2007年07月05日14時10分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200707051410134

ベジタリアンとファッション 皮革製品が殺す10億の動物

  英語のベジタリアンという言葉は日本語ではカタカナ表記されることが多いが、「菜食主義」という漢字を使った日本語訳もある。筆者はこれまで、菜食主義が水問題など「環境にも優しい」点を説いてきた。だがベジタリアンにとり一番の関心事は、やはり、命を大切にすることだ。多くの人間は、食事だけでなく服飾や家具においても革製品などを使用し、命を粗末に扱っている。オーストラリアのファッション誌「YEN」が最新号で服飾などに関するベジタリアン哲学を特集した。その内容を紹介する。(アデレード=木村哲郎ティーグ) 
 
 「皮のソファーに座ったときに、それが動物の命を犠牲にして作られたものであると考えたことはありますか?」とポール・マッカートニーの娘、ファッション・デザイナーのステラ・マッカートニーさんは訴える。2000年にはVH1アワードやヴォーグ・ファッション・アンド・ミュージック・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞している一流デザイナーのステラさんが作る服には、レザーや毛皮が一切使われていない。ステラさんは父親のポール・マッカートニーさんや、母親の故リンダ・マッカートニーさんと同じように、厳格な菜食主義者だ。 
 
 ステラさんによると、ファッションとは「見た目」のものだけでなく「美しさを作り出すもの」でもあるという。確かに、不必要に動物を殺すことに美しさはない。ステラさんは母親の死後、世界最大の動物権利擁護団体である「動物の倫理的扱いを求める人々の会」の活動にも積極的に参加している。インドのレザー産業の実態も映像で暴いており、また、ブリティッシュ航空にも、「殺された牛の皮でリラックスすることは出来ない」とシートにレザーを使わないように文書で抗議している。 
 
 
▼“アンファッショナブル”なレザーや毛皮の「生産」行程 
 
 それではレザーや毛皮の「生産」は、どのように行われているのだろうか。ミンク、フォックス、チンチラ、大山猫、ウサギなどの動物は、レザーや毛皮になるべく人間の手で育てられ、そして殺されている。85%の毛皮は、檻に閉じこめられた「ファクトリー・ファーム」の動物から作られている。動物たちの住み心地などは二の次で、いかに効率よく「生産」できるかに焦点が当てられている。 
 
 例えばミンクは群を組まない動物であるため、1頭につき2500エーカーのテリトリーが自然界では必要なのだが、檻に詰め込まれたミンクはストレスから自らの皮膚を掻きむしることが珍しくない。オックスフォード大学の研究によると、泳ぐ機会のない檻に閉じこめられたミンクは、ストレスなどから苦しむことが立証されている。さらにフォックスやアライグマの場合は、檻の中で共食いすることも確認されている。 
 
 米国を含んだ多くの国では、これらの動物に対する法的な規制が一切ない。剥いだ皮がいかに傷つけられていないかが大事なため、小さな動物は箱に生きたままぎっしりと詰め込まれ、熱せられた毒性の排気ガスで殺される。大きな動物の場合は、留め金を口と肛門に掛け、電気ショックで殺す。中毒性のあるストリキニーネで殺される動物は、激しい痛みを伴い体を痙攣させながら死んでいく。圧死や首の骨を折って殺すやり方も珍しくない。 
 
 最も悲惨な状況で動物が扱われている国は中国だろう。世界一の毛皮の生産国となった中国では、百万単位で犬や猫までもが殺されている。そしてもちろん、中国には動物保護の法律がない。ペットの犬や猫が盗まれ、食事や水も与えられずに何日間も輸送された後に、名前の記された首輪が付けられたまま殺されるケースもある。輸送途中に死んでいく犬や猫もいる。トラックから下ろされるときに3メートルも下に投げ飛ばされ、足の骨などを折ることもある。 
 
 寒さや暑さだけでなく、雨に野ざらしにされるフォックスやミンクがいることもスイスの動物保護団体の調べで分かっている。ストレスや病気により、自らの四肢を噛み続ける異常な行動も見られる。 
 
▼皮革製品のために殺される動物は年間10億頭 
 
 
 レザー産業だけで皮革製品のために殺される動物の数は、全世界で年間10億頭になるという。毛皮を含めばその数はさらに膨らむ。化粧品や塗料などに使われる動物の脂は食肉の副産物であるのかもしれないが、レザーや毛皮のほとんどは副産物ではない。多くの動物たちがファクトリー・ファームの中で肉体的にも精神的にも苦しみ、無駄に殺されるためだけに生まれてくる。 
 
 また野生の動物たちも、シマウマ、バイソン、水牛、熊、象、ウナギ、サメ、イルカ、アシカ、セイウチ、カエル、カメ、ワニ、トカゲ、ヘビなどがレザーのために殺されている。オーストラリアでは国のシンボルでもあるカンガルーが百万単位で毎年殺されている。また健康的で若い牛を殺すことが禁止されているインドでは、わざと子牛を弱らせてから殺すことがある。 
 
 ステラ・マッカートニーさんは、最終的に選択を行うのは消費者であると言う。しかし、ファッショナブルであるために動物を殺す必要がないことは、ステラさんのデザインで証明されている。より倫理的な生活を始めるための第一歩は、身近な日常の中に存在している。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。