2007年02月12日00時20分掲載  無料記事
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有害廃棄物輸出も経済連携なの? 各国の市民組織が日本政府に意見書を送付

 アジア各国とのFTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)に関連して、日本政府がアジアの市民組織・NGOから集中的な批判を浴びている。自由貿易推進・経済連携強化の名の下に、日本政府はアジア諸国に有害廃棄物を移動する道を開こうとしている、という批判だ。各国の日本大使館にはアジアや北米などから40を超える市民団体・NGOがFAXやE-mailなどで批判の意見書が送られている。こうした動きの呼応して日本国内でも、環境や健康、人権、貿易の公正のために活動する市民社会組織16団体が意見書・共同声明を総理大臣、環境大臣、経済産業大臣、外務大臣に宛て2月11日付けで送付した.。団体名と共同声明は文末に掲載。(大野和興) 
 
◆日本政府へ高まる警戒感 
 
  各国市民組織の日本政府宛て意見書は2月11日にいっせいに送られた。これは日本の建国記念日に合わせたもので、Global Alliance for Incinerator Alliance(脱焼却グローバル連合 本部 フィリピン、マニラ)などが 呼びかけた。 
 
  同様の意見書は、バーゼル条約事務局、POPs(註1)の規制に関するストックホルム条約事務局、国連人権委員会特別報告官などへも送付されている。 
 
  日本政府と経済界はアジア各国とのFTA/EPA締結を急いでいる。急速な経済成長に伴い拡大するアジア市場の権益確保がねらいだ。シンガポール、マレーシアとの間では協定はすでに発効。フィリピンとは協定の署名を終え、日本の国会は通過、フィリピン議会での批准を待つばかりとなっている。またタイとの協定も政府間で合意に達している。 
 
  ところがこの政府間の合意に有害廃棄物の関税削減・撤廃が含まれていることがフィリピンで発覚。ついで日本とタイのEPAでも同様の条項があることが、NGOグリーンピース東南アジアの調査で明らかになった。 
 
  明らかになったリストには、医療廃棄物や焼却灰 などバーゼル条約で移動が禁止されている有害廃棄物が含まれている。 
 
  その結果、両国で日本とのEPA締結に反対する市民運動が広がり、現在両国議会での審議は遅れている。 
 
  日本政府はこの後もインドネシア、ベトナム、インド、さらにはASEAN(東南アジア諸国連合)などとFTA/EPA締結を急ぐ方針だが、国際的な市民組織・NGOの間で、有害廃棄物の扱いをめぐり日本の進めるFTA/EPAに対する警戒感が急速に高まっている。 
 
  各地の日本大使館に寄せられた市民組織の意見書は、日本がアジア諸国と結ぼうとしているFTA/EPAは、移動が厳しく管理されている有害廃棄物の途上国への輸出の道を開きうるものであり、有害廃棄物を経済連携協定に含めないよう強く求めている。 
 
  市民組織だけではない。07年1月24日付けのバンコク・ポスト紙は、日本とタイの経済連携協定(JTEPA)を、暫定憲法下で国会の役割を担う立法議会に提出することを決めた23日の閣議において、モンコン保健相が、日本の産業廃棄物の受け入れが増えるとして反対したと報じている。 
 
  また、国内の16団体が安倍首相らに出した意見書・共同声明は、そうした疑いを海外の市民組織に抱かせるに足る行動を日本政府がとっていることを指摘している。 
 
◆疑われる資格は十分 
 
  まず第一に、日本は「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約(1998 年)」は批准しているが、リサイクル目的であっても先進国から途上国に 有害廃棄物を輸出することを禁止する「バーゼル禁止修正条項(1995 年)」は批准 していないこと。 
 
  このため、日本から中古の家電品などが再使用の名目で主としてアジアの国々に大量に流出し、輸入国の人々の健康障害や環境破壊を引き起こしていると、共同声明は述べている。 
 
  第二は、日本政府が推進している3Rイニシアティブ(註2)政策。経済産業省が進めるこの政策が、資源の有効利用という名目のもとに先進国から途上国に廃棄物が流れる口実となっている。 
 
  経済産業省は「平成18 年度『循環資源の輸出入のための二国間・多数国間協定等の現状及び課題に関する調査委託事業』を公募した。 
 
  それは、バーゼル条約のもとで「中古品や廃棄物の国際的な流通に対する障壁の低減」を図るために、「我が国とアジア諸国で双方向の有害廃棄物の移動を行うための協定」を作ることを目的とするものであった。 
 
  アジアの市民組織の日本政府への批判は、単なる杞憂ではないことがわかる。 
 
 
(註1)POPsとは、難分解性、高蓄積性、長距離移動性、有害性(人の健康・生態系)を持つ物質のことを指す。POPsによる地球規模の汚染が懸念され、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が2004年5月に発効した。 
 
(註2)小泉総理は、平成16年6月8日〜10日に米国ジョージア州シーアイランドで開催されたG8サミットで、資源の有効利用を通じて環境と経済の両立を図る3R(廃棄物の発生抑制(リデュースReduce)、再使用(リユースReuse)、再生利用(リサイクルRecycle))を通じて循環型社会の構築を目指す「3Rイニシアティブ」を提案し、G8首脳の賛同を得、G8の新たなイニシアティブとして合意された。 
 
 
2007年2月11日 市民団体共同声明 
 
日本政府は開発途上国との経済連携協定に廃棄物を入れるな 
中古品・廃棄物には「国内処理原則」を厳格に適用せよ 
 
  私達は環境問題、健康問題及び人権問題に取り組む市民団体です。 
 
  我が国はマレーシア、シンガポール、フィリピンとの二国間経済連携協定(EPA)に調印しており、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、その他のアジア諸国とも同様な協定の調印に向けて交渉中です。 
 
  私達は、これらの経済連携協定の関税削減リストに有害廃棄物が含まれており、バーゼル条約でその移動が厳しく管理されている有害廃棄物の途上国への輸出の道を開くものであるという重大な懸念を抱いており、有害廃棄物を経済連携協定に含めることに強く反対します。 
 
  アジア諸国の市民や団体からも特に強い懸念が示され、反対の抗議行動が行われています。 
 
  昨年、我が国の国会で採択された日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)に関し、昨年12月5日の参議院外交防衛委員会の質疑で、「関税削減リストから全ての廃棄物を削除すべきではないか」、「有害廃棄物は絶対輸出しないとの約束が必要ではないか」との質問に対し、政府答弁は「バーゼル条約とJPEPA23条/GATT20条(人・動物・植物の健康・生命の保護に必要な措置)に国際的な約束がある」とはぐらかしました。 
 
  しかしJPEPA第4条の「法令の見直し」は、「・・・一層貿易制限的でない態様で対応することができる場合には、その法令を改正し、又は廃止する可能性を検討する」としており、有害廃棄物の輸入を規制するフィリピンの既存の法を改正して有害廃棄物の貿易自由化をはかることができる仕組みが用意されています。 
 
  日本政府は「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約(1998年)」には批准していますが、リサイクル目的であっても先進国から途上国に有害廃棄物を輸出することを禁止する「バーゼル禁止修正条項(1995年)」には、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージランドなどとともに強硬に反対しており、批准していません。 
 
  2005年4月に東京で開催されたG8/3R閣僚会議において、"物品・原料の国際的な流通に対する障壁の低減"を打ち出し、資源の国際循環という名の下に、有害物質を含む中古品や廃棄物を開発途上国へ輸出して、製品としての寿命をほとんど終えた中古品や廃棄物の処分を途上国に押し付けようとしています。 
 
  経済産業省の「平成18年度『循環資源の輸出入のための二国間・多数国間協定等の現状及び課題に関する調査委託事業』に係る委託先の公募について」の調査目的の記述は、国が二国間経済連携協定を使って中古品・廃棄物貿易を推進しようとしていることの明白な証拠であり、またバーゼル条約があるために廃棄物の移動が円滑に進まない場合があるとして、バーゼル条約崩しの意図を露骨に示しています。 
 
  バーゼル条約及びわが国の廃棄物処理法においても、廃棄物の「国内処理の原則」を明確に規定しています。それにもかかわらず、わが国で発生する廃棄物の処理を途上国に押し付けることで、自国の廃棄物問題の軽減をはかり、その結果、途上国の人々の健康と環境を脅かすということは許されません。 
 
  大量の廃家電や廃パソコンが再使用の名目で中古品として開発途上国に輸出されながら、実際にはその多くが使用されずに資源回収だけが不適切な作業環境で行われ、作業者の健康と環境を損ねていることは周知の事実です。 
 
  そこで、私たちは日本政府に対して、以下のことを求めます。 
 
アジア地域内を含む途上国との二国間経済協定に廃棄物を含めない。 
3Rイニシアティブから"物品・原料の国際的な流通に対する障壁の低減"を削除する。 
バーゼル禁止修正条項を批准し、リサイクル目的を含めて有害廃棄物の途上国への輸出を禁止する。 
再使用を目的とする中古品の輸出については性能基準を設定して輸出前検査を行う。 
廃棄物及び中古品の処理には厳格に「国内処理の原則」を適用し、開発途上国での処理に依存するような政策をやめる。 
廃棄物の発生削減を最優先として、国内循環を基本にした3R政策を推進する。 
以上 
 
賛同団体(順不同) 
 
化学物質問題市民研究会 
フォーラム平和・人権・環境 
脱WTO/FTA草の根キャンペーン実行委員会 
全国労働安全衛生センター連絡会議 
農民運動全国連合会 
化学物質過敏症支援センター 
市民がつくる政策調査会 
ATTACジャパン 
止めよう!ダイオキシン汚染・東日本ネットワーク 
関西フィリピン人権情報アクションセンター 
ジュビリー関西ネットワーク 
フィリピンのこどもたちの未来のための運動 (CFFC) 
東アジア環境情報発伝所 
ATTAC京都 
環境フォーラム市民の会(豊中) 
バーゼル・アクション・ネットワーク (BAN) 米国 
 
 
日本大使館へ意見書を送付予定の海外の団体のリスト(2007年2月9日現在) 
 
Citizens' Anti-Incinerator Coalition, ARGENTINA 
Za Zemiate - CEE Bankwatch Network, BULGARIA 
Association to Combat POPs, BRAZIL 
Clean Production Action, CANADA 
Thanal, INDIA 
East Asia Environmental Information Express Messenger JAPAN 
Environmental Forum of Toyonaka Citizens JAPAN 
Independent Activists, LEBANON 
Consumers' Association of Penang, MALAYSIA 
Center for Public Health and Environmental Development, NEPAL 
Bangon Kalikasan Movement, PHILIPPINES 
Basel Action Network - Asia Pacific, PHILIPPINES 
Cavite Green Coalition, PHILIPPINES 
EcoWaste Coalition, PHILIPPINES 
Global Alliance for Incinerator Alternatives, PHILIPPINES 
Greenpeace Southeast Asia, PHILIPPINES 
Health Care Without Harm, PHILIPPINES 
Institute for the Development of Educational and Ecological Alternatives, 
PHILIPPINES 
Mother Earth Foundation, PHILIPPINES 
November 17 Movement, PHILIPPINES 
Sagip Pasig Movement, PHILIPPINES 
Sanib Lakas ng Inang Kalikasan, PHILIPPINES 
Zero Waste Philippines, PHILIPPINES 
Ecologists in Action, SPAIN 
Centre for Environment Justice, SRI LANKA 
Taiwan Watch Institute, TAIWAN 
Corporate Watch, UNITED KINGDOM 
Derby and South Derbyshire Friends of the Earth, UNITED KINGDOM 
Basel Action Network, USA 
 
本件に関する問い合わせ: 
安間 武(化学物質問題市民研究会) 
TEL/FAX: 045-364-3123 e-mail: ac7t-ysm@asahi-net.or.jp 
二国間経済連携協定については当研究会の下記ウェブサイトをご覧ください。 
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/jpepa_master.html 


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