2006年12月16日12時32分掲載  無料記事
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「米国の中東戦略を失敗とみるな」と警告 パレスチナ人教授

 中間選挙での民主党勝利やラムズフェルド国防長官更迭などで最近では米国でイラク撤退論も強まっている。これを受け、「米国は敗北した」との論調がアラブ世界で目立つ中、イスラエルによる占領の辛酸をなめ尽くし、占領軍の本質を熟知するパレスチナ人の論客が、このような楽観論を戒めた。筆者はカイロにあるイスラム諸学の殿堂・アズハル大学のガザ分校のイブラヒーム・イブラーシュ教授(政治学)。アルクドゥス・アルアラビーなどが最近相次いで同教授の寄稿文を掲載した。(斉藤力二朗) 
 
 寄稿文の要旨は次の通り。 
 
 イラクやアフガニスタンで米兵が殺されたり反米デモが起き、米国の政策を批判する声明や評論が出る度に、アラブの知識人や政治家、ジャーナリスト、テレビ局、果ては米国の同盟国の衛星テレビまでが、米国の戦略の失敗に歓喜する。実際に米国の戦略は頓挫したのだろうか? 
 
 この地域での米国の戦略目標は、対象が「赤の危険(共産主義)」から「緑の危険(イスラム)」に入れ替わった。各シンクタンクの多くの報告書や公式文書で公になっているこれらの目標は次のように要約できる。 
 
 地域の石油を支配するか敵国による支配を妨害し、アラブの統一を阻止し分裂に向かわせる。イスラエルを全アラブ国家よりも強大に保ち、この地域における特に非アラブの米国に友好的な同盟国の支配層を直接、間接的に保護する。さらに、この地域の諸国を治安協定や条約の網で結び、域内に基地を建設する。 
 
▼1990年以来の成果 
 
 これらの戦略目標遂行」に当たり米国当局は、専制政治、共産主義やテロとの対決、民主主義の普及、少数民族の保護、平和維持、地域の安定などを口実にした。その結果、1990年以来米国は次のような成果を上げた。 
 
1.アラブで最も歴史が古く、最大の工業、技術軍事大国だったイラクの破壊と分裂。 
2.イラクと湾岸アラブ諸国の石油支配と軍事基地の建設。 
3.イラクとパレスチナ、レバノン、ソマリア、スーダン、シリアなどの地域に分派対立を広め、湾岸アラブ諸国などを治安協定と同盟で結んだ。 
4.アラブの統一を阻止する競合勢力としてイランを強化した。 
5.パレスチナ人と(仲介者を介さずに)直接に接触する道をイスラエルに開いた。 
6.占領へのすべての抵抗運動にテロリストの烙印を押した。 
7.米軍が今撤退しても統一イラク国家を再生できなくした。 
 
 それでは何故一部の評論家や衛星テレビは、米国が敗北すると主張するのだろうか。 (アルジャジーとカタールなど)報道機関とそれを擁する国家が占領米軍と共謀していることを隠蔽し、米国の政策に反対しているかに見せかけたいためであるならことは深刻だ。 
 
 残念ながらアラブ人やイスラム教徒に対する米国の戦略は、実質的には成功している。一方、意志の面でアラブ大衆は敗北していないが、意志だけでは現実は変わらない。抵抗の仕方や、特に米軍基地を誘致している国家体制と米国との関係に関する政策や行動を見直しが必要である。 


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