2007年05月27日11時22分掲載  無料記事
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米国政治の再生は可能か イラク撤退期限なしの予算案通過の背景 落合栄一郎

 アメリカ国民の多くの反対にも拘らず、民主党がブッシュ大統領に屈したために軍事補正予算案が大統領の主張通り、イラクからの撤退期限なしで米議会を通過した。民主党は、軍事予算を完全に削減することも比較的容易に出来たはずなのに、である。なぜなのか。このようなアメリカの政治体制はどのようにして出来し、これを変えることは可能なのだろうか。 
 
 民主党がブッシュ大統領に屈した唯一の理由は、来年の選挙への思惑からであろう。大統領選挙(大統領と国会議員の多数)に勝たんがためにアメリカ国民の顔色を伺ったのである。すなわち、無駄で非条理な戦争を止めさせることよりも、自分たちが選挙に勝つチャンスを増すことに賭けたのである。 
 
 イラク戦争を停止すれば、戦争により潤っている軍需産業を縮小させることになるだけでなく、全国に散らばっている軍需関連企業に依存する有権者の反感を招き、選挙に勝てないというわけだ。 
 
 大統領を罷免する動きも民主党議員のなかに一人いるだけで、大勢は見向きもしない。それは戦争を遂行中の総指揮官を罷免した前例がないという理由もあるが、大統領をいまだに支持している国民がかなりいることから、そうした国民を刺激したくないからである。加えて、その背後にある戦争によって儲けている企業群の思惑(国会議員たちの選挙支援)にも気を使わなければならない。 
 
 こういう日和見党員が両党とも大部分である限りアメリカの政治は変わらない。これがしかし、代表制民主主義なのであり、非条理な信念をもつ国民や、軍需産業に依存してまで自分たちの生活を維持したいと望む多くの人たちの民意を反映しているのであろう。 
 
 代表制民主主義そのもののあり方が問われている。問題は二つある。一つは選挙制度、二つ目はもっと基本的な民意の質の問題。選挙制度改革である程度の進歩は期待される。選挙区区分が国民の総意をより良く反映できるようにすること、選挙に企業などの影響がないよう選挙資金への企業その他の献金の違法化、といった改革が考えられる。 
 
 国民の意識にも問題がある。アメリカという強大な国に住む人たちの多くがいだきがちな傲慢な考え、特殊な宗教に基づく選民意識、それに付随して全人類への広範な配慮が欠けていることが挙げられる。 
 
 代表制民主主義に直接関連した問題ではないが、企業本位の新自由主義経済の問題の抜本的な解決をする必要があることも指摘しておこう。 
 
*落合栄一郎(カナダ・ヴァンクーヴァー在住) 
 東京生まれ、工学博士。カナダ・ブリテイッシュコロンビア大、トロント大、スウェーデンウメオ大などで、化学の研究と教授に従事し、米国メリーランド大、ペンシルバニア州のジュニアータ大で研究/教授歴25年。ジュニアータ大では、化学を教えるかたわら「日本と西欧の文化の比較」という科目も担当していた。 
 
 2005年退職後は、カナダのヴァンクーヴァーで、「憲法9条を守る会・VSA9」など平和運動、持続可能性に関する運動に関与。 
 
 主な著書に、「Bioinorganic Chemistry-An Introduction」(Allyn and Bacon,Boston, 1977),「General Principles of Biochemistry of the Elements」(Plenum Press, New York, 1987)。 


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