2007年03月02日22時54分掲載  無料記事
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ネパール情勢

平和への前途は多難 王制の廃止については世論は二分 クンダ・ディシット 

 【IPSコラムニスト・サービス=ベリタ通信】万事うまく運べば、数週間のうちにネパールのマオイスト(ネパール共産党毛沢東派)はコイララ首相の政府に参加する。それは11年前に武装蜂起し、昨年、武器を捨てることを決めたこの革命グループにとって、地下の戦いから地表の政治に出てくるという劇的な変容であった。 
 
 マオイストは、軍事的な勝利は現実的でなく、ネパールの北の巨大な隣国で毛沢東の故郷である中国も、南のインドも彼らが武力で国家権力を奪うことは許さないであろうということを悟った。そのため昨年、彼らは専制的なギャネンドラ国王が行ったクーデター以前の状態に引き戻すために、政党と手を組んだ。 
 
 3週間の人民パワーの蜂起の末、2006年4月、国王はついに議会を回復した。以来、7政党の連合はマオイストと和平協定を結び、マオイストの宿営地と武器の監視、暫定憲法の採択、マオイストを含む暫定議会の成立について国連が監視することになった。 
 
 次の段階はマオイストの閣僚を含む新政府の樹立で、今年中にネパールの新憲法を制定する議会の選挙を準備する。 
 
 これまでの道は多難で、プロセスは行き詰まり、何度も遅れた。しかし、停戦は保たれており、和平プロセスは軌道に乗っている。昨年の今ごろは、闘争で40人以上が死亡し、未来は暗く見えた。戦争は終わったが、これはネパールが平和になったことを意味していない。 
 
 今起きている複雑な事態は、ネパールの103の少数民族とカースト・グループの多くが公平な代表制と自治という要求を噴出させていることである。民主主義の回復とともに、まるで蓋が外れて、これまで疎外され、政策の決定から除かれていたグループがうっ積していた不満と要求を並べ、発言権を求めているかのようである。 
 
 1月以来、インドと国境を接したネパールの細い平野地帯に住む住民は、高地に住む支配層による数世紀にわたる差別に抗議して立ち上がった。彼らは議会で人口を反映した代表制を求めている。人口密度が高い平野にはネパール人の半分が住む。1月には警察が3週間続いた街頭の暴動を鎮圧した際に、30人近くが死亡した。 
 
 さらに、教育の欠如と不平等な機会のために、統治において民意が反映されてこなかったいろいろな先住民族グループがストライキや集会を開いている。「不可触」カーストのメンバーも南の先住民族と同じように公正な代表制を要求している。 
 
 ひっくるめて言うと、和平プロセスが続いているが、ネパールは動乱状態にある。毎日、さまざまなグループによるストライキ、閉鎖、道路封鎖がある。騒乱で深刻な燃料不足が起き、輸送は大きな影響を受けている。政府はこれらのグループの代表と数回の交渉を持ったが、騒ぎを鎮めることはできていない。 
 
 マオイストは政権に入るという目標に近づいたが、反抗的な南部に対する対処の不手際の責任を問われている。幹部は活動家と衝突を繰り返した。革命の確実性と銃を突きつけて欲しいものを得ることに慣れてきたマオイストは、議会でのやり方と妥協の政治に慣れるのが難しい。政権にいるということにさらに慣れていくであろう。マオイストの議員がピストルを持って議場に入ろうとしたことで最近、物議をかもしたこともある。 
 
 マオイストは平野部での騒乱を国王支持の右翼のせいにして、自信のなさを示した。マオイストの指導者は、共和国の宣言を直ちにするよう求めて、失敗から注意をそらそうとしている。最近の世論調査によると、ネパール人は現在の国王は嫌うものの、王制を維持するかどうかについて、半々に分かれている。調査結果では、ネパール人はネパールが共和国であるか王制であるかということよりも、政治的不安定と生活の混乱をより心配している。 
 
 マオイストはジャングルには戻らないと繰り返し言っているし、そうなのであろう。戦士の多くが国連が管理する宿営地に住み、武器は容器に封印されており、戦争に戻る危険はないように見える。しかし、少数民族の要求に政治的和解が見いだせない場合、将来、さらに激しい戦争が起きるかもしれないという不安がある。 
 
 ほとんどのアナリストが一致することは、ネパールの民族意識が絡んだ様態からして、民族連邦制はうまくいかいかず、はっきりした地理的単位に分権化された政権による連邦国家構造だけが、このように険しく多様な国を統治する唯一の方法であろうということである。政府は比例代表制と選挙区再編の要求を受け入れるよう圧力を受けている。 
 
 ネパールでの人民パワーの勝利1周年が近づいているおり、妥協がなされなければならない、しかも11年間の戦争の余じんから新たな炎が起きる前に迅速にされなければならないのは疑いない。 
 
*クンダ・ディシット コロンビア大学でジャーナリズムの修士号を取得後、BBCワールドサービスの記者、IPSのアジア・太平洋地域局長を経て、現在、ネパーリ・タイムズ紙編集長・発行者。 


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