2008年01月27日20時52分掲載  無料記事
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コンサートで胸をはだけた男性ロック歌手とTV局にに厳罰 マレーシア当局の処分に批判も 

  【クアラルンプール27日=和田等】マレーシアの人気男性ロックシンガーがコンサートで胸をはだけたため、番組を放映したテレビ局と本人に対して当局から厳しい処分が下された。彼の行為は同国の公序良俗に反するとして、テレビ局はコンサート番組の放送禁止、本人は番組への出演禁止となったのだ。しかし地元紙からは、当局の対応は過剰で、こんなささいなことに目くじらを立てたからといって若者のモラルの低下を防げるとは思えないという論評もでている。 
 
 問題の番組は、民放テレビ局8TVの開局4周年記念番組として1月中旬に放送されたライブ・コンサート「ロッキン・バースデー・コンサート」。ロックシンガー兼テレビ・ホストのファイザル・タヒル(29)が、着ていたTシャツを脱いで自分の胸に書かれたスーパーマンのロゴである「S」の文字をさらけだした。 
 
 テレビやラジオ放送に対する監督権を持つマレーシア通信・マルチメディア委員会は、ファイザルの行為は、公衆の面前で身体を露出してはならないとの放送規定に違反し、視聴者の感情や公共の価値観に対する配慮を欠いたものであるとの判断を下し、8TVに与えていたコンサートやエンターテインメント番組を生放送、もしくは録画放送する許可を剥奪し、1月15日から3カ月間、これらの番組を8TVで放送することを禁止する措置をとった。さらに同委員会はファイザル本人に対しても、1月15日から3カ月間、生放送か録画放送かにかかわりなく、民放テレビ局のエンターテインメント番組に出演することを禁止する措置をとった。 
 
 8TVはタレント発掘番組「ワン・イン・ア・ミリオン」を通じて2年前にファイザルを発掘したテレビ局だが、当局の措置を受けてファイザルに対して6カ月間の社会奉仕活動を命じたほか、彼のアルバム販売やコンサートから生じるすべてのロイヤルティー(印税・著作権使用料)の支払いを凍結するなどの厳しい措置をとった。 
 
 だがこの騒ぎに対して、英字紙スターのアショハン・デスクは、同紙に掲載したコラムの中で「男性シンガーが(テレビ放映された)コンサートで胸をはだけたことがそんなに大騒ぎすることなのだろうか」との疑問投げかけ、これまでの同様の騒ぎにふれている。 
 
 数年前には、人気ロックグループ、サーチのボーカリスト、エミーが「長髪は退廃的な欧米文化の象徴」との批判を受け、閣僚立ち会いの下で「公開断髪式」をさせられた。 
 
 さらに情報省がマレー語の歌に英語の歌詞を交えて歌うことを禁止する規則を導入したことに反発した、当時人気ナンバー1だったヒップホップ・グループ、KRUの例もある。KRUは1992年に発表したデビュー・アルバムに収録した10曲のうち7曲をマレー語と英語、およびスラング(俗語)を交えて歌ったところ、情報省は「正しいマレー語を乱す行為である」として国営放送RTMでの放送を禁止する措置をとった。ただし、このアルバムはこうした話題を呼んだこともあり、プラチナ・ディスクになるという副産物も生み出した。 
 
 アショハン氏は「公衆の面前で裸体をさらけ出すというモラルの乱れを見逃せば、最終的には国家的規模で不道徳な行為がはびこることになるという道徳重視派が存在するが、こうした人たちは不道徳な行為を根絶したいと焦るあまり、不道徳行為狩りこそ自分たちの任務だという思いにとらわれてしまっているのではないだろうか」と指摘。「マレーシアでは過去20年にわたってモラル面での厳しい規制や規則が施行されてきたが、実際には若者のモラルの低下や犯罪の増加の阻止には役立ってこなかったような気がする」として、今回の出来事をめぐる当局の対応に批判的な見方を示している。 
 
 もっとも、マハティール前政権下では、当局の対応に堂々と疑問を呈する声が紙面に出ることは考えられなかっただけに、こうした意見が出ること自体、アブドラー政権誕生後のメディアに対するリベラルな方針がかなり浸透してきたことの現れととらえる向きもある。 


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