2008年02月28日16時14分掲載  無料記事
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自衛隊は生命、財産を守るのか イージス艦「あたご」の廃艦を 安原和雄

  海上自衛隊のイージス艦が漁船に衝突し、漁師の父子2人が行方不明になった事件は大きな波紋が広がっている。父子は行方不明のままで地元の漁協など関係者は2月25日捜索を打ち切らざるを得なくなった。この機会に自衛隊は本当に「国民の生命と財産を守ること」を任務としているのか、を考えたい。さらに衝突事件を起こしたイージス艦「あたご」の防衛上の役割は何か。「あたご」は必要な兵器なのか。廃艦にすべし、という説も飛び出していることを紹介したい。 
 
 私(安原)はブログ「安原和雄の仏教経済塾」の掲載記事、「いのちの外国依存は危険だ! 食と安全保障の自立を求めて」(2月22日付)でつぎのように書いた。 
 
 今回の衝突事件で「国民の生命、財産を守るのが任務の自衛隊なのに、いったいどういうことか」という批判の声が高まっているが、それは自衛隊に対しては、期待はずれに終わるだろう。 
 もともと軍隊には「一人ひとりのいのちを守る」という意識は希薄である。軍事力、兵器なるものは本来そういう特質をもっていることを今回の痛ましい事故に学ぶ必要があるのではないか。 
 
▽自衛隊の主たる任務は「国の安全」と「国の防衛」 
 
 上記の記事について以下のように補足しておきたい。 
 自衛隊法(自衛隊の任務などを定めた法律=2007年に最終改正)にはつぎのような趣旨の規定がある。 
 
〈自衛隊の任務〉 
*第3条=自衛隊はわが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。 
 自衛隊は武力の行使に当たらない範囲でわが国周辺の地域におけるわが国の平和及び安全の確保に資する活動等を行う。 
 
〈自衛隊の行動〉 
*第76条(防衛出動)=内閣総理大臣は外部からの武力攻撃に際して、わが国を防衛するため自衛隊の出動を命ずることができる。 
*第78条(命令による治安出動)=内閣総理大臣は間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の出動を命ずることができる。 
*第82条〈海上における警備行動〉=海上における人命もしくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、(中略)必要な行動をとる。 
*第83条〈災害派遣〉=都道府県知事は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため、部隊等の派遣を要請することができる。 
 
 以上から分かるように、自衛隊の主たる任務は「国の安全を保つのためのわが国の防衛」であり、そのための防衛出動である。 
 78条には治安出動の規定がある。この治安出動は、発動には至らなかったが、政府内で検討されたいきさつがある。それは岸内閣当時(1960年)、現在の日米安保条約の国会での強行採決に反対する国民的規模の反対抗議運動を治安維持の名目で抑圧しようというねらいを秘めていた。 
 「人命又は財産の保護」という文言は82条(海上での警備行動)、83条(災害派遣)などにみることができるが、これは自衛隊の主たる任務にはなっていない。 
 
▽【声明】イージス艦あたごを廃艦に! 
 
 「みどりのテーブル」(環境政党をめざす組織で、昨年7月の参院選東京選挙区で当選した川田龍平氏を支援した)の情報交換MLで以下のような抗議声明文「イージス艦あたごを廃艦に!」を入手したので、その要旨を紹介する。発信者は 杉原浩司氏(核とミサイル防衛にNO!キャンペーン)で、あて先は石破茂防衛大臣、首相官邸、自民党、公明党などである。 
 
【抗議声明】イージス艦なんていらない! 「あたご」を廃艦にせよ! 
 〜イージス艦あたごの漁船衝突事件と防衛省の情報隠しに抗議する 〜 
 
 (抗議文前半の漁船への衝突事件に関する部分は省略) 
 
 私たちは「そもそも日本にイージス艦は必要なのか」との根本的な問いを立てざるを得ない。排水量7750トンで国内最大の「護衛艦」であるあたごは、三菱重工長崎造船所で約1400億円もの巨費をかけて建造された。05年に進水、07年3月に就役し、「こんごう」型護衛艦4隻に次ぐ5隻目のイージス艦となった。最新イージスシステムを装備し、こんごう型以上の高度な防空戦闘能力を有するミサイル防衛(MD)対応艦だ。 
 
 日米で共同開発中の次世代型SM3の対応艦として01年度の「中期防衛力整備計画」で取得が示され、02、03年度で費用計上されたあたご型護衛艦の一番艦であるあたごは、単なる5隻目のイージス艦ではなく、MDの柱の一つである次世代SM3配備を前提 
とした海自護衛艦隊の再編の要に位置するものといえよう。 
 
 そもそもMDは「スパイラル(らせん状)開発」の名で未完成兵器を配備し、更新し続ける「利権まみれの偽装兵器」に他ならない。07年12月、こんごうが「成功」させたとされるSM3による迎撃実験も、1発20億円、総経費60億円もの巨費をかけて、発射施設や飛翔コースが分かっている模擬弾に命中させたに過ぎない。2015年の配備が予定される新SM3の日本負担の共同開発費は、2014年までの9年間で10億〜12億ドルに及ぶという。 
 
  また、新SM3は射程が伸びるため、ハワイやグアムを含む米国土に向かう弾道ミサイルの迎撃が想定されており、憲法が禁じる集団的自衛権の行使に踏み込むことが前提となっている。さらに日米の軍需産業は、共同生産した新SM3の輸出をにらみ、武器輸出禁止三原則の更なる破壊に向けた圧力を強めている。加えて、日米軍事再編の進行の中で、あたごは米海軍との共同軍事作戦にのめり込む恐れが高い。その先にあるのは他国民の 
殺傷である。私たちが未来を透視し、今ここで止めなければ、あたごは憲法9条をも「轟沈」するだろう。 
 
 莫大な税金を浪費して、先制攻撃を促進し、憲法や産業のあり方にも変更を迫る次世代型SM3。それを搭載するあたご型護衛艦隊。それらが、民衆の生活を脅かすものであることを、今回の「衝突」は予兆している。 
 
 防衛省・自衛隊は、今回の衝突事件を真摯に反省し、次世代型SM3の共同開発やその配備を前提とした護衛艦配備計画そのものを取り止めるべきである。軍産疑獄の帳本人である守屋前次官が主導したMD推進政策そのものも見直すべきである。さらに見逃せないのは、今回の事故を口実とした、背広・制服組の一体化を柱とする防衛省再編の企てである。3月にも設置される「法制検討チーム」(仮)は、海外派兵恒久法やサミット(7月の洞爺湖サミット)警備を口実とした「対テロ」軍事化をも協議するという。「盗人猛々しい」とはこの事である。「自動操舵」状態で軍備強化へと突き進む福田政権に対して、私たち自身が手動で強く、脱軍事化へと舵を切らなければならない。 
 
 私たちは福田政権および防衛省・自衛隊に対して、改めて以下を要求する。 
 
1.重大事故と情報隠しの責任を取り、石破防衛大臣は辞任せよ。 
 防衛省・自衛隊は全ての情報を開示せよ。 
2.イージス艦やMDは日本に必要なく税金の無駄。 
 MDから撤退し、違憲艦となる「あたご」をまず廃艦にせよ。 
3.戦争できる自衛隊を目指す防衛省再編を中止せよ。 
 防衛省・自衛隊は解体に向けて縮小を。 
 
  2008年2月26日 核とミサイル防衛にNO!キャンペーン 
 [連絡先](TEL・FAX)03-5711-6478 
(E-mail)kojis@agate.plala.or.jp 
http://www.geocities.jp/nomd_campaign/ 
 
▽憲法9条の「轟沈」を目指すイージス艦 
 
 イージス艦(注)の兵器としての危険な役割に関する抗議文の要点は以下のようである。 
 (注)イージス艦とは 
 目標の捜索、探知、分類識別、攻撃までの一連の動作を高性能コンピューターによって自動的に処理するイージス(Aegis=盾)防空システムを備えた最新鋭の艦艇。レーダー、ミサイルと組み合わせて一体的に運用される。海上自衛隊は現在5隻のイージス艦を保有している。 
 
*あたご型護衛艦の一番艦であるあたごは、単なる5隻目のイージス艦ではなく、MD(ミサイル防衛)の柱の一つである次世代SM3(最新の海上配備型迎撃ミサイル)配備を前提とした海自護衛艦隊の再編の要に位置する。 
 
  〈安原のコメント〉MDを口実にした護衛艦隊の質的変化 
 従来の「こんごう型」4隻のイージス艦とは異質のミサイルなどの性能を持つ最新鋭艦第1号だということ。目指すものは、MDを口実にした海上自衛隊護衛艦隊の質的変化だろう。 
 特記する必要があるのは、こうした計画的な質的変化はすべて政府の安全保障会議や閣議で決定し、それに基づいて進められていることである。自衛隊の制服組が独断で進めている話ではない。 
 
*MDは、未完成兵器を配備し、更新し続ける「利権まみれの偽装兵器」に他ならない。2015年の配備が予定される新SM3の日本負担の共同開発費は、2014年までの9年間で10億〜12億ドル(1100億円〜1300億円)に及ぶ。 
 莫大な税金を浪費して、先制攻撃を促進し、憲法や産業のあり方にも変更を迫る次世代型SM3。それを搭載するあたご型護衛艦隊。それらが、民衆の生活を脅かすものであることを、今回の「衝突」は予兆している。 
 
  〈コメント〉やがて「民衆の生活」が標的に 
  「衝突」は何を予兆しているのか? やがて「民衆の生活」そのものが総体として標的になるということだろう。「国民の生命と財産を守る」どころの話ではなく、それとは180度逆の事態が着実に進行しつつあることを軽視してはならない。 
 
*新SM3は射程が伸びるため、ハワイやグアムを含む米国土に向かう弾道ミサイルの迎撃が想定されており、憲法が禁じる集団的自衛権の行使に踏み込むことが前提となっている。さらに日米の軍需産業は、共同生産した新SM3の輸出をにらみ、武器輸出禁止三原則の更なる破壊に向けた圧力を強めている。 
 加えて、日米軍事再編の進行の中で、あたごは米海軍との共同軍事作戦にのめり込む恐れが高い。その先にあるのは他国民の殺傷である。今ここで止めなければ、あたごは憲法9条をも「轟沈」するだろう。 
 
  〈コメント〉ミサイル主導型の9条改悪 
 「憲法9条の轟沈」とは、的を射た表現である。新型ミサイルの開発とその装備にともなって確実に平和憲法9条の空洞化あるいは改悪が元に引き返せない距離にまで進む危険が強まっている。これはミサイル主導型の9条改悪とでも表現できよう。突如退陣した安倍前首相が目指していた路線そのものの再現といえないか。 
 「世界の宝」と海外でも評価の高い9条を「轟沈」させてはならない。世界的な大損失となる。各々(おのおの)方、油断めさるな! 
 
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載で。 
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