2007年03月19日10時12分掲載  無料記事
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むしろ再生不能資源の過剰消費を問題とすべき 地球温暖化議論の盲点 落合栄一郎

  もうこの問題は議論する余地がないほど、原因がはっきりしていると思われている。人為的に排出される温室効果ガス(2酸化炭素その他)が主因と科学的に立証された感がある。科学的にそのように結論するのは難しいことは、科学者自身感じていても、政治的にそう言いづらい雰囲気ではある。私自身は、2酸化炭素の人為による急増は事実であり、地球温暖化にある程度の影響を及ぼしているかもしれないが、問題はそこにはなくてこの急増に象徴される人類の活動(産業、交通等)による資源の過剰消費のほうに重点があると考えている。そしてこの問題はこの面から議論されるべきである。3月初旬、BBCのチャンネル4で、「Great Global Warming Swindle(GGWS)」なる温室効果ガス説(GHG)を徹底的に批判する番組があったのを機会にこの問題をもう一度議論してみたい。これは、アル・ゴアの「不都合な真実 (inconvenient truth)」に対応するものである。また、G8の環境担当相会議が、3月17日に終わったが、意見の相違はさらに鮮明になったようであるし、日本はアメリカの意向を気にした発言に終わった。 
 
 (1)先ず、GGWSがあげる主要なデータと議論を。近年の地球温度上昇は事実であり、大気中の2酸化炭素濃度は、産業革命後徐々に増加し,特に1940年代以後は急増しているが、GHG説は、地球温度が、1940年から70年前後まで下降していた事実を無視している。過去100年ほどの地球温度変化は、太陽黒点の数の変化に良く対応している(GGWSで示されたグラフはそのようになっている─筆者は学術的な論文でのそうしたグラフを見ていないので、その真偽のほどは判断できない)。人為的温室効果ガスの影響が無視しうる人類の過去にも温暖化および寒冷化があり、これらは人為に基づくものとは考えられない。これらのデータから、現在の地球温暖化の主要原因は、人為による温室効果ガスの増大ではなく、太陽活動の変化によるものである。したがって、温室効果ガス排出の規制は無意味である。(なお日本で出版された『環境問題のウソ』(池田清彦、筑摩書房,2006)にも同様な議論が展開されている。)さらに、こうした規制は、アフリカなどの発展途上国の開発にマイナスになっている。 
 
 さて、GHG説側の議論は良く知られており、ここに繰り返す必要はないであろう。この議論が、現在大勢を占めるようになったのは、政治的意図に基づいていたというのが、GGWSの主張である。政治的に国民にうけ易い環境問題を取り上げることによって、当時の不利な政治情勢を盛り返そうとイギリスのサッチャー首相が企み、やがては研究費などの集中的配分により、GHGが「政治的に正しい」(politically correct)説となり、それに反する研究などには研究費も出なくなってしまった。すなわちGHG説に反するような研究やデータは無視されるような大勢になってしまった。これが、GGWSの主張の主要な点である。 
 
 (2)このGGWSも明らかに、政治的意図(現経済体制を擁護するという)をもっている。それは、現在大方信じられているGHG説が科学的に間違いであり、地球の温暖化を抑える為という温室効果ガス排出の規制は無意味であり、開発の邪魔になっている。したがって、温室効果ガス排出規制はするべきではないとなる。現産業界—特にアメリカ企業—には朗報である。 
 
 (3)これらの議論から、確実だと思われる点は、(a)温室効果ガス(特に2酸化炭素)が人類の活動によって増えており、その増加分は海水その他の吸収分を超えているので、大気中のその濃度が増えている。(b)地球の現在の温暖化へのその影響は比較的少ない。温暖化の主因は太陽活動の変動に依るようだ(この辺りは、まだ種々な他の要素も考慮する必要がある)。いずれにしても、地球の温度変化には様々な要素が関係しており、科学的にどの要素が何%と決定できるまでに科学は進歩していない。そこで問題は、それならば、人類がこの時期何をなすべきかである。上にあげた2つの論点はこの政治的問題に、対照的な処方箋(GGWSは温室効果ガス排出の規制はする必要なし、GHGは排出は規制しなければならない)を出した。 
 
 まず実行可能性からは、太陽活動を変化させることは不可能であるが、温室効果ガス排出(少なくとも一部は)は人為的にコントロール可能である。現在の(京都プロトコルのような、現在の全排出量の何%というような)方式は、勿論先進国には有利であり、発展途上国には非常に不利である。これには、先進国による発展途上国の開発妨害が意図されているといわれても仕方がない。 
 
 人口一人あたりの2酸化炭素排出量は、先進国のほうが、発展途上国より圧倒的に多い。したがって、地理的条件その他により比率を考慮する(寒冷地と温暖地による燃料消費量の違いなど)にしても、国民一人あたりに基づいて排出量規制をすべきである。この新しい方式によれば、現況では、先進国の排出量は現規定よりもさらに削減すべきであり、発展途上国の規制は非常に少なくて良い(もっと排出しても良いケースもあるだろう)。 
 
 (4)待った。規制は無意味が本当らしいのにそんなことをする必要があるのか。ここが問題である。規制があまり意味ないことであるのは、地球温暖化に関してのみである。2酸化炭素の急増は非再生燃料の過剰消費を反映しおり、地球温暖化への影響の有無に拘らず、その排出を規制することは「持続可能な社会」を構築するためには必須なことなのである。地球温暖化のみに目を奪われていてはいけない。 
 
*落合栄一郎(カナダ・ヴァンクーヴァー在住) 
 東京生まれ、工学博士。カナダ・ブリテイッシュコロンビア大、トロント大、スウェーデンウメオ大などで、化学の研究と教授に従事し、米国メリーランド大、ペンシルバニア州のジュニアータ大で研究/教授歴25年。ジュニアータ大では、化学を教えるかたわら、「日本と西欧の文化の比較」という科目も担当していた。 
 2005年退職後は、カナダのヴァンクーヴァーで、「憲法9条を守る会・VSA9」など平和運動、持続可能性に関する運動に関与。主な著書に、「Bioinorganic Chemistry-An Introduction」(Allyn and Bacon,Boston, 1977), 
「General Principles of Biochemistry of the Elements」(Plenum Press, New York,1987) 


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