2008年01月29日18時59分掲載  無料記事
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考え得る限りの悪夢の到来か、戦争屋マケインの米大統領選再登場は凶兆

  今年11月に行われる大統領選挙に向けて、全米各州では予備選挙が目下着々と進み、米史上初の黒人大統領なるか、あるいは女性大統領かと、報道が過熱しています。この喧噪に隠れて、たいへん恐ろしい事態 が迫っていると、ジャスティン・レイモンドが警鐘を鳴らしました。レイモンドは現在反戦ウェブサイト Antiwar.com の編集長で、かつて連邦議会選挙に共和党から立候補した経験もある。彼が訴える「最悪の事態」とは? 以下は、レイモンド編集長の大統領選予測です。(TUP速報) 
 
戦争屋マケインの精神構造 
大統領選再登場は凶兆 
ジャスティン・レイモンド 
 
米大統領選挙サウス・カロライナ州予備選挙におけるジョン・マケインの辛勝をめぐり報道が過熱している。ニュースの伝えるマケインは、再起不能と思われていた2000年大統領選敗北からよみがえった不死鳥のようだ。その中で奇異な点が目につく。マケインは、反戦派のあいだで人気がある。一見これはマケインのイメージとずれている。マケインがいわゆる「サージ」の候補者で、ことイラクに関してだけでなく、共和党員が反対したコソボなど紛争への介入についても、これまで一貫して主戦論者の一角にあり、中でも最強硬派に位置してきたと知るものにとってはとりわけ意外である。ここで思い出されるのは、クリントン政権時マケインが旧ユーゴスラビアに侵攻すべしと強硬に主張した一件である。「マケイン」「地上軍」でググってみれば、公人としてのマケインの生き方を貫くものがわかるだろう。彼はいついかなる場合でも、考え得るかぎり最も好戦的な外交姿勢をとってきた。 
 
[訳注:サージとは2007年前半に実施されたイラク駐留米軍の増派。約3万人。同年1月10日ブッシュ大統領が発表すると世界中で反対運動が高まった] 
 
湾岸戦争、バルカン紛争、イラク戦争・・・。さらにロシアとの緊張が高まってきたとなると、この上院議員は、南オセティアをめぐるグルジア・ロシア間紛争に手を突っ込もうと旧ソ連圏のグルジア共和国までもはるばる訪れ、グルジアの領土は1インチたりともロシアに渡さないなどと放言した。それを聞いた人は、南オセティアの人々が自治権を獲得するかしないかに自由主義世界の命運がかかっていると思ったことだろう。それにしてもこれほどアメリカにその気のない紛争はなかったはずだ。これはある意味マケインがエエカッコシイであるということで説明がつく。彼はみすみす機会を逃すにしのびなかったのである。しかし、このような場違いでがむしゃらなやり方は、性格的に押しが強く傲慢だからというだけでは説明できない。イデオロギーの問題でもある。 
 
マケイン病患者の世界観は、地球上のいかなる片隅でもアメリカの地上軍の行くところには利益が及ぶはずだというものだ。米外交政策の適正な目標は「世界の圧制に終止符を打つこと」であると主張する、悪評高いブッシュ2期目就任演説「心にともる火」[注1]を気にいった人なら、「マケイン大統領」の世界救済のための新ウィルソン主義[注2]に熱狂するだろう。マシュー・イグレシアス[注3]は、マケインの外交政策に関する精神構造をブログ「アトランティック」で簡潔にまとめている。 
 
「マケインにとって、名誉、ミリタリズム、ナショナリズムなどある種の精神文化はそれ自体に価値がある。軍は、何をするかではなくただ軍であるという理由によって、讃えられ支持されるべき存在となる。したがって、いかなる軍事行動も実質的な目標などを必要とせず、具体的に<みあうだけの価値>が見つからなくていい。軍は存在することに価値があり、われわれがなすべきは、軍事行動をできるかぎり継続することだ。その軍事行動に意味がなかろうと、無益であろうと、いっこうにかまわない。戦争が軍に存在理由を与える」 
 
イグレシアスの言葉はミリタリズムの本質をついている。それは、戦争を目的とする戦争に邁進するというイデオロギーである。戦争自体を美徳に仕立て上げられない場合でも、それを条件にすることはできる。戦争という条件下では、高邁な理想を追求する姿勢を誇示する機会があるからだ。マケインのミリタリズムを彩り正当化しているのは、名誉、義務、国、犠牲といった言葉である。しかし、攻撃的姿勢を自明の原理とする外交政策に名誉はない。わが国の利益にとっても、またわれわれがみせかけの「解放」を行っている国々にとっても何ら利益とならない政策を遂行するのは義務ではない。わが国の経済を疲弊させ、道徳を荒廃させるという犠牲を払ってまで遂行するなら、なおさらである。 
 
反戦派の間でマケインが支持されるのは、なぜか。それはマケインが、前国防長官ドナルド・ラムズフェルドの政策に対するアンチとしてサージ支持を打ち出しているからである。マケインの批判は、ラムズフェルドが誤りを認めない傲岸さで悪評高い戦争推進派の表看板であったからではなく、その程度の好戦性ではマケインのめがねにかなわなかったからだ。さらに言えば、マケインのほとんど消滅していた大統領への野望の復活は、奇妙な状況の中で起こっている。民主・共和両党の鼻の差を争う予備選の論点から、イラク戦争は事実上はずされている。ひとつには、これはサージが成功しているといわれているからだ。が、事実はまったくちがう。アンドリュー・ベイスヴィッチ[注4]が先頃指摘したように、イラクの「解放」に続くはずだった華々しい成果はまったく実現しなかった。それとはまったく逆である。 
 
「1945年以降のドイツと日本における成功をアメリカは今回イラクでもやってみせるという自信と期待の中で開始された国家建設プロジェクトは、ハリケーン・カトリーナへの対応と比べてさえ見劣りする」 
 
しかしサージはアメリカ本土、つまり銃後における人心掌握の戦いに勝利するためのすべてを備えおり、その本来の目的を達成した。 
 
「ただ1点において、サージは明白な成功をおさめた。サージによって、米軍はすぐには撤退しないことが確実になったのである。これがサージのそもそもの主目的の一つであった。アメリカ・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)[注5]の軍事アナリストのトーマス・ドネリーが驚くべき率直さで認めたように『サージの目的はある意味、イラク戦争に関する現政権の語り口を変更し』、それによって米軍完全撤退の要求をそらすことにあった」 
 
ブッシュ政権はイラク戦争をマケインに譲ったら、対決と征服を旨とする自分たちの政策を継続しなおかつエスカレートしてくれるということを知っている。これが、田舎くさいポピュリズムとアウトサイダー的立場で共和党首脳部の鬼門となっているマイク・ハカビーに対する唯一有効な対抗馬として、マケインが共和党主流からお墨付きを得ていると見える理由である。 
 
サージの成功という神話は、主流メディアが語るマケイン復活物語の伏線となっている。マケインはつねにジャーナリストに向けて演じており、彼等から合格点をもらうことを期待してきた。そしてジャーナリストたちは、マケインの自己中心的芝居の前で夢見心地である。しかし、現在進行形のわがイラク占領、マケインが100年続けたいと思っているイラク占領に関して、何をもって「成功」とみなすことができるのか。イラクは周辺のイスラム国家に対し「お手本」となるはずだった。そしてまたイラクの「解放」は、イスラム世界の世俗化、政治的変革の先駆けとなり、ジハーディストの狂信的独裁主義に対する反抗に火を点けるはずだった。ところが、まったくそうはならなかった。 
 
サージ擁護派の問題点は、一時的な戦術の成功と戦略の成功とを混同したことにある、とベイスヴィッチは明確に指摘している。米軍の戦死者は減少したかもしれない。しかし、イラクと周辺地域についてこれまで公表されてきた戦略目標の達成は、戦争開始以来もっとも遠く手の届かないものとなった。イラク占領は、アルカイダにとっては新兵獲得の一大好機であり、一方わが国の軍と財政にとっては注いでもきりのない底なしのざるである。2期目就任演説と米国民主主義基金の演説でブッシュが掲げたスローガン「世界民主革命」。しかし革命の実現は引き延ばされただけでなく、裏切られたのだ。イラクの「民主的」政府は、蔓延する腐敗、宗派間対立の助長、野放しの殺人部隊で評判だ。 
 
これを「成功」というなら、いったい失敗とは何だろう。 
 
だが、ベイスヴィッチが正しく指摘するように、「サージ」はまったくの国内向け政策なのである。つまりイラクに国家を構築するのではなく、ワシントンに戦争推進のコンセンサスを構築するという政策だった。そしてこの戦線においてすばらしい成功をおさめた。民主党内で組織化された反戦感情が最後の火花をあげたとして、バラク・オバマが敗北し、最終的にクリントンの旧勢力が勝利することで踏み消されてしまうであろう。そうなると確実に、ホワイトハウスを目指す大政党候補者にはアメリカ人の大多数の意見、つまりイラクから即刻撤退すべきだという意見を代表するものがまったくいなくなる。選択肢は、「百年戦争」のマケインか、日に日に鷹派色を濃くするヒラリー・クリントンか。クリントンはイラク撤退を主張したことは1回もないし、民主党候補となったとして撤退を主張し始めるということは絶対にないだろう。どちらが当選しても「戦争党」が勝つことになる。議論で勝つのではなく、戦争とそれを正当化した「先制」攻撃という外交政策について議論がまったく起こらないようにすることによって、勝つ。 
 
さらに、民主党が、アイデンティティ・ポリティックス、つまり候補者の人種、ジェンダー、パーソナリティを問題とする対立で内輪もめしている間に、危機が迫っている。米国内における「サージ」、つまりマケインの台頭は、ブッシュが去ったあともブッシュイズムが継続する可能性を示す。人種差別国アメリカは、早急には黒人をホワイトハウスの主とはしないだろう。女性にとっても不利な戦いだ。マケインの不戦勝となるかもしれない。これはさまざまな意味で、あり得るかぎり最悪の事態である。全候補者の中で、世界の平和にとってマケインより大きな脅威は、唯一ルディ・ジュリアーニだけだ。さいわい生来臆病なルディはアイオワ予備選から逃亡した。ニューハンプシャーに投じた200万ドルもキャンペーンに費やした時間もまったくむだになった。反戦を訴える共和党候補であるロン・ポールは、もっとも最近のネバダ、サウス・カロライナだけでなくほとんどの予備選挙でジュリアーニより上位であった。 
 
「ジョン・マケイン大統領」――この図を恐ろしいと思わないなら、こわがらせてあげよう。良識にも議会にも束縛されないマケインは、その激しやすい性格と狂信的使命感によって、たちまちわれわれを複雑な紛争に巻き込む。それは中東にとどまらないだろう。 
 
訳注1:ブッシュ2期目の就任演説では次のとおり。「私たちが解放者としての米国の伝統に従い行動したことで、これまでに数千万の人々が自由を獲得することができました。そして希望が希望を生むように、さらに何百万もの人々が自由を見出すことになるでしょう。また、私たちの努力で人々の心にともる火もともしました。その火はその力を感じる人々を暖め、その広がりを阻止する人々を焼き焦がし、そしていつの日か、鎮めることのできないこの自由の火は、世界の最も暗い片隅にまで届くでしょう」。(米大使館訳) 
 
訳注2:ウィルソン主義とは 「世界を民主主義のために安全にする」と述べて、世界戦争に介入・指導的立場をとったウィルソン大統領の政治思想と政策をさす。ウィルソンは第一次世界大戦をはさんで2期大統領職にあった。 
 
訳注3:マシュー・イグレシアスはアメリカのジャーナリスト、ブロガー。雑誌『アトランティック・マンスリー』記者。イグレシアスのサイト 
 
訳注4:アンドリュー・ベイスヴィッチはカトリックの保守派を自称する歴史家。ボストン大学教授。元軍人で息子が2007年にイラクで戦死。 
 
訳注5:AEIは共和党系のシンクタンク。 
 
原文: 
McCain and the Militarist Mentality 
His electoral comeback is an ill omen 
Jusitn Raimondo 
http://www.antiwar.com/justin/?articleid=12240 
 
(翻訳:TUP/池田真里) 


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