本国民の目から巧妙に隠していると言わざるを得ません。 
 
 12 月5 日の参議院外交防衛委員会における質疑で、「関税削減リストから全ての廃棄物を削除すべきではないか」、「有害廃棄物は絶対輸出しないとの約束が必要ではないか」との質問に対し、政府答弁は「バーゼル条約とJPEPA23 条/GATT20 条(人・動物・植物の健康・生命の保護に必要な措置)に国際的な約束がある」とはぐらかしました。しかしJPEPA 第4 条の「法令の見直し」は、「一層貿易制限的でない態様で対応することができる場合には、その法令を改正し、又は廃止する可能性を検討する」としており、廃棄物輸入を規制する既存の法を改正することによる有害廃棄物貿易の可能性を明確に述べています。 
 
 日本政府は「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約(1998年)」には批准していますが、リサイクル目的であってもOECD/EU/リヒテンシュタインの先進国からそれら以外の諸国に有害廃棄物を輸出することを禁止する「バーゼル禁止修正条項(1995年)」には、日本はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージランドなどとともに強硬に反対しており、批准していません。 
 
 また、2005 年4 月に東京で開催されたG8/3R閣僚会議において、“物品・原料の国際的な流通に対する障壁の低減”を打ち出し、資源の国際循環という名の下に、有害物質を含む中古品や廃棄物を開発途上国へ輸出して、製品としての寿命をほとんど終えた中古品や廃棄物の処分を途上国に押し付けようとしています。 
 
 さらに、日本フィリピン経済連携協定と同様の二国間経済協定をアジア地域の各国と結び、これらの協定を利用して日本の中古品や廃棄物のアジア地域内での処理を推進しようとしていることは明らかです。 
 
 バーゼル条約及びわが国の廃棄物処理法においても、廃棄物の「国内処理の原則」を明確に規定しています。それにもかかわらず、わが国で発生する廃棄物の処理を途上国に押し付けることで、自国の廃棄物問題の軽減をはかり、その結果、途上国の人々の健康と環境を脅かすということは許されません。 
 
 そこで、私たちは日本政府に対して、以下のことを求めます。 
 
1. 日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)が発効しても有害廃棄物は絶対輸出しないと約束する。 
2. 今後締約されるアジア地域内を含む途上国の二国間経済協定に廃棄物を含めない。 
3. 廃棄物及び中古品の処理には厳格に「国内処理の原則」を適用し、開発途上国での処理に依存するような政策をやめる。 
4. 廃棄物の発生削減を最優先として、国内循環を基本にした3R政策を推進する。 
5. 3Rイニシアティブから“物品・原料の国際的な流通に対する障壁の低減”を削除する。 
6. バーゼル禁止修正条項を批准し、リサイクル目的を含めて有害廃棄物の途上国への輸出を禁止する。 
 
以上 
 
化学物質問題市民研究会 
フィリピンのこどもたちの未来のための運動(CFFC) 
脱WTO草の根キャンペーン実行委員会 
市民がつくる政策調査会 
化学物質過敏症支援センター 
「『日比友好50 周年』を問い直す市民・NGO のつどい」実行委員会 
アジア農民交流センター 
ジュビリー関西ネットワーク 
バーゼル・アクション・ネットワーク(USA) 


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