2007年05月10日00時27分掲載  無料記事
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時事英語一口メモ

【23】北京五輪は「大虐殺五輪」

ブログ版 
 
 北京五輪を”Genocide Olympics” (大虐殺五輪)と呼んで、ボイコットを呼び掛ける運動が欧米で盛り上っている。ダルフール紛争を抱えるスーダン政府に肩入れする中国に圧力を掛けるためだ。フランス大統領選挙では、左派のロワイヤルと中道のバイルがボイコットに賛成、当選した右派のサルコジが反対を表明した。国内では人権問題を抱え、資源確保に躍起となって独裁政権との関係を強めている中国に対し、国際的な風圧が強まっている。(鳥居英晴) 
 
 “Genocide Olympics”という言葉が最初に見られるのは、ワシントン・ポスト紙(2006年12月14日)の社説。China and Darfur The Genocide Olympics?と題する社説はダルフールの問題を取り上げ、次のように述べた。 
 
  Equally, China seeks acceptance at the world's diplomatic top table -- and this cause is unlikely to be advanced if China is perceived to be complicit in genocide. Imagine the newspaper ads leading up to the Beijing Games in 2008: Human rights campaigners will call on the world to boycott the Genocide Olympics. 
 
 (中国は世界の外交で上座の位置を占めようとしている。中国がジェノサイドに加担していると見られたら、それは前に進まないであろう。2008年の北京五輪に至るまで虐殺を伝える広告が新聞に載っていることを想像してみよう。人権活動家はジェノサイド五輪をボイコットするよう呼びかけるであろう) 
 
 “Genocide Olympics”という言葉を普及させる上で最も大きな役割を果たしたのは米国の女優ミア・ファローである。国連児童基金(ユニセフ)親善大使としてダルフールに2回、隣国のチャドを2回訪れている。彼女はウォールストリート・ジャーナル紙(3月28日)にThe 'Genocide Olympics'と題した文章を寄せた。 
 
 That so many corporate sponsors want the world to look away from that atrocity during the games is bad enough. But equally disappointing is the decision of artists like director Steven Spielberg -- who quietly visited China this month as he prepares to help stage the Olympic ceremonies -- to sanitize Beijing's image. Is Mr. Spielberg, who in 1994 founded the Shoah Foundation to record the testimony of survivors of the holocaust, aware that China is bankrolling Darfur's genocide? 
 
 (多くの企業スポンサーが五輪開催中、残虐行為から世界の目をそらしたがっていることは最悪だ。しかし、同様に失望させられることは、スティーブン・スピルバーグ監督のような芸術家がー彼は今月、五輪開会・閉会式準備支援のため中国を訪問したがー中国のイメージを清めようとしていることだ。ホロコーストの生存者の証言を記録するため、1994年にショア基金を創設したスピルバーグ氏は、中国がダルフールの大虐殺の資金をだしていることを知っているのだろうか) 
 
 Corporate sponsors like Johnson & Johnson, Coca-Cola, General Electric and McDonalds, and key collaborators like Mr. Spielberg, should be put on notice. For there is another slogan afoot, one that is fast becoming viral amongst advocacy groups; rather than "One World, One Dream," people are beginning to speak of the coming "Genocide Olympics." 
 
 (ジョンソン・エンド・ジョンソン、コカコーラ、GE、マクドナルドなど企業スポンサー、スピルバーグ氏のような協力者は警告を受けるべきだ。活動家のグループの間でもうひとつのスローガンが広まっている。「ひとつの世界、ひとつの夢」ではなく、人々は「ジェノサイド五輪」と言い始めている) 
 
 Does Mr. Spielberg really want to go down in history as the Leni Riefenstahl of the Beijing Games? 
 
 (スピルバーグ氏は北京五輪のレニ・リーフェンシュタールとして歴史に残りたいのか) 
 
 リーフェンシュタールは、ベルリン五輪(1936年)の記録映画「オリンピア」を製作した映画監督。作品はベネチア映画祭金獅子賞を受賞したが、戦後はナチスのプロパガンダ映画とみなされた。 
 
 翌3月29日に中国外務省で行われた記者会見で、ファローの記事について問われた秦剛報道官は、I haven't heard of the actress you mentioned.(その女優の名前は聞いたことがない)とした上で、次のように述べた。 
 
 It is not appropriate to link the Darfur issue to the Beijing Olympic Games in an attempt to gain people's applause and sympathy. We are confident and capable of hosting an exceptional and high-level Olympic Games.I shall also point out that if someone wants to pin Olympic Games and Darfur issue together to earn more votes and raise their fame, he is playing a futile trick. 
 
 (ダルフール問題を北京オリンピックに結び付けて、人々の拍手喝采と同情を得ようとするのは不適切だ。われわれは、優れた高度のオリンピックを開催する能力があると自負している。もし北京オリンピックとダルフール問題を結び付けて、得点を稼ぎ自己の名声を高めようという人がいるとすれば、無駄なたくらみであると指摘しておく) 
 
 4月13日付のニューヨーク・タイムズ紙によると、この寄稿の4日後、北京五輪の芸術顧問を務めるスピルバーグは中国の胡錦濤主席に手紙を送り、ダルフールの住民虐殺を非難、人的苦痛(human suffering)を終わらせるよう影響力を行使するよう要請した。また、中国政府は外務次官補をスーダンに派遣、難民キャンプを視察させる異例の対応を取った。 
 
 ボストン・グローブ紙(3月25日)によると、”Genocide Olympics”のキャンペーンの仕掛け人はマサチューセッツ州のスミス大学の教授、Eric Reeves。同教授はスーダンの研究の専門家。スーダンで活動している人権団体のコンサルタントを務める活動家でもある。 
 
 同教授は2月10日に運営するサイト、sudanreeves.orgにダルフール問題たずさわる活動家あての公開書簡という形で、''full-scale launch of a large, organized campaign to highlight China's complicity in the Darfur genocide''(ダルフールのジェノサイドにおける中国の加担を浮き彫りにするための大規模な組織的キャンペーンの全面的開始)を宣言した。 
 
 It's time, now, to begin shaming China---demanding that if the Beijing government is going to host the premier international event, the Summer Olympic Games of 2008, they must be responsible international partners. China's slogan for these Olympic Games---"One world, one dream"---is a ghastly irony, given Beijing's complicity in the Darfur genocide 
 
 (いまや中国に恥を知らしめる時だ。北京政府が2008年の夏季五輪大会を主催しようとするなら、責任ある国際的パートナーでなければならない。中国のダルフールのジェノサイドでの加担からすれば、「ひとつの世界、ひとつの夢」という五輪大会の中国のスローガンはぞっとする皮肉である) 
 
 米国のブッシュ大統領は2004年9月、ダルフールの状況を「ジェノサイド」と結論づけたが、国連はジェノサイドにあたるとの認定は避けている。安全保障理事会は2005年、ダルフールにおいて、大規模の人道に対する罪および戦争犯罪が行われたとして、国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ)への付託を決議した。同裁判所は5月2日、スーダン政府の担当大臣と民兵組織の幹部に逮捕状を出した。 
 
 ボストン・グローブ(5月8日)は、資源確保のために独裁政権を支持している中国を激しく非難する社説を載せた。 
 
 Although there never was an axis of evil, there are murderous dictatorships in the world today that have one thing in common: support from the People's Republic of China. In Sudan, Burma, Uzbekistan, and Zimbabwe, China has become an enabler of evil. 
 
 (悪の枢軸は存在しなかったが、残忍な独裁政権が今日の世界に存在する。それらはひとつの共通点を持っている。中華人民共和国の支持である、スーダン、ビルマ、ウズベキスタン、ジンバブエで中国は悪の実現者になった) 
 
 So the best way to deter China's rulers from being the principal enablers of genocide in Darfur or forced labor and ethnic cleansing in Burma is to name them and shame them as often as possible. The last thing China's rulers want is to have the 2008 Olympic games in Beijing branded with the name that many are trying to apply: the Genocide Olympics. 
 
 (中国の指導部がダルフールでのジェノサイド、ビルマでの民族浄化の主要な実現者になることを阻止するための最良の方法は、できるだけ多く名指し、恥を知らしめることである。中国の指導部が最も望まないことは、2008年の北京五輪が、多くの人たちがつけようとしている名前で呼ばれることだ。それはジェノサイド五輪である) 
 
 ところで、同五輪のボイコット真っ先に呼び掛けたのは石原慎太郎都知事である。英国のタイムズ紙(2005年6月1日)とのインタビューで次のように語っている。 
 
 “The reason I speak of a boycott is because of the recent football games, and the trouble that was caused on that occasion,” Mr Ishihara said in his 45-storey headquarters in Tokyo. “I think that the Olympics in Beijing have the same significance in international politics as Hitler’s Olympics in Berlin in 1936. It was a demonstration against the background of military power. Beijing is hoping to show the same kind of posture.” 
 
 「ボイコットを言った理由は、最近のサッカーの試合で騒ぎが起きたからだ。北京オリンピックは、国際政治で1936年のベルリンでのヒトラーのオリンピックと同じ意義を持っていると思う。軍事力を背景にした示威行為であった。中国は同じようなことをしたいのだ」 
 
 ところが五輪の東京招致を目指しているためか、最近は態度を豹変させている。3選を果たした後の4月13日、共同通信のインタビューで、北京五輪について「成功してもらいたいと思います。招待があれば行きます」と述べている。 
 
参考サイト 
http://www.miafarrow.org/editorials.html 
http://www.boston.com/news/education/higher/articles/2007/03/25/genocide_games/?page=1 
http://www.sudanreeves.org/Page-10.html 
http://www.iht.com/articles/2007/05/08/opinion/edchina.php 
 
ジェノサイドの定義 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89%E6%9D%A1%E7%B4%84 
http://www.boston.com/news/education/higher/articles/2007/03/25/genocide_games/ 


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