2006年12月12日12時53分掲載  無料記事
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イラク帰還兵に目立つ心のストレス障害 政府の対応に遅れ

 イラク戦争の今後の方針について、ブッシュ政権は目下見直しを急いでいる。しかし、イラクに駐留する米軍兵士は、明確な出口戦略が提示されない中で、日々危険な任務を就いている。いつ仕掛け爆弾が爆発するのか。街角でいつ狙撃されるのか。毎日のストレスは尋常ではない。こうした影響のため、イラクから精神的な障害を抱えて、帰還してくる兵士が相変わらず増えている。しかし、米本土では、帰還後の心のケアへの対応があまり十分ではないと指摘されている。(ベリタ通信=江口惇) 
 
 米メディアによると、米政府監査院(GAO)の最近の発表では、退役軍人省は2006年度予算で「精神衛生用」として3000億ドルの予算を配分されていたが、2000億ドルしか使われていなかった。GAOでは、退役軍人省による、帰還兵士に対する心のケアは、あまり熱意が見られないとしている。 
 
 戦場で手足を失い、帰還する兵士たちと同様に、心に深い傷を負い、帰国する兵士たちへの対応も同様に必要になっている。特に顕著なのが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の増加だ。イラクで悲惨な現実に直面し、その記憶が時として蘇り、帰還兵士たちを苦しめている。 
 
 米公共ラジオNPRによると、PTSDなど心に障害を抱えて帰還する兵士は、イラク駐留軍の場合、5人に1人の割合になっているという。専門家筋は、今後これが3人に1人にまで広がっていくと指摘している。 
 
 2005年にイラクからコロラド州のカーソン基地に戻ったが、タイラー・ジェンイングスさんには、強い自殺願望があった。ある日、妻が外出した後、自殺への思いが強くなるなど、異常な行動が見られた。結局、医療センターで手当てを受けた。 
 
 しかし、所属する中隊の指揮官は、ジェンイングスさんが心の障害から薬による治療を受けていることを知ると、ジェンイングスさんに対し、いじめを加えるようになったという。自殺をする気持ちまでに高まったとき、軍隊を去るように強いられた。 
 
 女性兵士の間にもPTSDは確実に広がっている。女性の場合は、戦場での体験に加え、性的に加えられた各種のストレスなども絡み、患者数が増えている。 
 
 一方、イラクに二回派遣され、現在車のセールスをしている帰還兵スコット・ハイエスさん(29)は、車を運転していても、いつ仕掛け爆弾に遭うのかと不安になるという。過日も、会社に掲揚している米国旗の保管場所の付近を通った際、死亡した兵士たちに対して、米国旗をかぶせたときの印象がまざまざと蘇ったという。 
 
 米陸軍の2004年調査によると、イラクからの帰還兵のうち、PTSDの兆候を示した者は、17・1%に達し、1991年の湾岸戦争の時の10・1%を遥かに上回っている。このため、退役軍人省などの機関が、帰還米兵の心のケアに真剣に取り組んでいないとの批判が最近高まっている。 


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