2007年05月01日11時19分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200705011119002

沖縄密約

物足りない在京6紙の「沖縄密約」判決報道 国家権力のウソ追及に及び腰 池田龍夫

  「沖縄返還協定」は1971年6月17日調印され、翌72年5月15日に沖縄は祖国に復帰した。当時の日米首脳は、佐藤栄作首相とニクソン大統領だった。「核抜き本土並み返還」が評価されて佐藤氏は74年ノーベル平和賞に輝いたが、負の遺産である「沖縄返還密約」の疑惑解明は一向に進まず、封印されたままだった。 
 
 2000年の米外交文書公開以降、「米国が負担すべき3億2000万�砲髻�日本が肩代わりする密約があった」経緯が次々明らかになり、30年近く「外務省機密漏洩事件」として葬られていた「沖縄返還交渉のナゾ」が再び注目を集めている。国家公務員法違反で有罪となった西山太吉・元毎日新聞記者が2005年4月、国を相手取って国家賠償訴訟(請求額3300万円)を東京地裁に提起。その判決が07年3月27日言い渡されたが、「原告の請求をはいずれも棄却する」と、わずか5秒の�猝臍以Гき瓩砲篭辰�された。 
 原告側が吉野文六・元外務省アメリカ局長の「密約存在証言」など約80点もの証拠を提出、約2年・9回も審理したにも拘らず、加藤謙一裁判長は最大の焦点だった「日米密約」には一切言及せず、民法724条後段の除斥期間(20年)を盾に、肝心の「密約」に口をつぐんでしまった。密約を証明する証拠が続々出てきたのに、「除斥期間」という�猊雋鎰瓩農�府側のウソを隠蔽してしまった。 
 
 藤森克美弁護士が判決文を分析、ホームページに公表した一文が、簡明・的確なので参考に供したい。 
 
▼歴史の真実から逃げた裁判長、裁判官 
 
 (1)アメリカ公文書の発掘によって、沖縄返還協定内外の密約は計5本、2億0700万ドルにも及ぶ巨額なものであり、密約の大枠は1969年11月の日米共同声明発表の折の柏木雄介大蔵省財務官とジューリック財務長官特別補佐官との間で交わされた『秘密覚書』で決められていたのである。これらの事実は今や社会的、客観的に誰の目にも明らかである。密約の存在を裁判所が認めることになると、次に密約の法的評価が問われることになる。国会の承認を得ず、密約を交わすことは憲法73条3号但書違反であるし、予算の執行を伴う以上、予算に嘘を盛り込むので虚偽公文書作成・同行使(刑法156条、158条)に該当し、血税を目的外支出させることになるので、詐欺(刑法246条)ないし背任(刑法247条)に該当することは明らかであり、正に沖縄返還密約は佐藤栄作首相、福田赳夫蔵相、大蔵官僚らの権力中枢の国家組織犯罪であったことを認めなければならなくなる。 
 沖縄返還密約が国家組織犯罪であることを認めるとなると、西山太吉を起訴し、公訴を追行した検察官の訴訟行為は違法となるし、西山を有罪とした最高裁決定も当然誤判ということにならざるを得ない。 
 
 (2)本判決は密約の存在について全くの言及をしていない。「争点に対する判断」中には一行一言も触れていない。歴史の真実である密約から裁判長以下3人の裁判官は正に逃げ出したという外ない。裁判を受けたというよりも行政当局の判断を受けたに等しい。裁判官が事実と証拠から目を背け、逃げ出してどうする! 司法の権威は失墜し、国民の裁判に寄せる信頼はゼロに帰したという外ない。 
 
 (3)除斥期間による損害賠償権の消滅、国務大臣らの発言・回答は原告個人に向けられたものではないとの判断も亦、行政当局の言い訳を聞かされているに等しい。 
 
 (4)消滅時効、除斥期間と関係ない検察官の再審請求権の権限不行使の違法の請求原因については、結論しか書いておらず、検察官が巨大な密約存在を知っていたか、知るべき立場にありながら違法な起訴と訴訟追行をした先行行為としての違法性に対する判断理由、判断過程については何ら言及していない欠陥判決である。 
 
▼今後の方針 
 
 (1) 沖縄返還は巨大な密約の塊であり、それらの密約は権力中枢の国家犯罪であり国民主権、官治国家でなく法治国家の立場、納税者の立場から西山さんは当然無罪の冤罪であり、その名誉は国家から回復されるべきであるので、控訴して闘いを続ける。 
 (2)また、刑事再審では、時効消滅、除斥期間論で裁判所が密約判断から逃げることができず、密約の存否の判断は得られるので、刑事再審の申し立てに是非取り組みたいと思っている。 
 
▽沖縄県2紙が、判決当日の夕刊に速報 
 
 当初「知る権利・取材の自由」をめぐって政府と報道機関の間に激しい論争があったが、「外務省女性事務官を欺いての取材→国家公務員法違反の罪」に擦りかえられて、「国家権力のウソ」が隠蔽され続けたのが、沖縄密約裁判30数年の流れである。従って、今回の判決についての検証紙面を期待した。果たして、各紙はどう応えたろうか…。 
 
 3月27日の判決言い渡しが午後1時半すぎだったため、夕刊に間に合わなかったのはやむを得まい。ところが、沖縄県の『琉球新報』と『沖縄タイムス』は夕刊最終版一面トップに「西山敗訴」を報じていた。際どい時間帯だったのに、一部地域とはいえ速報に踏み切った価値判断を高く評価したい。沖縄県紙は、米軍基地の動向に本土紙より厳しい目を注ぎ続けているが、現在の米軍再編問題に絡めて「沖縄返還密約裁判」も執拗に追っており、28日朝刊でも大々的に紙面展開していた。 
 もう一つ驚かされたのは、『北海道新聞』が28日朝刊一面トップに報じていたことだ。同紙は昨年2月、「吉野証言」をスクープしており、裁判の行方を熱心にフォローしていたに違いない。 
 
 在京六紙(28日朝刊)を点検すると、『東京新聞』が社会面トップに報じた以外、朝日・毎日・読売・日経・産経すべて第二社会面3段扱いだった。政治的に難しい事件だけに、各紙の分析・視点の置き方を知りたかったが、残念ながら物足りない紙面だった。 
 
 六紙のうち社説を掲げたのは三紙だけで、『読売』は「『密約』の存在をいまだに否定し続ける政府の姿勢は、ちょっとおかしいのではないか。……外務省の元アメリカ局長は『密約とは公表されていない交渉内容。この問題は米側文書で公開された』とも語っている。『外交秘密』として保護すべき正当な理由は、もはや見当たらない」と述べ、『東京』は「すでに相手側が公表している事実を秘密にすることは、少なくとも外交上は必要性がない。強いて理由をあげれば、『平和的に領土を回復した』と称えられた佐藤栄作首相(当時)の栄誉を傷つけたくない、ぐらいだろう。司法は存否を判断しないことで、国民を欺く、政府の密約隠しに協力したことにならないか」と指摘していた。『朝日』社説は一日遅れだったが、『毎日』が書かなかったのは腑に落ちない。 
 
▽「日米関係の基礎 空洞化」 
 
 米国の公開文書から「沖縄返還密約」を発掘した我部政明・琉球大教授が『琉球新報』(3・28朝刊)に寄稿した論評の一部を紹介したい。 
 「確かに、この判決は、密約の存在を認めない日本政府の短期的な利益を守った。しかし、日米両国民の信頼のもとに長期にわたり安定させるべき重要な二国間関係の基礎部分に空洞を作ってしまった。この裁判を通じて国民は、政府はやはりウソをついていたと知ったのではないか。国民の政府への信頼感が失われては、成熟する民主主義国家とはいえない。慰安婦の存在を否定する現政権への海外からの視線が厳しいのと同様に、国民への情報公開に消極的な政府は見放される。 
 
 もう一方でこの事件は政府が秘密にする情報と、どのように対峙すべきかメディア自身に問うていた。メディアは国民の『知る権利』の代理人である。それ以上でも、それ以下でもない。取材する側の特権がメディアに与えられているはずもない。この裁判をめぐる報道に、情報源を守りながらも報道の透明性の確保こそが、国民からの信頼に応えることだとの言及は乏しかった。その背景には、情報を握る政府への接近が、ときに記者をして権力におもねることを厭わない素地があると指摘できよう。それは、取材側が日々接する政治家や官僚の視点に、自ら立つという勘違いをすることではないだろうか。こうした事態が起きるとき『知る権利』は存在しなくなる。だからこそメディアにとっての『知る権利』は、権力に向かっては自らを奮い立たせるエネルギーであり、自身に向かっては市井の視点を知る『知る原点』となろう」 
 
 実に含蓄に富む指摘で、それだけに「沖縄密約事件」の更なる検証と執拗な追究の重要性を痛感する。 
(いけだ・たつお=ジャーナリスト) 
 
*本稿は、「新聞通信調査会報」5月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。