2007年03月20日12時52分掲載  無料記事
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『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る―防衛省元幹部3人の志』 憂国の士の「内部告発」 安原和雄

  著作『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る―防衛省元幹部3人の志』(かもがわ出版・2007年3月刊)を読んだ。著者は小池清彦(元防衛庁教育訓練局長)、竹岡勝美(元防衛庁官房長)、箕輪 登(元防衛庁政務次官)の3氏で、対米追随の軍事政策、自衛隊のイラク派兵、憲法9条改悪の動き―などを厳しく批判し、「憲法9条を守ろう」と主張している。 
 3氏は防衛庁(現防衛省の前身)の要職にあった人物であるだけに、その「憂国の士」らしい気概ある発言は「内部告発」のような性格をもっており、傾聴に値する重みがある。以下に3氏の主張の要点を紹介し、私(安原)のコメントをつけた。 
 
▽日本中でひろがる「九条の会」 
 
 本書は「はじめに」で編集部の想いを次のようにつづっている。その要旨を紹介しよう。 
 
 いま、憲法9条を守ろうという運動が日本中にひろがっている。加藤周一氏ら9名がよびかけた「九条の会」は全国で軽く6000を超え、日々勢いを増している。 
 この運動には平和をどう考えるかについて様々な立場の人々が参加している。9条を守るということでは一致しているが、他の問題では必ずしも意見が同じではない。 
 
 なかでも自衛隊をめぐる問題は、とりわけ意見の違いが大きい分野である。9条への熱い想いは同じでも、自衛隊・軍隊を全否定する9条論もあれば、9条は自衛権と自衛隊を当然のこととして認めているという立場もある。 
 それでも9条を守ろうという運動がひろがっているのは、自衛隊についての立場の違いが脇に置かれているからである。この運動が自衛隊を認めるかどうかという見地をお互いに押しつけあうことなく、9条改憲のねらいは自衛隊の海外派兵を恒常化することにあるのだと見抜き、「海外で戦争する国づくり」に反対することを共通の目標としてかかげているからである。 
 
 本書に登場するのは、自衛隊を認知するどころでなく、誰よりも国の行く末を想い、自衛隊とその隊員を愛しているが故に、なんとしても9条を堅持したいと決意し、奮闘している防衛省元幹部のみなさんである。 
 
 自衛隊を認めたら護憲ではなくなると考えている方々はびっくりし、護憲の立場で頑張っている人々には、運動の幅をひろげる観点を提供するに違いない。自衛隊を認めるから改憲は当然だという立場の方々には、大きな衝撃を与えるかも知れない。迷っている人々には決断を促すはずである。 
 
▽小池清彦氏の主張―国民の血を流さない保障が憲法9条だ 
 
 (小池氏は防衛庁防衛研究所長、教育訓練局長を歴任し、1992年退官。1995年新潟県加茂市長に当選し、現在3期目) 
 
 小泉前総理がテロを許さないとか、国民の精神が試されているなどと、ヒトラーのようなことを言って(イラクへの)出兵を強行したことは正気の沙汰ではない。思慮の浅い軍事外交戦略であり、国を危うくし、国民を不幸にするものである。兵を動かすことを好む者は滅ぶ、は古今兵法の鉄則である。日本は海外派兵中心の防衛政策を改め、平和憲法のもとに、祖国防衛中心の防衛政策に立ち返るべきである。 
 
 もしこの憲法9条がなかったら、まず朝鮮戦争(1950〜53年)の時から日本は出兵させられている。現に朝鮮戦争の時に旧帝国海軍の軍人が集められて掃海活動をやらせられて、戦死者まで出た。9条がなかったら、ベトナム戦争(1965〜75年)にも出兵させられていた。湾岸戦争(91年)も憲法9条がなかったら即座出兵だ。そして今ごろは徴兵制、間違いない。 
 
 外国の方々は9条を極めて高く評価している。私の親友のイラク外交官も「日本はいいね。平和主義でいいね。本当に平和な国でいいね」と言っていた。そういう高い評価がある。日本は原爆を2発落とされた特別の国だから、世界平和の先兵としてやっていってこそ、日本の地位の高まりがある。世界も「ああ、日本は素晴らしい国だ」と。 
 
 イラクへの自衛隊派兵は「国際貢献」ではなく「対米貢献」である。「安全確保支援活動」という重大な使命がイラク特措法に書いてある。これはイラクでの米英軍の軍事活動を「支援するために我が国が実施する措置」のことで、後方支援すなわち兵站(たん)補給である。この兵站補給は戦闘行為の中で一番大事な部分で、戦争になると、お互いにたたくのは兵站補給である。これを国民に言わずに、もっぱら「人道支援活動」と言い続けて、2007年初頭の現在も派遣が継続している航空自衛隊がこの活動をやっている。 
 
 「剣は磨くべし、されど用うべからず」、これが古今兵法の鉄則であり、日本武士道の本義に合致する。剣聖、上泉秀綱(室町時代末期の剣客・兵学家)が到達した世界は「無刀」、すなわち剣を捨てた形であった。武の本質は和である。これが日本の、東洋の武の鉄則である。総理たる者は渾身の力を振るって直ちにイラクから撤兵すべきである。 
 
▽竹岡勝美氏の決意―憲法九条改定論を排す 
 
 (竹岡氏は防衛庁人事教育局長、官房長、調達実施本部長を歴任後、1980年退官) 
 
 個々の人間、生命こそが天賦(てんぷ)のものであり、これに替わるべき価値はない。国家といえども、、人間がお互いの命を守るための人為の二次的価値にすぎない。まして人工の旗や歌にすぎない日の丸や君が代に人間が頭を下げる理などない。 
 個々の生命に至高の価値があるならば、これを殺し合う戦争こそ、避けるべき人類最大の愚行であるといわねばならない。 
 
 日本、極東さらにはアジア、太平洋、中東に至るまでの米軍の軍事覇権確立に自衛隊が隷属し、これにまとわりつくような共同作戦や後方支援の具体化が、閣議や国会で討議されることもなく、「在日米軍再編」の名のもとに進行している。 
自衛隊はガードマンのごとく米軍基地を警護し、宅配業者のごとく国内外の米軍基地間の輸送、さらには米艦艇へのガソリンスタンド役まで引き受ける。これでは自衛隊員が哀れである。それほどまでして守ってもらわねばならぬ「日本有事」とは何か。 
 
 日本有事とは、在日米軍を含む米軍と日本周辺国家との戦争に巻き込まれる波及有事のみである。万一にも米軍が一方的に北朝鮮を崩壊させようとした時、北朝鮮のノドン・ミサイルが日本海沿岸に濫立する十数基の原発を爆砕するかも知れない。 
 有事とは「国土の戦場化」のみである。この小さな島国で1億2000万人の国民は、8000万台の自動車、53基の原子炉、巨大な石油化学工場、石油やガスの一大備蓄基地、乱立する大都市の超高層ビルらと共存している。いかに米軍の支持があろうとも、本格的な国土戦は戦えないというのが偽らざる実態ではないか。同時にそれは起こり得ない虚構でもあるだろう。 
 
 独立国・日本の安全と名誉のために、南北朝鮮や中台の和平確立に日本も貢献し、その成果として日米安保条約を日米友好条約に切り替え、在日米軍の縮小から撤収への道を切り開くべきではないか。 
 
 改憲勢力が現在の憲法では米国や多国籍軍に十分な支援ができないと改憲をほのめかすのは、歴代政権が一貫して国是として誇ってきた「専守防衛」の枠を外そうとするからである。米国を除く世界は日本にそのような要求はしていない。なせ日本国民が自制し続けてきた自衛隊が「軍」でなければならないのか。国家が「軍」一色に変貌した時が恐ろしい。日本では戦前も今も、政治家も経済人も、とりわけマスコミが軍に弱い。 
 今「平和憲法」「専守防衛」の金看板を廃棄するのは、我が国の安全保障と徳義のため、かつ周辺隣国への影響からも余りに惜しい。改憲に何のプラスがあるのか。 
 
▽箕輪 登氏の遺言―命をかけて自衛隊のイラク派兵阻止を訴える 
 
 (箕輪氏は衆議院議員として8期連続当選、1990年に政界から引退。2004年1月、自衛隊イラク派兵は憲法9条と自衛隊法に違反することを理由に派兵の差し止めを求める訴訟を起こした。以下は06年2月札幌地裁における証言(要旨)である。同氏は同年5月死去、この証言が遺言となった) 
 
 重装備をもっていくのは、今回のイラク派兵が初めてである。軍事行動ではないというけれど、航空自衛隊は何をやっているか。米軍が使う武器、弾薬の輸送をやっている。旧陸軍の輸送兵の役をやっている。これは戦争参加ですよ。日本は米軍の輸送兵の役をやるのか。そのために自衛隊はできたのか。 
 こんなことを許しておいたら、これが違法だと言えるのは法律しかない。そんな気分で訴訟を起こした。 
 
 自衛隊法第3条が定める自衛隊の任務(自衛隊の主任務として直接侵略と間接侵略への防衛を挙げている)の中に外国の治安維持、人道支援、復興支援は、入っていない。イラク派兵は米国の言う通りやっているだけではないか。その米国は、国際法違反のイラク戦争だとアナン国連事務総長(当時)が言い切っている。 
 パウエル米国務長官(当時)が(イラクの大量破壊兵器保有に関する)情報は間違いだったと言った。情報の間違いで多くの国民を殺すことを許すのか。こんなばかなことは、だれだって分かり切ってる。 
 
 (自衛隊のイラク派兵)が前例となって、米国のやる戦争(への協力)は、日米同盟を結ぶ日本にとってこれからも起きるかも知れない。そのときは米国と一緒に戦えるよう、憲法を改正しようとするのではないか。やっていることが間違っている。 
 
 過去に日清戦争、日露戦争、満州事変、支那事変、大東亜戦争などいずれの戦争も、自衛のためという理由だった。私は、そういう戦争をしては駄目だということで、日本の新憲法ができたのだと思っている。 
 
 なぜ戦争不可能な現憲法を戦争可能な憲法に直すのか。日本人としての良心にかんがみて、平和がいいなら平和がいいと言ったらいい。それが男らしいのではないか。 
 政権をあずかる者は、反対意見に耳を傾けるべきではないか。過去の戦争でも、戦争反対の意見の日本人は沢山いた。ところがそれを口に出すと、特高(特別高等警察の略。敗戦の1945年まで当時の内務省直轄で思想・社会運動を取り締まった警察)に捕まってブタ箱行きだ。だから反対意見を言えなくなる。 
 しかし今はそうじゃない。反対意見に耳を傾けたら、2度と戦争は起きないよ。 
 
〈コメント・その1〉―3氏主張の共通点は「憲法9条と専守防衛を守れ」 
 
 箕輪氏は2004年11月、オランダ・ハーグ国際司法裁判所における「中東の正義と平和のための国際会議」に招待されたが、高齢でもあり、自宅で転倒して負傷したため、出席できなくなり、用意されていた原稿が代読された。その趣旨は以下のようである。 
 
 みなさんと同じように私もまた日本で「誤った権力」に抗(あらが)う小さな勇気を示している。イラクに自衛隊を出すことは自衛隊法、日本国憲法に違反することを理由に小泉首相を相手に提訴している。 
 米国のイラク戦争は、何の大義もない、覇権的先制攻撃、すなわち侵略戦争だと思っている。その米国に加担する日本は侵略戦争の「共犯者」である。自衛隊法には「自衛隊は、祖国日本の防衛のために行動せよ」と書いてあるが、「侵略戦争に加担せよ」とは書いてない。日本国憲法は、すべての侵略戦争を固く禁じている。 
 
 また同氏は同年11月、札幌地裁で次のような意見陳述(要旨)を行った。 
 
 自衛隊は専守防衛を任務とするものであり、そのために志願して若い人が入隊した。それを侵略戦争の共犯者にするのか。小泉首相はあんまりだ。裁判官には公平な裁判をお願いしたい。 
 
 以上(佐藤博文・北海道訴訟弁護団事務局長の「解説」から)のような箕輪氏の米国批判、侵略戦争拒否、専守防衛堅持―という心情は、本書に登場する小池、竹岡両氏も共有するところである。こういう心情は当然のことに「憲法9条を守れ」という声になるほかない。そこには憲法9条の理念から言えば、侵略戦争は容認できないが、専守防衛の枠組みは容認できるという理解がある。こういう認識は昨今の平和勢力、護憲派の中では多数派を占めるともいえるのではないか。 
 
〈コメント・その2〉―「日本国土の戦場化」は現実無視の危険な想定 
 
 以下の諸点にも注目したい。 
 
 「人道支援活動」という名のもとに今なお続けている後方支援、すなわち兵站(たん)補給(航空自衛隊による米軍向けの武器、弾薬の輸送など)は参戦、すなわち軍事行動を意味している(小池、箕輪氏)― 後方支援も実は軍事行動だという認識は、軍事に関する国際常識である。ところが我が国ではその理解が軍事専門家を除くと、少なすぎるという印象がある。「人道支援活動」という名目に惑わされないようにしたい。 
 
 人工の旗や歌にすぎない日の丸や君が代に人間が頭を下げる理などない(竹岡氏)―この考えに立てば、特に東京都の場合のように君が代の斉唱などに同意しない学校教員を処分することに理はない。 
 
 米軍が一方的に北朝鮮を崩壊させようとした時、北朝鮮のノドン・ミサイルが日本海沿岸に濫立する十数基の原子力発電を爆砕するかも知れない(竹岡氏)―この指摘は重要である。北朝鮮の核の脅威がしきりに喧伝されているが、核兵器ではなく、通常兵器で原発が攻撃された場合、放射能汚染も含めて日本列島にどういう惨状が現出するか、想像力をめぐらせる必要がある。「日本国土の戦場化」という日本有事がいかに現実無視の危険な想定であるかに気づきたい。日本はもはや戦争できる国柄ではないのである。 
 
 日米安保条約を日米友好条約に切り替え、在日米軍の縮小から撤収への道を切り開くべきではないか(竹岡氏)― 私は今や「世界の中の安保」と化した日米安保条約=軍事同盟体制こそが世界の平和を脅かす「諸悪の根源」だと考える。だから日米安保解体説を唱えているが、その場合、軍事的な現日米安保条約を軍事色のない日米友好条約に切り替えることは有力な選択肢となる。 
 
*「安原和雄の仏教塾」より転載 
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