2007年08月26日05時32分掲載  無料記事
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「名誉殺人」事件に衝撃受ける英国社会 インド系の女性らが犠牲者に

  【ロンドン25日=小林恭子】英国に住んでいるインド系とイラクの少数民族クルド人の家族が、「家族の名誉を守る」と称して、肉親の女性を相次いで殺害していたことが報道され、英国社会に大きな衝撃を与えている。異文化に育った家族らが、西側諸国に移住したものの、出自の文化的価値観に引きずられ、凶行に走ったとみられている。 
 
 英国の裁判所は7月26日、1988年から失踪していたインド系英国人女性スルジット・アスワルさん(当時27歳)を殺害していたアスワルさんの夫と義母を有罪とする判断を下した。二人には、9月に終身刑が宣告される見通し。 
 
 英BBCによると、アスワルさんは16歳で親が決めた男性と結婚した。16歳年上の夫に会ったのは、結婚当日だった。夫は英ヒースロー空港で運転手として働いており、アスワルさんも空港で働くようになった。夫婦には二人の子供が生まれた。 
 
 しかし、アスワルさんは既婚男性と交際をするようになり、離婚を希望した。アスワルさんの義母は「家族の名誉が危険にさらされている」「離婚は絶対に許さない」と周囲に語っていたという。 
 
 アスワルさんは1998年、夫や義母とともに、親戚の結婚式に出席するためインドのパンジャブ地方に向かった。インドでアスワルさんの消息は途絶えた。その後、義母が親戚に対し、アスワルさんを絞殺し、河に投げ込んだと吹聴したため、不審に思った親戚の一員が警察に通報した。義母らは、インドやロンドンの捜査当局には、アスワルさんが失踪したと届けていた。 
 
 一方、アスワルさんの事件の1週間前には、在英クルド人、バナズ・マモドさん(当時20歳)を父親らが殺害した件で有罪判決が出ている。マモドさんは、親が決めた相手との結婚を拒否し、親が承認しない男性をボーイフレンドにしたことで、殺害された。 
 
 2006年1月マモドさんは行方不明になり、3カ月後に遺体が発見された。マモドさんは地元警察に、「家族から殺されそうになっている、助けてほしい」と数回にわたり訴えていた。しかし、警察はこれをまともに受け取らず、逆にマモドさんの家族に連絡を取る始末だった。 
 
 マモドさんの父親は、親類の男性と共謀し、別のクルド人男性に殺害させた。マモドさんは絞殺される前に、レイプされていた。 
 
 移民が増えている英国では、移住者の文化的価値観である「名誉殺人」(オナー・キリング)に大きな驚きを受けている。 
 
 人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」の定義によると、名誉殺人とは、一般的には「家族の中の男性(父、男兄弟、夫)が、女性(妻、娘、姉や妹)が家族に不名誉をもたらしたことを理由に行なう、殺人を含む暴力行為」だという。 
 
 引き金となる「不名誉な行為」とは、親や家族が決めた結婚相手を拒絶することや、性的暴力の対象になった、離婚を申し出た、不倫を行なったなどを指す。 
 
 また不倫を行なったとする噂が出たり、所属する共同体(アジア系社会、イスラム社会など)の価値観に合わない相手や親が認めない相手との交際や結婚、家族や共同体の価値観に反する洋服を着る、立ち振る舞いをする――などもこれに該当するという。 
 
 英国で犠牲者になり易いのが、南アジア(インド、パキスタン、バングラデシュなど)、中東、アフリカなどから移民として英国にやってきた家庭に生まれついた若い男女だが、女性が圧倒的に多い。 
 
 世界全体では毎年5000人の女性が名誉の殺人で命を落とし、英国でも年に13件の傷害・殺害事件が起きているとされるが、政府や捜査当局も実態を正確にはつかめていない。 


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